嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
29 / 178
第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第1-3節:少しずつ輪の中に融け込んで

しおりを挟む
  
 それにしても私に頼みたいことというのは何だろう? フィルザード家や領内の事情を考えれば、何かの仕事を任されるということだとは思うけど。対処しなければならないことがたくさんあって、空いている手なら猫の手だって借りたいはずだし。

 …………。

 ……うん、でも頼ってくれてなんだか嬉しい。

 ここへ来たばかりの時、リカルド様やスピーナさんは私に『何もしなくていい』とか『居ることが仕事』なんて言っていた。つまりそれってあくまでも『お客様』という待遇であることを意味するも同然で、私は居心地の悪さを感じていたから。

 やっぱりみんなで支え合って生きていきたいもん。いずれは屋敷内だけでなく、フィルザードで暮らすみんなも一緒に……。

 今、私は少なくともリカルド様にはフィルザード家の一員として認められ、け込みつつあるということなんだと信じたい。まだまだ努力は必要だし、彼の期待に応えられるように頑張らないといけないけど。

 なにより私とリカルド様は一緒に『私たちの夢』を叶えるって誓った。だからこそ彼も私に何かを任せようって思ってくれたに違いない。

 それならその日が来るまでどんな苦難だって乗り越えてみせる。例えこの身がどうなろうとも私は……。

 もちろん、この想いは決してリカルド様には打ち明けられない。きっと心配をかけてしまうし、『無理をするな!』と絶対に止められると思うから。

「……あのぉ、リカルド様。ちょっとよろしいですか?」

 話に区切りが付いたところで、かたわらにいたナイルさんが遠慮がちにリカルド様に問いかけた。眉も曇らせていて、何か違和感でも覚えているかのような雰囲気だ。

「どうした、ナイル?」

「いえ、リカルド様とシャロン様がやけに親しげだなぁと思いまして。昨日はもっとぎこちなかったような気がするのですが」

「っ! ナ、ナイルの気のせいではないかっ!? すすす、少なくとも僕はっ、ず、ずっと同じ態度でいると思うがッ?」

「そう……でしょうかねぇ……」

「ず、随分と含みのある態度だなっ? この際だからハッキリと言ったらどうだ?」

「おふたりの間で何かあったのでは? 無粋ぶすいになりますので、それが具体的に何を指すのかは申し上げませんが」

 ナイルさんの瞳が鋭くきらめく。さすが側近のひとりとしてリカルド様とほぼ行動を共にしているだけあって、ちょっとした変化も敏感に感じ取ったということか。

 確かに私とリカルド様は深夜に密会し、想いを打ち明け合うことで心の距離を大きく縮めた。でもナイルさんがおそらく想像しているであろうはしていないし、そういう気配もなかった――と思う。

 一方、『ふたりの間で何かがあった』という意味においてはその通りなので、私もリカルド様もどうしても反応してしまう。思わず顔を見合わせ、お互いにソワソワして落ち着かない。

 そしてついにこの空気に耐えられなくなったリカルド様は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「な、何もないに決まっているだろうっ! というか、変な勘違いをしているのではなかろうなっ? 僕はそんな手の早い軽薄な男ではないぞっ!」

「とりあえず今はそういうことにしておきましょう。それに夫婦仲が良いのは好ましいことですので」

「ナ~イ~ル~っ! 本気で怒るぞっ?」

「ムキになるところがますます怪しいです。なにより昨日まではこんなに動揺を見せることが、滅多になかったように思いますし」

「うぐ……。ま、まぁ、確かに姉上に関すること以外では、あまり取り乱さなかったかもしれないが……」

 防戦一方で苦々しそうにつぶやくリカルド様。

 ただ、今の言葉を聞いた途端にナイルさんの方がなぜかあせり出し、気まずそうにしながら視線をチラチラとこちらに向ける。明らかに私を意識しているのが丸分かり。その上、今までよりも声量を抑えてリカルド様にささやく。

「リカルド様、をシャロン様の前でお話になってもよろしいのですか? まだ時期尚早じきしょうそうなのでは?」

「ん? あぁ、ナイルやジョセフはまだ知らなかったか……。すでにシャロンは姉上と面会を済ませ、会話もしているぞ。想定外のことが色々とあってな。姉上の部屋への入室も姉上自身の意思で許可となっている」

「なっ!? まっ、まさかこの短期間にそこまで事態が進んでいたとはっ!」

「結果としてこうなったことには、僕自身も驚いている。ひょっとするとシャロンと当家には、不思議なご縁があるのかもしれんな」

 驚愕きょうがくしているナイルさんを他所よそに、リカルド様は穏やかな瞳を私に向けた。そして私たちは自然と目が合うと、お互いに小さく微笑ほほえむ。

 …………。

 確かに私とリカルド様やお義姉様の間には、何か見えない力が働いているような気がする。それこそがきっと『ご縁』という力。私の境遇もおふたりと出会ったきっかけも、何もかも様々なお導きが重なった結果のように感じる。

 ――ううん、そうなることが運命だったのかもしれない。

 今後、私がどうなっていくのかは分からないけど、願望としてはフィルザード家とは末永くともに歩んでいきたい。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...