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第四章
38. 道
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「ライファ、出かけるのか?」
「はい、夕方までには帰ります。って師匠、もうお昼過ぎてますよ。」
師匠は着替えてはいるものの明らかに寝起きの顔をしていた。
「昨夜ちょっと飲み過ぎてな。いやー、移動魔法陣がユーリスアに繋がっていると移動が楽ちんで良い。」
きっと昨晩はユーリスアの街の人に成りすましてBarにでも飲みに行ってきたのだろう。
「師匠、ユーリスアまでの移動魔法陣は塞ぐのではなかったのですか?確か、国王と約束していましたよね?」
「んー?そうだったかな?さて、私はご飯でもいただこう。」
師匠はすっとぼけたように呟くと私に背を向けた。
「ライファ、レイと会うんだろ?女は我儘言って相手を少し困らせるくらいが可愛いんだ。」
「なんですか、それ。私はレイを困らせたりしませんよ。」
「はぁ、ったく。素直になれってことだよ。」
師匠が早く行けというように手を動かしたので、そのまま家を出た。レイとは魔女の結界の外で待ち合わせてある。なんだか変な緊張感を抱えたままスージィの結界をくぐると落ち着かなそうにウロウロしているレイが視界に入った。ウロウロ歩いているレイが珍しくてそのまま見ていると、私に気が付いたレイが軽く手を上げた。
「ライファ、久しぶり。」
「うん、怪我はどう?」
「あぁ、騎士団に戻った途端、医務室長にグイグイと治療されたよ。お蔭ですっかり良くなったけど、あの治療はもう受けたくないな・・・。」
ゲッソリとした表情をしてみせたレイを見てクスクスと笑った。
意外と大丈夫、ちゃんと話せそうだ。
「乗って。ちょっとさ、ピクニックに行こうよ。」
「え、でも私、何も用意してないよ。」
「大丈夫、大丈夫。」
レイに促されて飛獣石に乗ると連れて行かれたのはここから少し離れた森の中だ。凍てつく程の寒さのはずなのにその森に入った途端、ふわっと空気が優しくなりレイが案内した場所は上着がいらないのではないかと言う程温かかった。
「ここ冬なのに暖かい・・・。」
「でしょ。空間の歪みの影響かな。ごくたまにこういう場所が出現するんだよ。あ、別空間に吸い込まれたりはしないから安心して。」
レイはそういうとリュックから布を取り出して敷き、座る様に促した。
「料理長に作って貰ったんだ。」
レイが置いたのはクッキーだ。鮮やかな赤が表面に塗られており、しかも立体的だ。さすがは料理長。私が教えたものよりも数段レベルアップしている。
「凄い、きれい。」
「でしょ。はい、お茶。」
「あ、これ前にレイの家に行った時に飲んだやつだ。」
「覚えていた?」
「うん、この花の香り好き。」
口の中に含めば今が冬だということをすっかり忘れてしまう。こうして目を閉じていると花畑の中にいると勘違いしてしまいそうだ。
「ライファ。」
「ん?」
目を開けると真剣な顔をしたレイがいた。
「ライファに謝らなければとずっと思っていたんだ。レベッカとのこと、いくら薬のせいとはいえ本当にごめん。」
「謝らなくてもいい。薬のせいだし仕方がないよ。気にしてないから大丈夫。」
「本当?」
レイが真剣な表情を崩さないまま尋ねる。気にしていないなんて嘘だ。レイの手がレベッカに触れたのかと思うと今でも心が乱れてしまう。けれどそれを伝えても過去は変わらないし、ましてや私はこの先の未来を決めかねている。
「本当だよ。」
「それってもう私のことは好きではないってこと?」
質問しておきながらレイが私の答えを聞きたくないかのように視線を外した。
「それは・・・。」
「あ、待って。待って。やっぱりまだ言わないで。私がライファのことをどう思っているのかちゃんと伝えさせて欲しい。」
レイが私を見た。その目は自信に満ちたものではなくどこか不安げだ。
「ライファが好きだ。出会った時からずっとその想いは変わらない。ジェンダーソン家を出てライファと一緒に生きていきたい。」
「レイ、それはだめだよ。レイは位の高い貴族で私は平民。・・・身分が違いすぎる。それに、ジェンダーソン家を出て私と生きるということは貴族の地位を捨てるということでしょう?・・・レイの家族が悲しむよ。」
「実はもう家族には話してある。説得して許して貰った。」
「どうして!!貴族じゃなくなったら今までよりきっと不自由なことも増えるよ。」
「そんなことはライファと一緒にいられるなら大した問題じゃない。」
「きらびやかなパーティーにだって行けないし、豪華な食事も食べられないよ。」
