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Encore*玉手箱はお受けいたしかねま…す?
玉手箱はお受けいたしかねま…す?[1]ー⑥
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「“可愛い×可愛い”の最高の一枚だな。仕事の疲れも一気に消える。怜さんに感謝だ」
画面を眺めながらそんなこと言うから、うっかり「ぐほっ」とむせかけた。良かったビールを飲んでなくて!
「もうっ…、気遣ってくれなくていいからっ……こんな美少女の隣に収まるなんてイヤだったのに……」
意外な伏兵にやられた!
アキから散々『静さんも一緒に』と言われても、断固として断っていたのにっ!
地味なアラサー女をこれ以上居た堪れない気持ちにさせないでください。
「え?別に気なんて遣ってないけど? 静さんは世界一可愛い」
「ぶっ…! それはアキの主観! それに世界で一番は、美寧ちゃんに決まってるでしょ?」
見た目も中身も本当に可愛らしいのは事実だけど、アキにとっては目に入れても痛くないと溺愛している妹なのだ。それを「世界で一番」と言わずして何とする…!
変な気を遣ってくれなくても、わたしはアキの重症シスコンをどうこう言うつもりはない。
美寧ちゃんにヤキモチのような気持ちは一切起こらないし、アキの“お兄さま”姿には、実際ちょっと“きゅん”ときた。わたしには見せない顔を見られて、得したとすら思う。
だから、わたしに遠慮せずに『美寧が一番可愛い』って言ってくれて良いのだけど……。
日頃から思っていることをどうやって説明しようかと逡巡していると、アキの方が先に口を開いた。
「確かに美寧は世界一可愛い。でも、静さんだって世界一可愛い。前も言っただろ? どっちがどうとか比べるつもりはないって。美寧は僕の大事な妹だし、静さんは僕が愛する唯一無二の女性だ」
「あいっ…!」
絶句した。よくもまあそんなことを恥ずかしげもなくっ!
顔がみるみる真っ赤になっていく。頭から湯気が出そう。
斜め下からわたしの顔をのぞき込んでくるアキ。
無造作に崩された前髪が、半分額にかかっている。その下で弓なりに細められた瞳。そしてその瞳とは逆向きに弧を描く薄い唇。
色気を滲ませた綺麗な顔に、赤い顔のままつい見惚れてしまう。
二か月前、ここで彼のことを“学生”だと思い込んだ自分を殴りたい。
――いや、あれがあったから今があるわけで、だったら褒めるべき?
「うーん」「どうしたの」「なんでもないっ」なんてやり取りをしていたわたしたちの前に、大きな皿が置かれた。揚げたての串カツが湯気を立てている。
「お待っとさん! お二人さんに負けないくらい熱々の串カツだよ」
ぐぬっ…! もうっ、大将にも聞かれちゃってたじゃないのよっ!
唇を噛みしめて羞恥に耐えていると、大将が言った。
「えらいべっぴんな兄ちゃんが、静ちゃんのいい人かい?」
この三年間それらしい影がなかったわたしのことを、大将も奥さんも密かに心配してくれていたことは知っている。ここは恥ずかしがらずにきちんとアキのことを紹介しなきゃね。
そう思って顔を上げようとした時、隣から声がした。
「彼女の婚約者の当麻聡臣、と申します」
思いっきり横を向くと、The御曹司スマイルのアキ。
すぐに前を向くと、目を瞬かせている大将。
「ちょっ、」
わたしは“恋人”として紹介するつもりだったのに、アキは自ら“婚約者”と名乗ってしまった彼に焦る。
彼とのことはまだ職場にはオープンにはしていない。
もちろん晶人さんと森には、きちんと報告したけれど、それもまだ“恋人”としてやり直す、というところまで。もちろん口外無用。
だって彼は【Tohm】の御曹司なのだ。“婚約”となれば、それ相応の準備や段取りがあることは間違いない。
だからわたしの家族への挨拶はもちろん、彼の親族や社内への“婚約発表”が済むまでは正式な婚約者とは言えない。
今の状態は、さしずめ“恋人以上婚約者未満”といったところだ。
「あの、大将……これは、」
「そりゃめでたい! おめでとうさん」
なんとかフォローをしようと口を開いたが、大将の言葉の方が早かった。それにアキが「ありがとうございます」と返す。もうっ、どうとでもしてください……。
訂正のタイミングを失ったわたしは、仕方なく「ありがとうございます……」と口にする。
「じゃあ、あれやな。静ちゃんは『静ちゃん』やなくなるんやなぁ」
「大将……」
大将ってば、それがわたしの名字由来だってこと、ちゃんと覚えていてくれたんだ……。
胸がじーんとして、言葉が出ない。うるっとした瞳を誤魔化そうと、ビールに手を伸ばす。
「お兄ちゃん、『当麻さん』言うてたな」
「はい」
「当麻さん、かぁ……当麻、とうま……とうま……」
呟きながら大将の視線がわたしとアキを往復した。
ドキッとした。思わずジョッキを持つ手が止まる。無意識に手元に描かれた【丸に麻の葉】に視線をやってしまう。それにつられたのか、大将の目もまたそこに止まった。
額に変な汗が浮かびそうになった時――。
「ほな今度から『麻ちゃん』で行こか!」
大将が渾身の笑顔に、思わずガクッとなった。
画面を眺めながらそんなこと言うから、うっかり「ぐほっ」とむせかけた。良かったビールを飲んでなくて!
