【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

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第四章

25. 降り注ぐ記憶

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帰宅すると恒例のチョンピーが飛んできた。恒例の、と言ってもレベッカは気まぐれでこちらの都合などお構いなしだから、昼夜問わずチョンピーは飛んでくる。

はぁ。

封を開ければいつものように小さなレベッカが出てきて、レイ様、と口を開いた。

「レイ様にお会いできなくてレベッカは寂しく思っております。早くレイ様の正式な婚約者となって皆に認めて貰いたい、レイ様も同じお気持ちだと信じております。そうだわ、私がユーリスアに戻ったら婚約パーティーを開きましょう?きっと父上も喜びますわ。レイ様、愛しています。」

レベッカが私にお辞儀をして微笑んで消えた後、私は口元を押さえたまま立ち尽くした。
あんなに愛しいと思っていた気持ちが微塵も湧いてこない。それどころか嫌悪感すらある。

「どういうことだ?」

今までのレベッカの行動を思い出してみてもどこにレベッカに惚れる要素があったのかと思う程だ。

「惚れ薬か・・・。」

ギリッと歯を噛みしめる。一体いつ、どこで薬を?思い出そうとしても、怪我をした以前の記憶が思い出せない。イライラと足早に部屋の中を歩き回っていると鏡に映った自身と目が合った。

「この髪紐・・・。」

触れた瞬間、くすぐったさと嬉しさがこみ上げてギュッと胸が締め付けられる。
思い出したい。私はきっと大切なことを忘れているに違いない。

コンコン

「レイ様、料理長からの差し入れをお持ちしましたがお時間宜しいですか?」
「差し入れ?」

扉を開けるとエリックがティーセットを持って立っていた。

「料理長が差し入れとは珍しいね。」

エリックを部屋に通しながら話しかけるとエリックがふふっと笑った。

「ライファ様に教えていただいたレイ様の好物ですからね。早くレイ様に食べて欲しかったんですよ。」
「そうか。ありがたいな。」
「では私はこれで。」

お茶の用意を終えたエリックが部屋を出ていく音を感じながらクッキーを一枚口に入れた。サクッと口の中に広がる食感か心地よい。

クッキーと言って、それはそれは美味しいお菓子なのですよ。
突然、ふっと湧いた声に思わず固まる。

カレッチャを混ぜたクッキーも入ってるぞ。好きなんだろ?

映像と声が重なって、いくつもの場面が蘇る。そこからは記憶を押しとどめていたものが決壊したかのような記憶の洪水の中にいた。

私、レイがもう無理だって言うまで一緒にいようと思う。
・・・好きだ。どうしたらいいかわからないほど。


愕然とした。


「ライファ・・・、ライファ。どうして私は忘れていたのだろう。」

記憶と共にライファを愛おしいと思う感情が溢れ、顔を手で覆った。空白の一年の記憶が回路に組み込まれ正しく記憶が繋がっていく。その先にあったのはライファがいないという事実だ。

レベッカがローザと繋がっていることは間違いない。レベッカとニコラウス、お互いに良い印象を持っていない二人がフランシールの森にいた。ニコラウスもローザと繋がっていると考えるのが自然だろう。ルカがライファはニコラウスと一緒に行動していると言っていた。脅されているわけではないとは言っていたが・・・。

ローザとライファの距離が近い。 それだけ危険な位置にいるということだ。
たまらずリトルマインを手にすると魔力を通した。

「ライファ?リベルダ様!マリア様!!誰か聞こえますか!!!」
呼び続けて数分経った時、騒がしいな、という呟きが聞こえた。

「リベルダ様!!」
「ライファの部屋から魔力を感じると思って来てみればレイか。」
「リベルダ様、全て思い出しました。失っていた記憶の全てを。」

「そうか、それは良かったな。」
「ライファを連れ戻しに行こうと思っています。」
「へぇ、むざむざと死にに行くのか?」

「そういうわけでは・・・。ライファは今、とても危険な位置にいる。私たちの誰よりもローザに近い。危険すぎます!」

「だからなんだ。そんなことは本人が一番よく分かっているだろう。何の策も持たないお前がライファの元へ行ったところでライファの計画の邪魔にしかならんぞ。」

「それは・・・。」

「落ち着けレイ。ライファはあれでも私の弟子だぞ。魔力差は頭を使って補えと教え込んでいる。お前のお守りもあるし、簡単には死なないさ。もうじき対魔獣用の薬が完成する。私たちが動くのはそれからだ。今は辛抱しろ。」