「うん、それよりもライファと一緒にいる方がいい。」
レイが優しく笑う。
「後悔・・・するかもしれないよ。」
「それは歩いてみないと分からないことだから私は今の自分の気持ちに素直になりたいんだ。」
素直に・・・。
レイが言葉を続ける。
「私はこの先にあるかもしれない不安や困難よりも、ライファがいない未来の方が恐い。」
レイが幸せでいてくれればと思っていた。レイの幸せを勝手に私が決めて、レイの元から去るべきだと・・・。
「レイは私といると幸せなの?」
「うん、そうだよ。」
「じゃあ、私はレイと一緒にいることを諦めなくても・・・いい?」
最後の方は声が震えてしまった。レイはそんな私を見つめるとゆっくり立って正面から私を抱きしめた。
「一生、諦めなくていい。」
耳元に聴こえるレイの声も少しだけ震えていて、同じなんだと思った。
レイの体が一度離れ、レイと目が合う。綺麗なレイのブラウンの目が少し潤んでいるような気がした。そして角度を変えたレイの顔が近づけば自然と目を閉じていた。
「ん・・・。」
触れた部分から愛おしさが満ちてゆく。あるべき場所に戻る様なそんな感覚に自然とつながりが深くなった。
このまま離れたくない。
フワフワした気持ちのままいると、不意にレイが少し唇を離した。
「もっと・・・。」
言葉にしたとたん、グイッと一気に体を離される。
「ライファ、頼むからここでそんな風に煽らないで。」
私から顔を逸らしたレイが真っ赤な顔をしていて、そこで初めて自分がなんか凄いことを言ったのだと自覚した。
「いや、その、煽ったわけじゃなくて・・・、あの、その、そういうつもりじゃ。」
しどろもどろになって弁明しようとしたのだけれど、どんどん恥ずかしくなって結局両手で顔を隠すしかなかった。そんな私を見てレイが声を上げて笑う。近くでこの暖かさを春だと勘違いした鳥が楽しそうに歌っていた。
「ねぇ、旅に出ようか。いつか話していたライファの夢、叶えに行こうよ。」
「騎士団は?」
「騎士団は貴族しかなれないからなぁ。晴れて自由の身だ。貴族じゃなくなった自分にどんなふうに世界が見えるのか、見てみたいんだ。」
「いいね、それ。・・・うん、すごくいい。」
どちらからともなく手をつないだ。
「どこに行こうか。」
「ん~、ここから一番遠いところかな。」
先ほどまで歌っていた鳥が何の躊躇いもなく飛び立った。
Fin.
「はい、夕方までには帰ります。って師匠、もうお昼過ぎてますよ。」
師匠は着替えてはいるものの明らかに寝起きの顔をしていた。
「昨夜ちょっと飲み過ぎてな。いやー、移動魔法陣がユーリスアに繋がっていると移動が楽ちんで良い。」
きっと昨晩はユーリスアの街の人に成りすましてBarにでも飲みに行ってきたのだろう。
「師匠、ユーリスアまでの移動魔法陣は塞ぐのではなかったのですか?確か、国王と約束していましたよね?」
「んー?そうだったかな?さて、私はご飯でもいただこう。」
師匠はすっとぼけたように呟くと私に背を向けた。
「ライファ、レイと会うんだろ?女は我儘言って相手を少し困らせるくらいが可愛いんだ。」
「なんですか、それ。私はレイを困らせたりしませんよ。」
「はぁ、ったく。素直になれってことだよ。」
師匠が早く行けというように手を動かしたので、そのまま家を出た。レイとは魔女の結界の外で待ち合わせてある。なんだか変な緊張感を抱えたままスージィの結界をくぐると落ち着かなそうにウロウロしているレイが視界に入った。ウロウロ歩いているレイが珍しくてそのまま見ていると、私に気が付いたレイが軽く手を上げた。
「ライファ、久しぶり。」
「うん、怪我はどう?」
「あぁ、騎士団に戻った途端、医務室長にグイグイと治療されたよ。お蔭ですっかり良くなったけど、あの治療はもう受けたくないな・・・。」
ゲッソリとした表情をしてみせたレイを見てクスクスと笑った。
意外と大丈夫、ちゃんと話せそうだ。
「乗って。ちょっとさ、ピクニックに行こうよ。」
「え、でも私、何も用意してないよ。」
「大丈夫、大丈夫。」
レイに促されて飛獣石に乗ると連れて行かれたのはここから少し離れた森の中だ。凍てつく程の寒さのはずなのにその森に入った途端、ふわっと空気が優しくなりレイが案内した場所は上着がいらないのではないかと言う程温かかった。
「ここ冬なのに暖かい・・・。」
「でしょ。空間の歪みの影響かな。ごくたまにこういう場所が出現するんだよ。あ、別空間に吸い込まれたりはしないから安心して。」
レイはそういうとリュックから布を取り出して敷き、座る様に促した。
「料理長に作って貰ったんだ。」
