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第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)
第2-5節:立ち入り禁止エリアとクールなメイド
しおりを挟む振り向いてみると、そこには私よりも少し年上くらいの女性が立っていてこちらを見据えていた。メイド服を着ていることから、彼女もポプラと同様にフィルザード家に仕える使用人なのだろう。
サラサラの黒髪は肩の少し上くらいまでの長さで切り揃えられていて、目つきはタカのように鋭い。肌は白くて綺麗で、雰囲気はクール。誰もが思わず見とれてしまうほどの美しい女性だ。
私がボーッとその姿を眺めていると、ようやく我に返ったポプラが慌てふためきながら彼女に対して弁解をする。
「ルーシーさん! あのあのっ、私はシャロン様にお屋敷内を案内しているだけでしてっ、ここにはたまたま通りがかっただけでっ! 決してこの先に立ち入ろうとしていたわけではないのですっ!」
「……そのようですね。ポプラがそんなに取り乱した状態で嘘をつけるほど器用だとも思えませんし」
「ですですっ! てはは……」
ポプラが薄笑いを浮かべて頭を掻いていると、ルーシーと呼ばれたそのメイドさんは私の方へ向き直って丁寧にお辞儀をしてくる。所作の細かいところまで上品さが漂っていて、私なんかよりもよっぽど良家のお嬢様という感じがする。
もしかしたら本当にどこかの貴族の出で、何か理由があってこの家に来たという可能性もあるけど。
「お初にお目に掛かります、シャロン様。私はメイドのルーシーと申します。以後、お見知りおきを」
「シャロンです。よろしくお願いします、ルーシーさん」
「申し訳がありませんが、この先のフロアにはシャロン様もポプラも立ち入りを許されておりません。早々にお引き取りください」
「ちょうどその話をポプラから聞かされたところです。すぐにここを離れます。ちなみになぜここは立ち入り禁止なのですか?」
「何もお答えできません。また、詮索はご容赦願います。余計なことを口にすると、私がご領主様やスピーナさんにお叱りを受けてしまいますので」
表情を変えず、淡々と言い放つルーシーさん。職務に忠実で、沈着冷静なメイドといった感じだろうか。さすがしっかりした性格でガードも堅い。正攻法で彼女から情報を聞き出すのは難しそうだ。
そこで私は一計を案じてみることにする。
「では、ルーシーさんも私たちと一緒にこの場を離れましょう。そうだ、お屋敷内でポプラもまだよく知らないであろう場所を案内していただけたら嬉しいです」
「……すみません、私はこのフロアで仕事がありますので」
「そうなんですか? それは残念です」
そう言いつつも、私は彼女の一言から色々な情報が得られて実のところは満足していた。
今の言葉でハッキリしたのは、ルーシーさんがこの先への立ち入りを許可されているということ。しかも仕事があるということは、このフロアの部屋が実際に使われているという可能性が高い。
また、立ち入り禁止の割に出入りがしやすくなっているのは、頻繁に行き来があるということでもある。そうじゃなかったら、バリケードを設置するなどもっと物理的に封鎖されていても良いはずだから。
やっぱり誰かがここにあるどこかの部屋で生活しているような気がする。
――と、考えていると、そんな私の反応を見て何かを察したルーシーさんは小さく息を呑み、わずかに眉をひそめてこちらをじっと睨み付けてくる。
「……私としたことが不覚でした。シャロン様は油断ならない方なのですね」
「いやいや、そんなことはないと思いますけどぉ……」
「シャロン様、今すぐにこの場からお引き取りください」
「分かりました。では、ポプラ。別の場所へ行きましょう。案内の続きをお願いね」
「は、はいですっ!」
私はルーシーさんに会釈をすると、ポプラとともにその場を離れた。去り際に彼女へチラリと視線を向けてみたけど、依然として立ちつくしたままこちらの動きを警戒している。きっと私たちの姿が見えなくなるまで、その状態は変わらないだろう。
だから私は立ち入り禁止のフロアのことが気になりつつも、今は大人しくこの場を離れることにしたのだった。
その後、私はあてがわれた3階の部屋で、外の景色を眺めながらなんとなく過ごした。
聞こえてくるのは吹き抜ける風の音だけ。草木のさざめきや鳥のさえずりのようなものは一切ない。あったとしても、少なくとも私の耳には届いてきていない。
きっとこの痩せた土地では、生命の息吹が限られているからなんだろうな……。
一方、空は故郷の自室から見えたものよりもずっと広くて青い。ポプラの話だとフィルザードでは温泉も湧いているそうだから、もし露天風呂があったら開放感があって気持ちいいと思う。
温泉といえば、このお屋敷にも源泉から熱湯のような高温の湯が引かれていて、入浴や食事の調理に利用されているんだとか。長旅で疲れているから、あとで入らせてもらえたら嬉しいけど……。
(つづく……)
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