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Encore*玉手箱はお受けいたしかねま…す?
玉手箱はお受けいたしかねま…す?[1]ー③
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***
わたし、とうとう来てしまいました……竜宮城に!!
昼食の後に連れて来られた当麻邸は、さすが【Tohma】のCEOのご自宅だと思わずにはいられないほどの豪邸で、根っからの庶民なわたしには身の置き場がなく、いつにも増してそわそわとしてしまう。
きっと竜宮城に突然連れていかれた浦島太郎もこんな風だったに違いない。
亀――ならぬドラネコを助けたせいで、こんな御殿に連れていかれるなんて……。人生何がどうなるか分からないものよね。
悪いことが良いことに繋がっていることもあるし、その逆もまた然り。浦島太郎だって、乙姫様からのお土産のせいでおじいさんになっちゃったんだものね。
「お、玉手箱は結構です……」
「ん?」
なんのこと?と言う顔でアキがわたしを見た時、来客を告げる呼び鈴が鳴った。
「あ、来たみたいだ」
皮張りのソファーからすっくと立ちあがったアキが、颯爽と部屋を出て行く。わたしは、いそいそとそのあとを追った。
長い廊下の向こう、玄関ホールに一組の男女の姿が見えた。長い髪の女の子と背の高い男性。彼らは出迎えた当麻家のスタッフとなにやら言葉を交わしている。
「美寧(みね)!」
彼らに近づきながらアキが声を上げると、呼ばれた彼女がゆっくりと顔を上げた。
(わっ…、すごい美少女…!)
ふわふわと腰まで波打つ栗色の髪。
小さな顔にくっきりとした目鼻立ち。
少し離れたところからでも分かるくらい大きな瞳。
控えめに言っても、非の打ち所のない美少女。
思わず足を止めて見惚れていると、アキが突然彼女のことを抱え上げた。
「きゃっ、」と小さな悲鳴を上げた彼女に構わず、彼はその場でクルクルと回る。
驚いた彼女がアキの首にしがみ付きながら「お兄さまっ、目が回っちゃうっ…!」と声を上げてからもう三回転半したところで、アキはやっと止まった。彼は腕に抱えた妹を見上げながら、満面の笑みで口を開いた。
「久しぶりだな、美寧。元気にしていたのか?」
「久しぶりって……お兄さまったら、二週間前にもお会いしたじゃない……」
(二週間前……あっ!)
すぐにピンと来た。
二週間前とはすなわち“バレンタイン”の時のこと。
アキのことを疑う気持ちはもうないけれど、彼の説明が事実だというが分かったらやっぱりホッとしてしまう。
わたしがこっそり安堵の息をついていると、アキは妹さんを抱き上げたまま、隣に立つ男性に顔を向けた。
「怜(れい)さんも、お久しぶりです。お変わりありませんか?」
彼は『怜さん』というらしい。高身長なアキと並ぶ怜さんの方が少し高い。年はわたしと同じか少し上くらいに見える。
シャープな輪郭の小さな顔の中の、涼やかな瞳が印象的。クールな感じのイケメンだ。
「お久しぶりです、聡臣さん。この度は、お招きありがとうございます」
「僕も楽しみにしていたんです、美寧と怜さんにお会いできるのを」
可憐な美少女を抱えるアキ。そしてその隣に立つイケメン。
ど、どうしよう……今すぐ写真に収めたい!
こんな時に限って携帯不携帯。カバンの中にスマホを入れっぱなしで置いてきた自分を、本気で呪いかける。
取りに戻る?いやでも、突然回れ右して戻ったらどうしたのかと思われるよね…?初対面で挨拶もせずにそれって、すごく感じ悪いじゃないか……。
く~っ、静川一生の不覚っ!!
うっかり地団駄を踏まないよう足元を見ながらグッと唇を噛みしめた時、鈴を転がすような声が耳に入った。
「お兄さま。お客様のこと、ちゃんとご紹介していただきたいのだけど……」
顔を上げると、三人がそろってこちらを見ている。
うぅっ…、やめてくれませんか?平々凡々な地味女を美男美女の皆さんで確認するの。地味に居た堪れないのですが……。
額に変な汗が浮かびそうになったとき、アキが「ああ、そうだったな」と妹さんを床に下ろした。
「静さん」
アキが片手をこちらに差し出してわたしを呼ぶ。
え、そこに入るの? このわたしが?
正直「遠慮します!」と言って踵を返したいところだけど、そういうわけにもいかないよね……。
静川! ここは腹を括るのよ!
アテンダントの意地と根性!
おへその下の丹田にグッと力を込め背筋を伸ばして、表情筋を全力で持ち上げる。アテンダントスマイルを作ったわたしは、彼らの方へゆっくりと足を向けた。
わたし、とうとう来てしまいました……竜宮城に!!
