嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)

第4-3節:古代遺跡の記述

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 …………。

 ……あっ! そういえばこの髪留めを買った時、露店の商人さんは『この石には持ち主に幸福をもたらす力が込められているらしい』というようなことを話していたような気がする。

 彼は単なる噂に過ぎないと言って信じていなかったし、私自身も話半分で聞いていた。でもひょっとすると、そのことが何か関係しているのかもしれない。

 なによりこの髪留めを作ったのは伝説の名工ムラサ。もしそれが真実だとすれば、不思議な現象が起きたとしてもおかしくはない。

 いずれにしてもこの状況に私が戸惑っていると、不意にリーザさんが何かを思い出したかのようにハッと息を呑みつつ目を丸くする。

「まさかっ!? これは……賢者の石ではっ?」

「えっ? 賢者の石ってあの有名なっ!?」

 思いも寄らなかった名称が出てきて、私は仰天した。

 だってアレは『名工ムラサ』の存在以上に伝説というか神話というか、空想の産物だと思っている人の方が圧倒的に多い存在だから。当然、私だってそんなものが実在するなんて、今の今までこれっぽっちだって考えたことがない。

 ただ、そんなの私の心情をおそらくリーザさんは分かっているからこそ、彼女はいつになく真剣な表情で話を続ける。

「はい、人知を超えた力を秘めているという石です。一節には神々の力を宿し、どんな奇跡も起こせるという。魔法に携わる者――いえ、そうでなくとも名前だけなら知らぬ者はほぼいないでしょう」

「私も概要については様々な文献で読んだことがあります。で、でも……」

「確かに単なる創作の産物である可能性は高いでしょう。だからといって、どんな物事も思い込みで否定してしまうのは危険です。私たちの知る知識や世界など、おそらくちっぽけなものでしょうから」

「そ、そうですね……。例えば『魔法』とは何かすらほとんど解明できていないわけですしね。その力の源も仕組みも。自分自身についてだって、分かっているようで分からないことだらけです」

「さすがはシャロン様。お考えが柔軟でいらっしゃいますね。そういうことです」

 リーザさんは表情を緩めて私のことをめてくれた。

 でも個人的にはそこまですごい考え方なんかじゃないような気がしている。今回は彼女の話を聞いて、たまたますぐにピンと来たことがあったから私は今の思考に至っただけなのだ。


 ――ピンと来たことというのは、もちろん精霊使いの力。


 私は様々な精霊に干渉してその力を借りることが出来るけど、その仕組みや摂理の詳細についてはほとんど理解できていない。分かっていることはあってもそれは限定的だし、本当にその解釈が正しいのかだって疑問だ。

 だけどそこに『精霊の力』とその効果は間違いなく存在している。そして私にとってはそれだけが真実でもある。今回の事象を含め、本当に世の中は分からないことだらけだとあらためて確信させられる。

 と、それはそれとして、私はリーザさんの話で気になったことを問いかけてみる。

「リーザさんがこの石の反応を見て『賢者の石』ではないかと推測したのには、何か理由があるんですよね? そうじゃないと、あまりにも発想や繋がりが突拍子過ぎますから」

「実は過去に探索したことのある古代魔法文明の遺跡で、今回と似たような現象が起きたことについての記述があったのを思い出したんです。詳細は省きますが、共通点が非常に多いです」

「――あっ! もしかして俺も一緒に探索に行ったことがある、あの遺跡か!」

 私たちの話を聞いて、ゼファルさんは得心がいったかのようにポンと手を叩いた。

 そっか、任務で様々な場所へおもむくことが多い冒険者さんたちは、歴史や伝承について見聞きすることや調査をすることも多いもんね。何かの事象が起きた時、心当たりがある知識や経験があったとしても不思議じゃない。

 こればっかりは書物だけでは得られないものだから、彼女たちと比べればその点が私には圧倒的に不足している。だからリーザさんやゼファルさんの存在は、今の私にとって重要かつ大きいことをひしひしと感じる。

「うん、あそこの石碑に記されていたの。私がそれを調べている間、ゼファルは興味なさそうにしてウトウトしていたから詳細は知らないでしょうけど」

「そう言うなよ。俺は魔法のことなんてからっきしだし、何かあった時のために少しでも睡眠と休息をとってたんだから」

「ふふっ、そういうことにしておきましょう。――と、少し話が逸れましたね。失礼しました、シャロン様」

 リーザさんは小さな咳払いをして気を取り直し、真顔へと戻る。

「いえ、お気になさらずに。話の続きを聞かせてください」

「かしこまりました。それでその石碑の記述にあった『賢者の石』なのですが、気になる点がひとつ」

「と、いうと?」

「それはもっと巨大なものだったらしいんです。それこそ両手で抱えられるくらいの大きさがあるそうです。だからこの髪留めの石が『賢者の石』と同一のものかは分かりませんし、私の全くの見当違いという可能性もあります」

 なるほど、リーザさんの見解ももっともだ。あくまでも少ない情報と真意が定かではない中での推測だから、彼女自身も自信なさげなのはうなずける。


(つづく……)
 
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