レイが置いたのはクッキーだ。鮮やかな赤が表面に塗られており、しかも立体的だ。さすがは料理長。私が教えたものよりも数段レベルアップしている。
「凄い、きれい。」
「でしょ。はい、お茶。」
「あ、これ前にレイの家に行った時に飲んだやつだ。」
「覚えていた?」
「うん、この花の香り好き。」
口の中に含めば今が冬だということをすっかり忘れてしまう。こうして目を閉じていると花畑の中にいると勘違いしてしまいそうだ。
「ライファ。」
「ん?」
目を開けると真剣な顔をしたレイがいた。
「ライファに謝らなければとずっと思っていたんだ。レベッカとのこと、いくら薬のせいとはいえ本当にごめん。」
「謝らなくてもいい。薬のせいだし仕方がないよ。気にしてないから大丈夫。」
「本当?」
レイが真剣な表情を崩さないまま尋ねる。気にしていないなんて嘘だ。レイの手がレベッカに触れたのかと思うと今でも心が乱れてしまう。けれどそれを伝えても過去は変わらないし、ましてや私はこの先の未来を決めかねている。
「本当だよ。」
「それってもう私のことは好きではないってこと?」
質問しておきながらレイが私の答えを聞きたくないかのように視線を外した。
「それは・・・。」
「あ、待って。待って。やっぱりまだ言わないで。私がライファのことをどう思っているのかちゃんと伝えさせて欲しい。」
レイが私を見た。その目は自信に満ちたものではなくどこか不安げだ。
「ライファが好きだ。出会った時からずっとその想いは変わらない。ジェンダーソン家を出てライファと一緒に生きていきたい。」
「レイ、それはだめだよ。レイは位の高い貴族で私は平民。・・・身分が違いすぎる。それに、ジェンダーソン家を出て私と生きるということは貴族の地位を捨てるということでしょう?・・・レイの家族が悲しむよ。」
「実はもう家族には話してある。説得して許して貰った。」
「どうして!!貴族じゃなくなったら今までよりきっと不自由なことも増えるよ。」
「そんなことはライファと一緒にいられるなら大した問題じゃない。」
「きらびやかなパーティーにだって行けないし、豪華な食事も食べられないよ。」
「うん、それよりもライファと一緒にいる方がいい。」
レイが優しく笑う。
「後悔・・・するかもしれないよ。」
「それは歩いてみないと分からないことだから私は今の自分の気持ちに素直になりたいんだ。」
素直に・・・。
レイが言葉を続ける。
「私はこの先にあるかもしれない不安や困難よりも、ライファがいない未来の方が恐い。」
レイが幸せでいてくれればと思っていた。レイの幸せを勝手に私が決めて、レイの元から去るべきだと・・・。
「レイは私といると幸せなの?」
「うん、そうだよ。」
「じゃあ、私はレイと一緒にいることを諦めなくても・・・いい?」
最後の方は声が震えてしまった。レイはそんな私を見つめるとゆっくり立って正面から私を抱きしめた。
「一生、諦めなくていい。」
耳元に聴こえるレイの声も少しだけ震えていて、同じなんだと思った。
レイの体が一度離れ、レイと目が合う。綺麗なレイのブラウンの目が少し潤んでいるような気がした。そして角度を変えたレイの顔が近づけば自然と目を閉じていた。
「ん・・・。」
触れた部分から愛おしさが満ちてゆく。あるべき場所に戻る様なそんな感覚に自然とつながりが深くなった。
このまま離れたくない。
フワフワした気持ちのままいると、不意にレイが少し唇を離した。
「もっと・・・。」
言葉にしたとたん、グイッと一気に体を離される。
「ライファ、頼むからここでそんな風に煽らないで。」
私から顔を逸らしたレイが真っ赤な顔をしていて、そこで初めて自分がなんか凄いことを言ったのだと自覚した。
「いや、その、煽ったわけじゃなくて・・・、あの、その、そういうつもりじゃ。」
しどろもどろになって弁明しようとしたのだけれど、どんどん恥ずかしくなって結局両手で顔を隠すしかなかった。そんな私を見てレイが声を上げて笑う。近くでこの暖かさを春だと勘違いした鳥が楽しそうに歌っていた。
「ねぇ、旅に出ようか。いつか話していたライファの夢、叶えに行こうよ。」
「騎士団は?」
「騎士団は貴族しかなれないからなぁ。晴れて自由の身だ。貴族じゃなくなった自分にどんなふうに世界が見えるのか、見てみたいんだ。」
「いいね、それ。・・・うん、すごくいい。」
どちらからともなく手をつないだ。
「どこに行こうか。」
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先ほどまで歌っていた鳥が何の躊躇いもなく飛び立った。
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