昼食の後に連れて来られた当麻邸は、さすが【Tohma】のCEOのご自宅だと思わずにはいられないほどの豪邸で、根っからの庶民なわたしには身の置き場がなく、いつにも増してそわそわとしてしまう。
きっと竜宮城に突然連れていかれた浦島太郎もこんな風だったに違いない。
亀――ならぬドラネコを助けたせいで、こんな御殿に連れていかれるなんて……。人生何がどうなるか分からないものよね。
悪いことが良いことに繋がっていることもあるし、その逆もまた然り。浦島太郎だって、乙姫様からのお土産のせいでおじいさんになっちゃったんだものね。
「お、玉手箱は結構です……」
「ん?」
なんのこと?と言う顔でアキがわたしを見た時、来客を告げる呼び鈴が鳴った。
「あ、来たみたいだ」
皮張りのソファーからすっくと立ちあがったアキが、颯爽と部屋を出て行く。わたしは、いそいそとそのあとを追った。
長い廊下の向こう、玄関ホールに一組の男女の姿が見えた。長い髪の女の子と背の高い男性。彼らは出迎えた当麻家のスタッフとなにやら言葉を交わしている。
「美寧(みね)!」
彼らに近づきながらアキが声を上げると、呼ばれた彼女がゆっくりと顔を上げた。
(わっ…、すごい美少女…!)
ふわふわと腰まで波打つ栗色の髪。
小さな顔にくっきりとした目鼻立ち。
少し離れたところからでも分かるくらい大きな瞳。
控えめに言っても、非の打ち所のない美少女。
思わず足を止めて見惚れていると、アキが突然彼女のことを抱え上げた。
「きゃっ、」と小さな悲鳴を上げた彼女に構わず、彼はその場でクルクルと回る。
驚いた彼女がアキの首にしがみ付きながら「お兄さまっ、目が回っちゃうっ…!」と声を上げてからもう三回転半したところで、アキはやっと止まった。彼は腕に抱えた妹を見上げながら、満面の笑みで口を開いた。
「久しぶりだな、美寧。元気にしていたのか?」
「久しぶりって……お兄さまったら、二週間前にもお会いしたじゃない……」
(二週間前……あっ!)
すぐにピンと来た。
二週間前とはすなわち“バレンタイン”の時のこと。
アキのことを疑う気持ちはもうないけれど、彼の説明が事実だというが分かったらやっぱりホッとしてしまう。
わたしがこっそり安堵の息をついていると、アキは妹さんを抱き上げたまま、隣に立つ男性に顔を向けた。
「怜(れい)さんも、お久しぶりです。お変わりありませんか?」
彼は『怜さん』というらしい。高身長なアキと並ぶ怜さんの方が少し高い。年はわたしと同じか少し上くらいに見える。
シャープな輪郭の小さな顔の中の、涼やかな瞳が印象的。クールな感じのイケメンだ。
「お久しぶりです、聡臣さん。この度は、お招きありがとうございます」
「僕も楽しみにしていたんです、美寧と怜さんにお会いできるのを」
可憐な美少女を抱えるアキ。そしてその隣に立つイケメン。
ど、どうしよう……今すぐ写真に収めたい!
こんな時に限って携帯不携帯。カバンの中にスマホを入れっぱなしで置いてきた自分を、本気で呪いかける。
取りに戻る?いやでも、突然回れ右して戻ったらどうしたのかと思われるよね…?初対面で挨拶もせずにそれって、すごく感じ悪いじゃないか……。
く~っ、静川一生の不覚っ!!
うっかり地団駄を踏まないよう足元を見ながらグッと唇を噛みしめた時、鈴を転がすような声が耳に入った。
「お兄さま。お客様のこと、ちゃんとご紹介していただきたいのだけど……」
顔を上げると、三人がそろってこちらを見ている。
うぅっ…、やめてくれませんか?平々凡々な地味女を美男美女の皆さんで確認するの。地味に居た堪れないのですが……。
額に変な汗が浮かびそうになったとき、アキが「ああ、そうだったな」と妹さんを床に下ろした。
「静さん」
アキが片手をこちらに差し出してわたしを呼ぶ。
え、そこに入るの? このわたしが?
正直「遠慮します!」と言って踵を返したいところだけど、そういうわけにもいかないよね……。
静川! ここは腹を括るのよ!
アテンダントの意地と根性!
おへその下の丹田にグッと力を込め背筋を伸ばして、表情筋を全力で持ち上げる。アテンダントスマイルを作ったわたしは、彼らの方へゆっくりと足を向けた。
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しおりを挟んでくださっている皆様へ。
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