耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

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第五話【優しさ香るカフェオレ】迷い猫に要注意!

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白いコンクリートの壁に、焦げ茶色の木枠にはめ込まれたガラスの扉と出窓。壁の上部は木枠と同じ焦げ茶色のホロに覆われていて、一番左端に【café La poire】と書かれている。
ここは、【カフェ ラプワール】。美寧が働く喫茶店だ。

レトロな雰囲気の外観を横目に、美寧は店の裏手側に回った。細い路地を入ったところにある勝手口を開き、店の中に足を踏み入れる。

「おはようございます」

「おお、美寧。おはよう」

厨房にいたマスターが、チラリと視線を上げて挨拶を返してくれた。手にはフライパンが握られていて、何かを炒めている途中のようだった。

勝手口を入ったすぐのところは、狭いながらも机や棚が並べられた事務所スペースとなっている。その一番奥が厨房になっていてカウンターと繋がっているが、L字型になっているので店内からは厨房スペースまでしか見えない。


ラプワールは商店街の一番端にある小さな喫茶店だ。
内装は昔ながらの純喫茶のようなレトロ感があるものだが、その中にモダンなインテリアを取り入れていて、マスターの趣味だろうのか、とてもお洒落だ。どの年代の客にも違和感なく馴染むような、ゆったりと寛げる雰囲気がある。

ラプワールはそんな店なので、店主であるマスターの方針もあって、一人の客がゆったりと珈琲を片手にくつろいで行くことが多い。長い間マスターが一人で切り盛りを出来ていたのは、そういった店の特性からだった。

勝手口のドアを閉め持っていた荷物を従業員用の荷物置きに置くと、美寧はバックの中からエプロンを取り出した。

制服はいつも家から着てきている。
ここには更衣室になるスペースはない。通勤時間がほとんどかからない場所なので、制服の黒いワンピースはあらかじめ着て来て、ラプワールについてからエプロンを身に着けることにしていた。

ちなみに、制服は二セット貰っているので洗い替えに困らない。もし洗濯後に乾かなかったら私服の上からエプロンを着けたらいいから、と最初の時に言ってくれた。マスター曰く「制服を作ったのは奥さんの趣味だから」ということだ。

「あっ、美寧。エプロンを着ける前にお使いを頼んでもいいか?」

厨房からマスターがそう声を掛けられて、美寧は手を止めた。

「牛乳が切れそうなんだ。ちょっとスーパーで買ってきてくれないか?」

「はい、分かりました」

美寧はエプロンを棚に置くと、店の買い出し用の財布を机の引き出しから取り出し買い物カバンに入れる。

「じゃあこのまま行ってきます」

「おお、よろしくな。二パック頼む」

「は~い!」

元気に返事をすると、さっき入って来た扉から再び外に出た。

商店街に向けて歩く。牛乳は商店街の入り口近くにあるスーパーで売っているからラプワールからだと商店街の端から端まで歩くことになる。そんなに遠い道のりではないが、マスターが待っているだろうと思うと自然と早歩きになる。

「今日は暑いなぁ」

商店街にはアーケードがあるから、照りつける陽射しがないだけでいくらかマシだ。けれど風が通りにくい商店街では、湿気たっぷりの蒸し暑さが何割か増しに感じる。

商店街の中ほどまで来た時、声を掛けられた。

「おや、美寧ちゃん。お使いかい?」

店先から声を掛けて来たのは、八百屋の店主だ。

「やおまるさん、こんにちは。そうです。スーパーまで牛乳を買いに行くところなんです」

「おお、そうかい。あっ、そうだ。マスターに今日は安くて良いナスとトマトが入ってるって伝えておいてくれるかい?」

「わかりました」

「マスターによろしくな。暑いから気を付けて行ってくるんだよ」

「はーい。ありがとうございます」

やおまるのおじさんに手を振ってから、美寧はまた歩き出した。

商店街を通る間、その他にも精肉店の前でも声を掛けられ、途中で【ベーカリー小川】の奥さんにも出会い、それぞれの人と挨拶を交わしながら数分後に【スーパー徳安】に着く。目的の牛乳を二本手に取りレジに持って行くと、顔見知りになった店員の人と会話をしながら会計をし、買った牛乳を買い物袋にしまって、急ぎ足で店を後にした。

(いろんな人と挨拶してたら、ちょっと遅くなっちゃった。急いで戻らないとマスター、待ってるよね……)

ここで暮らし始めてまだ二か月も経たないというのに、美寧はすっかり商店街の人々と馴染んでいる。それもこれもラプワールでアルバイトを始めたおかげだ。

休みの日に美寧が個人的な買い物をしにも来るが、やっぱり一番回数が多いのはラプワールのお使いだ。毎回同じ黒いワンピースで買い物に来るおかげで、美寧のことを覚えてくれたお店の人も多いだろう。

(ラプワールで働けて本当に良かったなぁ)

雇ってくれたのがラプワールのマスターで無ければ、美寧はすぐにクビになっていただろう。

(あの日もこんな暑い日だったよね)

肌にまとわりつくような重く熱い空気が、美寧にその日のことを思い出させた。

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