164 / 178
第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第2-3節:心強き相棒は疾風の如く
しおりを挟む「――むんっ!」
やがて先に仕掛けたのは暗殺者たちだった。彼らは連携の取れた身のこなしで一気にリカルドに迫り、ダガーを自分の手足の如く操って斬りかかる。その動きはまるで舞いを踊るかのような華麗さだ。
程なく室内に金属と金属のぶつかる乾いた音が何度か響く。
リカルドはショートソードで暗殺者たちの攻撃をその場でほとんど動かずに全て受け止め、防御に徹している。
積極的に前へ出ないのは背中側にいる私を庇うためということもあるだろうけど、なるべく死角や隙を作らないようにするためという意味合いも強いと思う。
そんな中、私が行使していた精霊の力はついに最高潮に達し、眠りからの覚醒効果が確かに発揮されたということが感覚的に分かった。あとはみんなが目を覚まして、駆けつけてくれるのを祈るだけだ。
もちろん、効果の程度には個人差があるから、全員が一斉にということではないだろうけど……。
『――ありがとう、精霊さん』
私はチラリとわずかに視線だけを向け、眠りを司る精霊に感謝の気持ちを念じた。
すると彼はニコッと笑って会釈をすると、その場から去っていく。程なく気配も消え、それとともに私も足先の動きを止める。
よしっ、あと少し……あと少し頑張れば……。
回復薬を使ったとはいえ、リカルドの体力は完全には回復していない。それにこの不利な状況では精神力の消耗が激しすぎて、少しずつだけど追い詰められている。
早く私にかかった対抗魔法の効果が消えてほしい。そうすれば照明で彼のサポートが出来る。回復魔法や補助魔法、攻撃魔法だって……。
相変わらずリカルドと暗殺者たちの攻防は続いている。睨み合いによる沈黙と金属同士がぶつかる重い衝撃音が不規則に響き、殺気と狂気が辺りを包む。
「っ!?」
――その時、ほんのわずかに生まれた隙に乗じて暗殺者のひとりが一気に間合いを詰めた。
リカルドは反応が一呼吸分だけ遅れ、それによってひときわ甲高い金属音とともに彼の持つショートソードが弾かれる。結果、彼の胴体が無防備な状態で晒される。このままだと暗殺者の凶刃が……。
さすがにリカルドの顔にも焦りの色が走る。それとは対照的に、迫り来る暗殺者は目元が緩む。
このままだとマズイ!
こうなったら私が前に出て、リカルドの身代わりになってでも守ら――っ!?
「でやぁあああああぁーっ!」
咄嗟に私が動こうとしたまさにその瞬間、暗闇の中から激しい咆哮が響いた。
熱い刃が疾風の如く煌めき、月明かりを反射した銀色の光がその闇を鋭く切り裂く。
直後、リカルドに迫っていた暗殺者は背中から袈裟懸けに斬られ、床に倒れ込んで沈黙した。おそらく彼は不意に起きた瞬時の出来事に、理由も分からず絶命したことだろう。
残るふたりの暗殺者たちもこの不測の事態に驚愕して目を見開き、狼狽しながら慌てて振り向く。
「――ナイル!」
パァッと花が開いたような明るい表情で声を上げるリカルド。
私を含めてその場にいた全員の視線は、肩で息をしながら剣を振りかざした格好で佇んでいるナイルさんに向けられていた。
「はぁっ……はぁっ……間に合ったみたいでなによりです……」
すかさず彼は威嚇するような視線を暗殺者たちに向け、牽制した。それに対して彼らが思わず怯んだわずかな隙を衝いて、ナイルさんはこちらへ駆け寄ってくる。
そして私たちを庇うような立ち位置で壁のように立ち塞がったのだった。
「フッ、遅いぞバカ者。だが、助かった。さすがに僕もギリギリだったからな」
「不覚を取りまして申し訳ないです、リカルド様」
「気にするな。こうして僕もシャロンも無事なのだからな。結果良ければ全て良し。あとは残りの始末を付け、名誉挽回してもらうだけさ」
「お任せをっ!」
リカルドとナイルさんはどちらも視線を暗殺者たちに向けたままだけど、向き合って会話しているかのように意思も息もピッタリと合っていた。さすが幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた仲だ。
(つづく……)
10
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる