187 / 226
第三章
83. 帰郷
しおりを挟む
今回のお茶会でチェルに好感を抱いてくれた人はどのくらいいるのだろう。一度のお茶会で全員が好感を抱くということは無いのではないかと思う。それでもポスターでしか見たことのなかったチェルという存在を目の当たりにしたことで、想像の印象ではなくリアルな印象を抱くことが出来たはずだ。その結果、公爵夫人のように好感を抱いてくれた人が一人でも増えてくれたことはこのお茶会が大成功だったという証だろう。
チェルとヘイゼル公爵家の関係がこのままずっと続いて行けばよいと思う。ヘイゼル公爵家の手の中に入れば、少なくとも他の人間に脅かされることは無いはずだ。そして何より、今までのような寂しさは無くなるはず。
チェルはヘイゼル公爵家の門を出るところでこちらを振り返ると短い手を目一杯振った。その小さな姿にチェルの幸せを願って止まない。
「して、レイ。君は目的であったチェルシー鳥の涙を手に入れた。もうこの屋敷の用はないのだろう?」
「はい、明日には発とうと思います。」
「うむ、よかろう。どこへ行くのかは分からんがガルシアへは行くな。私の口からは今はそれしか言えないが、いずれ分かる。」
その言葉には質問を許さない強さがあった。
「わかりました。ご忠告ありがとうございます。」
レイとルカが部屋に戻り私は残ってお茶会の後片付けをしているとサリア嬢が寄ってきた。
「ライファさん、お茶会のお菓子とても美味しかったです。先日のお茶会の時もとても美味しいお菓子だったのに私、あまり良い態度ではなくて・・・。ごめんなさい。」
以前、ジンさんと行うはずだったお茶会でのことだろう。あの日のことを今まで気にしていたのだろうか。その時間を思うとこっちこそ申し訳ないような気持になる。
「お気になさらないでください。お菓子、気に入っていただけてとても嬉しいです。」
「・・・私、あなたに嫉妬していたの。レイ様と・・・その・・・。とても仲がよろしいから。」
サリア嬢は敢えて愛人という言葉を使わずに言った。私は何と答えたらよいのか分からず、少し微笑むことでその場をやり過ごす。
「父上や母上に言われてレイ様と婚約できたらって私もすっかりその気になってしまって。でも、レイ様にはっきりと振られてしまいました。レイ様、あなたと一緒にいたいから貴族の地位を捨てるつもりだとまでおっしゃられて。」
「え?」
「私、ライファさんのように愛されたいと思いました。レイ様と無理やり婚約したところでレイ様の心は私の手には入らないから。人の心はどうにもなりませんもの。」
「・・・そう、ですね。」
「お話できてよかったです。嫉妬していたとはいえあのような態度をとってしまったことを恥じておりましたの。素敵なレディになる為には間違った行いはちゃんと謝るべきだと父上に言われておりますのよ。」
「そうなのですね。素敵な教えです。謝っていただいたのでもう大丈夫です。本当にお気になさらないでください。」
「ありがとう。道中、お気をつけて。お二人の幸せを祈っております。」
「ありがとうございます。」
去っていくサリア嬢の後姿を微笑んで見つめながら、内心は動揺していた。私のためにレイが貴族の地位を捨てる?ダメだ。そんなことだめだ。レイが貴族の地位を捨てるということは、あの素敵で温かなジェンダーソン家からレイを奪ってしまうことに他ならない。そんなこと許されるわけがない。
レイが他の誰かと婚約するのは嫌だと思っていた。今でもそう思う。でもだからといってレイが貴族の地位を捨てることなど望んではいないのに。
じゃあ、私はレイに何を望んでいるのだろう。何を・・・。
どうしよう・・・。答えの出ないまま私は片づけを続けた。
ヘイゼル公爵の言葉の意味は夕方には分かることになった。師匠とのリトルマインでだ。リトルマインはルカが食事中にレイの部屋でつないだ。
「チェルシー鳥の涙、受け取ったぞ。よくやったな。」
「はい、頑張りました!あと7個手に入ったのでそれもバッグに入れておきますね!」
「次の薬材だがな、欲しい物があるにはあるのだが一度帰ってこい。」
「何かあったのですか?」
先ほどのヘイゼル公爵の言葉が気になっているのだろう。レイが神妙な面持ちで尋ねた。
「フランシールとガルシアの間で戦争が起こる。」
「どうして!?グショウ隊長のお蔭で戦争は回避したはずではないですか!師匠!!」
「そう大きな声を出すな。ライファ、火種はな、ひとつとは限らないのだ。どんなに抑えても消しても燻っている熱がある以上、簡単に争いは起こってしまう。」
「そんな・・・。」
戦争になれば人は死ぬ。多くの人が死ぬ。あのターザニアの時のように。
ざわざわと胸騒ぎがしていた。
逃れようもない大きなうねりが世界を飲み込もうとしている。
言葉を失った私の手をレイがぎゅっと握った。
