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第六話【熱々じゅわっとハンバーグ】何事にも初めてはつきものです。
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ソファーに取り残された美寧は、怜が消えたキッチンをぼんやりと眺めていた。
(なんであの時ユズキ先生の言葉を思い出したんだろう……)
自分でもどうしてだか分からないけれど、あの声が耳の奥で聞こえた瞬間、反射的に怜を押し返していた。
そっと唇に指を当てる。さっきまで重ね合わせていたそれは、少し腫れぼったくて熱を持ったままだ。
(れいちゃんとのキスが嫌だったんじゃないのに…………)
この家に来てから、美寧は幾つもの“はじめて”を体験している。
その中でもこの十日間で怜から貰った“はじめて”のことで、びっくりしたり恥ずかしかったりはするけれど、嫌だったことなど一つもない。
ふぅ、と短く息をついた時、怜がキッチンからトレーを片手に戻ってきた。
「ミネ、これをどうぞ」
ソファーテーブルにトレーを置く。そこにはガラスの器とティスプーンが乗っていた。
「ヨーグルトシャーベットです」
「ヨーグルトシャーベット……」
「これで痛みがマシになると良いのですが……」
「…………」
本当は痛くなどない火傷を、こんなふうに怜に心配させてしまって、美寧の胸は罪悪感で苦しくなる。
居た堪れない気持ちになりながら、美寧は出されたシャーベットを見つめる。
彼女が伏せた瞳を、怜は痛みのせいだと思ったのだろう、
「滲みたり痛んだりするなら無理しなくても、」
「だ、大丈夫だから。いただきます!」
怜の言葉を遮るようにそう言って、慌ててスプーンを手に取った。
シャリっというスプーンの感触を感じながらシャーベットを掬って、口に入れる。
ヒヤリとした触感は、舌の上で溶けてすぐに消える。ヨーグルトの酸味の後に、まろやかな甘みが口に広がった。
「はちみつ……?」
「正解です」
砂糖とは違うまろやかでコクのある甘みの正体は、ハチミツだった。
「おいしい……」
それだけ口にした美寧が、続けざまにスプーンを口に運んでいるのを見て、怜は満足そうに微笑む。
さっきまで悩んでいたことなど忘れて、美寧はシャーベットに夢中になった。
ガラスの器が空になった時、美寧の頭を温かなものが撫でた。
ふと顔を上げると、切なげに揺れる瞳と視線が交差する。
怜は何も言わず、何度も何度も、大切そうに美寧の柔らかな髪に手を滑らせる。
「あの、」
「すみませんでした」
二人が口を開いたのは同時だった。
美寧は『お先にどうぞ』と目で合図を送る。
「あなたのことも考えずに暴走してしまって」
「えっと……」
“暴走”というのが何を指すのか、すぐには分からなかった。
「その上痛い思いまでさせてしまって……本当に申し訳ありませんでした」
「それは、もう……」
大丈夫だから、と口にしようとした美寧は、怜の次の言葉に止まった。
「しばらく“恋人練習”はお休みにしましょう」
「えっ?」
「火傷が治るまでは、恋人になる前のように過ごしましょう」
「えっと…、それってどういう……?」
「俺はしばらくミネには触れません。大人しくしているので安心してください」
(安心……って)
美寧には何がなんだかよく分からない。
怜は惜しむように一度だけゆっくりと美寧の髪を撫でると、「部屋で仕事をします」と言って去っていった。
リビングにひとり残された美寧は、しばらくソファーに座ったままぼんやりとしていた。
【第六話 了】
(なんであの時ユズキ先生の言葉を思い出したんだろう……)
自分でもどうしてだか分からないけれど、あの声が耳の奥で聞こえた瞬間、反射的に怜を押し返していた。
そっと唇に指を当てる。さっきまで重ね合わせていたそれは、少し腫れぼったくて熱を持ったままだ。
(れいちゃんとのキスが嫌だったんじゃないのに…………)
この家に来てから、美寧は幾つもの“はじめて”を体験している。
その中でもこの十日間で怜から貰った“はじめて”のことで、びっくりしたり恥ずかしかったりはするけれど、嫌だったことなど一つもない。
ふぅ、と短く息をついた時、怜がキッチンからトレーを片手に戻ってきた。
「ミネ、これをどうぞ」
ソファーテーブルにトレーを置く。そこにはガラスの器とティスプーンが乗っていた。
「ヨーグルトシャーベットです」
「ヨーグルトシャーベット……」
「これで痛みがマシになると良いのですが……」
「…………」
本当は痛くなどない火傷を、こんなふうに怜に心配させてしまって、美寧の胸は罪悪感で苦しくなる。
居た堪れない気持ちになりながら、美寧は出されたシャーベットを見つめる。
彼女が伏せた瞳を、怜は痛みのせいだと思ったのだろう、
「滲みたり痛んだりするなら無理しなくても、」
「だ、大丈夫だから。いただきます!」
怜の言葉を遮るようにそう言って、慌ててスプーンを手に取った。
シャリっというスプーンの感触を感じながらシャーベットを掬って、口に入れる。
ヒヤリとした触感は、舌の上で溶けてすぐに消える。ヨーグルトの酸味の後に、まろやかな甘みが口に広がった。
「はちみつ……?」
「正解です」
砂糖とは違うまろやかでコクのある甘みの正体は、ハチミツだった。
「おいしい……」
それだけ口にした美寧が、続けざまにスプーンを口に運んでいるのを見て、怜は満足そうに微笑む。
さっきまで悩んでいたことなど忘れて、美寧はシャーベットに夢中になった。
ガラスの器が空になった時、美寧の頭を温かなものが撫でた。
ふと顔を上げると、切なげに揺れる瞳と視線が交差する。
怜は何も言わず、何度も何度も、大切そうに美寧の柔らかな髪に手を滑らせる。
「あの、」
「すみませんでした」
二人が口を開いたのは同時だった。
美寧は『お先にどうぞ』と目で合図を送る。
「あなたのことも考えずに暴走してしまって」
「えっと……」
“暴走”というのが何を指すのか、すぐには分からなかった。
「その上痛い思いまでさせてしまって……本当に申し訳ありませんでした」
「それは、もう……」
大丈夫だから、と口にしようとした美寧は、怜の次の言葉に止まった。
「しばらく“恋人練習”はお休みにしましょう」
「えっ?」
「火傷が治るまでは、恋人になる前のように過ごしましょう」
「えっと…、それってどういう……?」
「俺はしばらくミネには触れません。大人しくしているので安心してください」
(安心……って)
美寧には何がなんだかよく分からない。
怜は惜しむように一度だけゆっくりと美寧の髪を撫でると、「部屋で仕事をします」と言って去っていった。
リビングにひとり残された美寧は、しばらくソファーに座ったままぼんやりとしていた。
【第六話 了】
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