嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
1 / 178
第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)

第1-1節:精霊使いの少女

しおりを挟む
 
 昨夜から降り続いていた雨も昼前にはすっかり上がり、さらに午後になると雲ひとつない青空が広がった。私の部屋は2階にあるから、窓を開けるとその雄大さを強く感じられる。

 そしてその開け放たれた窓から涼やかで清々しい風が入り込んできて、湿気のある淀んだ空気を一気に吹き飛ばしていく。深呼吸をすると土や草の香りも感じられて心地良い。温かな日差しも相まって、気分は晴れやかだ。

「――さて、さっさと雨漏りを直しちゃおっかな」

 私は大きく息をくと、ゆっくりと視線を上に向けた。そこにある板張りの天井には、その一部に雨漏りによる黒い模様がにじんでいる。

 もちろん、それは急に出来たものではなく、最初にその存在に気付いたのは1年くらい前。当初は手のひら大だったものが雨が降るたびに少しずつ広がっていって、今では私の顔よりも大きくなっている。

 それでも今までは水滴が板を伝って側壁の外部に流れ落ちていたから、部屋の中が水浸しになるということがなかった。それゆえに放置していたんだけど、昨夜の雨でとうとう天井の劣化が限界を超えたらしく、室内に雫がしたたり落ちるようになってしまった。

 こうなるとさすがにこのまま無視し続けるというわけにはいかない。そこで私は雨漏りの修理を決意し、これから作業に取りかかろうとしている。

 もっとも、脚立やハシゴを用意して天井に上がり、大工さんのような仕事をするというわけじゃない。そもそもそんな専門的な技術なんて私は持っていない。

 確かに私はほかの人たちと比べて器用な方だから、応急処置的なことなら出来なくはないだろうけど。ただ、それだと根本的な対処にはならないし、高頻度で修理が必要になると思う。また、そのたびに怪我や転落の危険だってある。


 ――だから私は精霊を使役し、彼らの力を借りて願いを実現する。


「家の精霊よ、我が想いに応えたまえ……」

 この言葉はスペルでも儀式の一種でもない。単なる私の個人的なルーティーンみたいなもの。精霊の使役に必要なのは、私の魔法力と叶えたい物事への念だ。

 つまり強大な魔法力や強い想いがあるほど、その効果も大きくなる。逆に言うと、私の持つ能力を過度に超えるような大きすぎる願いは叶えられない。


 ま、なんでも出来ちゃったら、それはもはや神様だもんね……。


 私がいつからこの能力を使えるようになったのか、それは記憶にない。物心がついた頃には自然と扱えていたから。そして精霊やその力に関することは本能的に理解している感覚がある。

 例えば、直感的に『あ、これは出来るな』とか『効果の範囲や消費する魔法力はこれくらいかな』とか『使役する精霊はこれだな』といったことが分かる。とはいえ、私自身も能力を完全に理解しているわけじゃないから、試行錯誤している面も結構あるんだけど。

「じゃ、始めよっかな――」

 私はテーブルの上に置いてあるオカリナを手に取り、演奏する姿勢を取った。吹き口を唇に添え、静かに目を瞑る。そして『雨漏りの修理をして』と念じながら曲を奏でていく。

 部屋には軽やかなメロディが響き渡り、演奏している私も明るい気分になってくる。

 今回の曲目は『森をく楽しい旅人』。吟遊詩人が自らの旅の最中に作ったとされる曲で、様々な楽器の練習にもよく使われている。


 …………。


 目を開けると、オカリナから放たれているのは細かな粒子状となった無数の銀色の光。それが音に合わせて波を打ったり濃淡が異なったり、まるで音が可視化されているかのような印象で天井付近へ流れていく。

 この光は音によって変換された私の魔法力と想いで、これが使役する精霊のエネルギーとなる。事実、いつの間にか頭上には半透明の『ぬいぐるみのようなもの』がどこからか現れていて、部屋の中をクルクルと飛び回っている。

 大きさはまさに人形のごとく手のひらに載るくらい。見た目はデフォルメされた幼い男の子といった感じで可愛らしい。深緑色をしたとんがり帽子と狩人みたいな服を身につけ、私の奏でた音楽に合わせて楽しげに踊っている。


 ――そう、彼こそが私に使役された『家の精霊』。その能力が発動し始め、劣化した天井を少しずつ修復していく。まさに回復魔法によって怪我を癒しているかのように……。

 ちなみに精霊の姿は精霊使いにしか認識できない。

 そして私の演奏が終わる頃にはすっかり元通りというか、家を建てた当時の状態にまで天井は戻っていたのだった。これで当面は雨漏りの心配をしなくてもいいはずだ。

『……アリガト、家の精霊さん!』

 私がオカリナから口を離してニッコリと微笑むと、彼は上機嫌でこちらへ向かって小さく手を振ってきた。直後、半透明だったその姿はだんだん薄れていって、完全に見えなくなる。

 きっと彼は精霊界――というものがあるのかは分からないけど――彼らの住む世界へと帰ったのだろう。もはや気配すらも感じられない。

 ちょっと寂しい気もするけど、会いたくなったらまた曲を奏でればいい。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...