「・・・はい。」

リトルマインの接続を切った後、思わず机を叩いた。音が虚しく部屋に響く。

自分はなんて不甲斐ないのだろう。ライファがたった一人で最前線にいるというのに私はその間、何をしていたというのだ。情けなさに視界が歪んだ。ポタっと手に雫が落ちる。

泣いても何も変わらない。そんなことは分かっている。泣いている暇があるなら少しでも強くならなくては。そう思っていても流れるものを止めることは出来なかった。







「今頃、レイは記憶が戻っているかもね。」
「え?」

「何も不思議なことは無いでしょ。惚れ薬と忘却薬は相乗効果があったんだから。レイは君のことを忘れたからこそレベッカに惚れたわけだし、レベッカに惚れたからこそ記憶を呼び起こせなくなったんだから。」

ローザのいるターザニアへ向かう為、オルヴ行きの長距離馬車に乗っていた。

「君はレイに戻ってきて欲しいと言われたらどうするの?」

「どうするも何も。ニコラウスさんと一緒にいるって約束しましたから。これが終わったらどこか旅に出ませんか?私、旅をして美味しいものをたくさん食べて、作りたい料理を作る。そういう日々に憧れていたんですよね。」

「くす、君の頭の中は美味しい食べ物が中心にあるんだね。」
「否定はしません。ニコラウスさんは何がしたいんですか?」

「私は調合かな。研究がしたい。」

「じゃあ、数か月単位で各地を転々とするのがいいかもしれないですね。きっと珍しい薬材にも出会えますよ。」
「あぁ、それは楽しみだね。」

心の中にある小さな迷いのようなものは敢えて見ないことにした。少し先の明るい未来だけ描く。ほんの少しの間の休息だ。オルヴに着けばターザニアが見える。嫌でも向き合わなければいけない現実。一瞬でも目を逸らせば、死ぬのは自身だけでは収まらないのだ。

 コトコト、コトコト揺れていた馬車が停まり御者がオルヴに着いたことを知らせた。時間は20時。着いてすぐに保存のきく食料を買い込むとターザニア行きの船が出ていた港へ向かった。ターザニアまで船を出してくれる人物を探したが、行先を言うと皆怪しむような視線を向け断ってくる。相場の倍の料金を払うと約束すると6人目でようやく船を出してくれる人物が見つかった。

「丁度フランシールへ荷物を届けるところなんだ。ターザニアに寄ってあげるよ。一時間後には出航するけど、それでいいかい?」

「えぇ、急いでいるのでむしろ助かるくらいです。」
ニコラウスさんの言葉に同調するように私も頷いた。

「そりぁついてるねぇ。何も準備がないってなら船に乗っていてもいいよ。適当に座ってな。」
「ありがとうございます。」

船に乗り込んで直ぐの広い空間の隅に陣取ると、壁に背中を預けて座った。不安そうに大きな目を向けるベルを膝に座らせて頭を撫でる。

「少しでも危険だと感じたら飛んで逃げるんだよ。魔獣は人間以外は襲わないから大丈夫だと思うけど。」

ベルが小さな声でキュウ、と鳴いた。

「いい?ターザニアに着いたら君は港の付近で身を潜めているんだよ。君が見つかってしまっては計画が水の泡だからね。私は君と別れてローザの元へ行く。計画が上手くいったらチョンピーで知らせる。」

「分かりました。」

船がターザニアに向かって出航した。暗い海を僅かな灯りを灯しながら突き進んでいく。その姿は自分たちの今の姿を現しているかのようだった。


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