「もうっ…、気遣ってくれなくていいからっ……こんな美少女の隣に収まるなんてイヤだったのに……」
意外な伏兵にやられた!
アキから散々『静さんも一緒に』と言われても、断固として断っていたのにっ!
地味なアラサー女をこれ以上居た堪れない気持ちにさせないでください。
「え?別に気なんて遣ってないけど? 静さんは世界一可愛い」
「ぶっ…! それはアキの主観! それに世界で一番は、美寧ちゃんに決まってるでしょ?」
見た目も中身も本当に可愛らしいのは事実だけど、アキにとっては目に入れても痛くないと溺愛している妹なのだ。それを「世界で一番」と言わずして何とする…!
変な気を遣ってくれなくても、わたしはアキの重症シスコンをどうこう言うつもりはない。
美寧ちゃんにヤキモチのような気持ちは一切起こらないし、アキの“お兄さま”姿には、実際ちょっと“きゅん”ときた。わたしには見せない顔を見られて、得したとすら思う。
だから、わたしに遠慮せずに『美寧が一番可愛い』って言ってくれて良いのだけど……。
日頃から思っていることをどうやって説明しようかと逡巡していると、アキの方が先に口を開いた。
「確かに美寧は世界一可愛い。でも、静さんだって世界一可愛い。前も言っただろ? どっちがどうとか比べるつもりはないって。美寧は僕の大事な妹だし、静さんは僕が愛する唯一無二の女性だ」
「あいっ…!」
絶句した。よくもまあそんなことを恥ずかしげもなくっ!
顔がみるみる真っ赤になっていく。頭から湯気が出そう。
斜め下からわたしの顔をのぞき込んでくるアキ。
無造作に崩された前髪が、半分額にかかっている。その下で弓なりに細められた瞳。そしてその瞳とは逆向きに弧を描く薄い唇。
色気を滲ませた綺麗な顔に、赤い顔のままつい見惚れてしまう。
二か月前、ここで彼のことを“学生”だと思い込んだ自分を殴りたい。
――いや、あれがあったから今があるわけで、だったら褒めるべき?
「うーん」「どうしたの」「なんでもないっ」なんてやり取りをしていたわたしたちの前に、大きな皿が置かれた。揚げたての串カツが湯気を立てている。
「お待っとさん! お二人さんに負けないくらい熱々の串カツだよ」
ぐぬっ…! もうっ、大将にも聞かれちゃってたじゃないのよっ!
唇を噛みしめて羞恥に耐えていると、大将が言った。
「えらいべっぴんな兄ちゃんが、静ちゃんのいい人かい?」
この三年間それらしい影がなかったわたしのことを、大将も奥さんも密かに心配してくれていたことは知っている。ここは恥ずかしがらずにきちんとアキのことを紹介しなきゃね。
そう思って顔を上げようとした時、隣から声がした。
「彼女の婚約者の当麻聡臣、と申します」
思いっきり横を向くと、The御曹司スマイルのアキ。
すぐに前を向くと、目を瞬かせている大将。
「ちょっ、」
わたしは“恋人”として紹介するつもりだったのに、アキは自ら“婚約者”と名乗ってしまった彼に焦る。
彼とのことはまだ職場にはオープンにはしていない。
もちろん晶人さんと森には、きちんと報告したけれど、それもまだ“恋人”としてやり直す、というところまで。もちろん口外無用。
だって彼は【Tohm】の御曹司なのだ。“婚約”となれば、それ相応の準備や段取りがあることは間違いない。
だからわたしの家族への挨拶はもちろん、彼の親族や社内への“婚約発表”が済むまでは正式な婚約者とは言えない。
今の状態は、さしずめ“恋人以上婚約者未満”といったところだ。
「あの、大将……これは、」
「そりゃめでたい! おめでとうさん」
なんとかフォローをしようと口を開いたが、大将の言葉の方が早かった。それにアキが「ありがとうございます」と返す。もうっ、どうとでもしてください……。
訂正のタイミングを失ったわたしは、仕方なく「ありがとうございます……」と口にする。
「じゃあ、あれやな。静ちゃんは『静ちゃん』やなくなるんやなぁ」
「大将……」
大将ってば、それがわたしの名字由来だってこと、ちゃんと覚えていてくれたんだ……。
胸がじーんとして、言葉が出ない。うるっとした瞳を誤魔化そうと、ビールに手を伸ばす。
「お兄ちゃん、『当麻さん』言うてたな」
「はい」
「当麻さん、かぁ……当麻、とうま……とうま……」
呟きながら大将の視線がわたしとアキを往復した。
ドキッとした。思わずジョッキを持つ手が止まる。無意識に手元に描かれた【丸に麻の葉】に視線をやってしまう。それにつられたのか、大将の目もまたそこに止まった。
額に変な汗が浮かびそうになった時――。
「ほな今度から『麻ちゃん』で行こか!」
大将が渾身の笑顔に、思わずガクッとなった。
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しおりを挟んでくださっている皆様へ。
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