【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI

文字の大きさ
188 / 226
第四章

1. 願望と犠牲

しおりを挟む
「滅んで二か月経つというのにまだ血の臭いがしますわね。ローザ様ったらどうしてターザニアなのかしら。」

瓦礫を避けながら待ち合わせ場所である王宮へ向かう。キヨたちが建てたローザの建物も見る影もなく瓦礫と化していた。

「一体どこへ行けばいいのかしら?」
「さぁ、魔力が高いのですからローザ様の魔力でも探したらどうですか?」
「それもそうね。ニコラウスには無理な芸当ですから私がやるしかありませんわ。」

目を閉じてローザ様の魔力を探す。高い魔力を探しているのだがアチコチに魔力の塊があり探し辛い。ローザ様が膨大な魔力を放出しているのならまだしも普段は魔力を抑えている。その為、似たような大きさの魔力があちこちで感じられるのだ。それに、魔力を使って探すという行為は苦手だ。

「ダメですわ。魔力があちこちに散らばっていて全然集中できない。」
「ふぅん、魔力が高ければ何でもできるというわけではないのですね。」

ニコラウスに言われてイラッとする。

「完璧に見える私にだって苦手なことはあります。」
「ふん。」

ニコラウスが馬鹿にしたように口元を歪めた。平民の癖になんて態度だろう。イライラする。

「お帰りなさいませ、レベッカ様。ニコラウス様。」
少しぼーっとした様子のトーゴが現れた。

「久しぶりね、トーゴ。ローザ様はどこ?」
「案内するように仰せつかっております。」

トーゴに案内されたのは王宮の地下だ。陛下の部屋と思われる場所から地下に下り、そのまま真っ直ぐに歩いて行く。地下は魔獣の侵入の形跡がなく壊れておらず、あちこちに魔法陣の痕跡を感じる。きっと王家に伝わる結界を幾重にも張っていたのだろう。

「ローザ様が結界を破っておりますのでその魔法陣たちが悪さをすることはありません。ご安心ください。」

奥の扉を開けると研究室のような青白い空間にローザ様が立っていた。

「レベッカ、ニコラウス、お帰りなさい。幽玄の木は手に入れましたか?」
「はい、この通りです!ニコラウス、ローザ様にお見せして。」

ニコラウスが幽玄の木を見せるとローザ様は満足げに微笑んだ。

「これで研究が進みますね。ニコラウスはこの研究室を使いなさい。レベッカ、あなたはこちらの部屋へ。」

ローザ様が隣の部屋を空けるとそこには見知った魔法陣があった。ローザ様の為に新しく建てたあの建物にあった魔法陣と同じものだ。

「レベッカ、あなたにはまたここに魔力を注いでもらいます。前回の物より小さな魔法陣ですしそんなに時間はかからないと思いますよ。」

「あの・・・、ローザ様、私、今までローザ様のお役に立ってきたと思います。そろそろレイ様を手に入れる為にお手伝いいただけないでしょうか。」

レイ様と別れてからずっと考えていた。あの女から早くレイ様を救い出さなくては、と。あの森でのレイ様の言動、あの女に支配されているのだ。ずっと会いたいと焦がれていたレイ様。一日たりとも忘れたことはなかったが出会った瞬間に鮮やかに初めてデートした日が蘇った。一刻も早くレイ様を手に入れたい。もしローザ様がこのままレイ様を放置するならば、ここを出てどこかの調合師に金を積めばいい。

「くす、レベッカ。他の調合師に頼んだところでレイを思い通りにする薬など作れませんよ。」
私の心を見透かしたようなローザ様の言葉に驚いてローザ様を見つめた。

「それに、あなたは私の許可なく私の元を離れることなど出来ないのですよ。」
「どういうことですか?」

ローザ様は綺麗な笑みを浮かべると一つのドアを指差し、ドアを開けた。途端に流れ込んでくる獣の臭い、低い唸り声。おそるおそるドアに近付き部屋の中を覗いた。

「ひっ!!」

暗い部屋の中で目が光ったのだ。一匹だけではない。数十匹いる。

「ターザニアを滅ぼした魔獣ですわ。ガルシアでもこうして育てていたのですよ。その魔獣をあなたが魔力を注いだ魔法陣でターザニアに転送したのです。ターザニアを滅ぼしたのはあなたですのよ。」

「そんな・・・。私、知らない。何も知らなかったのよ!」

「知らなかったでは済ませられない程、多くの人を殺しましたわね。私が少し手を加えるだけで、世界中にあなたが主犯だと思わせることも可能なのよ。」

「ローザ様っ!」

「頭の良いあなたならどうするべきか分かるわよね。私の手の中にいるのならレイも与えましょう。あなたに危害が及ばないように守ってもあげるわ。だから、ちゃんと良い子で協力しなさい。」

ローザ様はそう言って私の頭を撫でた。
私はなんてことをしたのだろう。このままローザ様を手伝えばもっと多くの人間を殺すかもしれない。


でも待って。
私には危害が及ばないように守ると言って下さっているではないか。それにレイも私に与えてくれると言っている。

平民なんぞいくら死のうがどうでもよい。貴族が死んだらそりゃあ気の毒にも思うが。私がローザ様に手を貸していることがバレなければいいのだ。

「レイ様を本当に私に与えてくださいますか?」
「えぇ、この魔法陣が完成したらレイをあなたに与えましょう。」

ゴクッと喉が鳴ってしまうかと思った。あのレイ様が私の名を呼び優しく私に触れる。私に愛を語るのだ。もうすぐ、もうすぐ。

「分かりました。ローザ様に協力致します。」


それからはガルシアで過ごしていたのと同じ日々が始まった。魔法陣に魔力を注ぎ、ニコラウスの元で薬の調合を手伝う日々だ。

「今回は魔獣を小さくして運ぼうと思ってね。その方が魔法陣も小さくて済む。」
ニコラウスの言葉に、ふぅん、と声を出した。

「そんなことよりも、レイ様用の薬、ちゃんと出来るのでしょうね?」

「そうですね、今の薬は幽玄の木の効果を足しても生存日数はせいぜい3日でしょうね。ちゃんと実験していないからあくまで予測ですが。」

「あなたは馬鹿ですか!せっかく想いか叶っても3日で死なれては困ります!そんな薬をレイ様に飲ませるなどと・・・。」

「あぁ、だから改良してあげますよ。要はあなたに惚れる薬が欲しいのでしょう?それならば何もこの薬を飲ませる必要はない。ベースはこの薬だが催眠系の作用を減少させ、代わりに忘却効果を足します。」

「どういうことです?」

私が聞き返すとニコラウスはため息を吐いた。その行動にイラつき、このまま罵倒してやろうと思ったが今はレイ様の薬の方が大事だ。どんなにいけ好かない男でも、レイ様の薬を作るのはこの男なのだから。

「忘却の薬をまぜることで一年か、数か月かの記憶が失われます。執着する対象の記憶を失えば惚れ薬の効きも格段に上がるでしょう。」

レイ様がライファを忘れる!?あの忌々しい女を忘れる!なんて素晴らしいのだろう。

「いいですわね。楽しみにしておりますわ。」



そして魔法陣が完成した日、私はローザ様と共にガルシアのダーナン村にいた。冷たい夜風が肌を突き刺す。月に照らされた草は私の背丈を遥かに越えガサリと音を立て、顔を覗かせた虫が巨大な化け物のように見えた。虫に襲われるのではないかという恐怖に急いでニコラウスから渡されていた白い錠剤を口に含み噛み砕く。メキメキメキっと骨が伸びる音がしていつもの大きさに戻った。

「レベッカ、準備はいいですか?」
「はい。」

ローザ様が合図をすると魔法陣の中から小さな魔獣が5体現れた。その魔獣にローザ様が薬を飲ませ声をかける。

―ここから西へ1キロのところにダーナン村があります。ダーナン村の村人を全滅させなさい。

言葉と一緒にイメージを伝えているのだろう。ローザ様は目を閉じ、ふわりとした魔力を魔獣たちにかけた。そしてニコラウスから貰った白い錠剤を飲ませると、魔獣はメキメキと音を立てて大きくなり、大きくひと鳴きすると低い唸り声を上げて走り出した。

「レベッカ、私たちも参りますよ。」

ローザ様が自身と私に魔法をかける。すると綺麗だった洋服は平民のボロボロになった服へと変わり、体のあちこちに傷ができた。

「これを塗りなさい。」
ローザ様が出したのは魔獣の血だ。触れるのも嫌で一度は顔を背けたがレイ様を思い、血を体に塗った。

「手筈は分かっていますね。」
「はい。」

ローザ様に頷くと私も走った。これからたくさんの人が死ぬ。だがそれよりもこの夜が終わればレイ様を手に入れられるという喜びのほうが勝る。夜が最も暗い闇を従えていた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

処理中です...