「私たちにできることをしよう。小さな一歩でもその歩みが希望へとつながるかもしれないから。」
「うん。そうだね。そうだ。」
レイの手を強く握り返した。
チェルとヘイゼル公爵家の関係がこのままずっと続いて行けばよいと思う。ヘイゼル公爵家の手の中に入れば、少なくとも他の人間に脅かされることは無いはずだ。そして何より、今までのような寂しさは無くなるはず。
チェルはヘイゼル公爵家の門を出るところでこちらを振り返ると短い手を目一杯振った。その小さな姿にチェルの幸せを願って止まない。
「して、レイ。君は目的であったチェルシー鳥の涙を手に入れた。もうこの屋敷の用はないのだろう?」
「はい、明日には発とうと思います。」
「うむ、よかろう。どこへ行くのかは分からんがガルシアへは行くな。私の口からは今はそれしか言えないが、いずれ分かる。」
その言葉には質問を許さない強さがあった。
「わかりました。ご忠告ありがとうございます。」
レイとルカが部屋に戻り私は残ってお茶会の後片付けをしているとサリア嬢が寄ってきた。
「ライファさん、お茶会のお菓子とても美味しかったです。先日のお茶会の時もとても美味しいお菓子だったのに私、あまり良い態度ではなくて・・・。ごめんなさい。」
以前、ジンさんと行うはずだったお茶会でのことだろう。あの日のことを今まで気にしていたのだろうか。その時間を思うとこっちこそ申し訳ないような気持になる。
「お気になさらないでください。お菓子、気に入っていただけてとても嬉しいです。」
「・・・私、あなたに嫉妬していたの。レイ様と・・・その・・・。とても仲がよろしいから。」
サリア嬢は敢えて愛人という言葉を使わずに言った。私は何と答えたらよいのか分からず、少し微笑むことでその場をやり過ごす。
「父上や母上に言われてレイ様と婚約できたらって私もすっかりその気になってしまって。でも、レイ様にはっきりと振られてしまいました。レイ様、あなたと一緒にいたいから貴族の地位を捨てるつもりだとまでおっしゃられて。」
「え?」
「私、ライファさんのように愛されたいと思いました。レイ様と無理やり婚約したところでレイ様の心は私の手には入らないから。人の心はどうにもなりませんもの。」
「・・・そう、ですね。」
「お話できてよかったです。嫉妬していたとはいえあのような態度をとってしまったことを恥じておりましたの。素敵なレディになる為には間違った行いはちゃんと謝るべきだと父上に言われておりますのよ。」
「そうなのですね。素敵な教えです。謝っていただいたのでもう大丈夫です。本当にお気になさらないでください。」
「ありがとう。道中、お気をつけて。お二人の幸せを祈っております。」
「ありがとうございます。」
去っていくサリア嬢の後姿を微笑んで見つめながら、内心は動揺していた。私のためにレイが貴族の地位を捨てる?ダメだ。そんなことだめだ。レイが貴族の地位を捨てるということは、あの素敵で温かなジェンダーソン家からレイを奪ってしまうことに他ならない。そんなこと許されるわけがない。
レイが他の誰かと婚約するのは嫌だと思っていた。今でもそう思う。でもだからといってレイが貴族の地位を捨てることなど望んではいないのに。
じゃあ、私はレイに何を望んでいるのだろう。何を・・・。
どうしよう・・・。答えの出ないまま私は片づけを続けた。
ヘイゼル公爵の言葉の意味は夕方には分かることになった。師匠とのリトルマインでだ。リトルマインはルカが食事中にレイの部屋でつないだ。
「チェルシー鳥の涙、受け取ったぞ。よくやったな。」
「はい、頑張りました!あと7個手に入ったのでそれもバッグに入れておきますね!」
「次の薬材だがな、欲しい物があるにはあるのだが一度帰ってこい。」
「何かあったのですか?」
先ほどのヘイゼル公爵の言葉が気になっているのだろう。レイが神妙な面持ちで尋ねた。
「フランシールとガルシアの間で戦争が起こる。」
「どうして!?グショウ隊長のお蔭で戦争は回避したはずではないですか!師匠!!」
「そう大きな声を出すな。ライファ、火種はな、ひとつとは限らないのだ。どんなに抑えても消しても燻っている熱がある以上、簡単に争いは起こってしまう。」
「そんな・・・。」
戦争になれば人は死ぬ。多くの人が死ぬ。あのターザニアの時のように。
ざわざわと胸騒ぎがしていた。
逃れようもない大きなうねりが世界を飲み込もうとしている。
言葉を失った私の手をレイがぎゅっと握った。
「私たちにできることをしよう。小さな一歩でもその歩みが希望へとつながるかもしれないから。」
「うん。そうだね。そうだ。」
レイの手を強く握り返した。
0
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる