嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
59 / 178
第3幕:重なる想いの交響曲(シンフォニー)

第1-2節:シャロンとポプラ

しおりを挟む
  
 そして今、私は夕食などを済ませて自室に戻り、机で読書をしている。眠気がもう少し強くなったら灯りを消して、ベッドで横になるつもりだ。

 開け放たれている窓から入り込んでくるのは涼しげな夜風。ちり土埃つちぼこりは地面で落ち着いているのか、昼間と比べて空気が澄んでいる。さらにその風はランプの炎を揺らめかし、私の影をちらつかせている。

 そんな中、室内で家事をしていたポプラは最後に窓を静かに閉めて施錠し、カーテンを引いてからこちらを向く。

「お疲れ様なのです、シャロン様。そろそろ私は自分の部屋に戻らせていただくのです」

「うん、ポプラもお疲れ様。ところで、私が公務に参加するようになって以降、スピーナさんの指導の具合はどう?」

「てはは、やっぱり厳しいのです。手加減というものがないのですよ。失敗して叱られてばかりで……」

「でもそれはポプラに期待しているからなんじゃないかな? 見込みがないって感じたなら、もっと素っ気なく扱うと思うし。スピーナさんの性格を考えると口には出さないだけで、きっとポプラのことを評価しているはずだよ」

「それはそうなのかもですが、私としてはもっと優しくしてくれた方が嬉しいのです……」

 苦笑しながらほほを指でくポプラ。その際、私は彼女のその手が目に留まる。

「ポプラ、手が随分と荒れているみたいだけど」

「へっ? あぁ、最近は水仕事を多く任されているので、どうしても荒れてしまうのです。でもこれくらいなら実家で家事をしていた時にもよくあったことですし」

「ちょっと待ってて」

 即座に私は机の引き出しを開け、中から小瓶を取り出した。そしてそのふたを開けてから机の上に置くと、ポプラに歩み寄って彼女の両肩を優しく掴み、私の椅子に座らせる。

 そのあと、正面に立った私は彼女の手をとり、小瓶の中に入っている白色の軟膏なんこうを薄く塗り込んでいく。

「この塗り薬は私が育った村から持ってきたものなの。腕のいい魔術医師の先生が近所に住んでいてね、その人が調合した薬なんだ。肌への刺激は少ないのに効き目はバッチリなんだよ」

「シャロン様……」

「いつもありがとう、ポプラ。本当はもっと待遇を良くしてあげられたらいいんだけど、今のフィルザード家の財政状況じゃ難しいだろうから。ごめんね……」

「い、いえ……そんな……」

 小さくて温かなポプラの手。こうして実際に触れてみると、見た目以上に肌が荒れているのが分かる。場所によってはあかぎれやれもあるし……。

 ただ、それはそれだけ一生懸命に仕事を頑張っているということだ。この子にもいつかもっと幸せになってほしい。そのためにも私も負けないように頑張らないといけない。

 私はポプラをいたわるように、優しく丁寧ていねいに薬を塗っていく。そして両方の手のひらや手の甲はもちろん、全ての指先まで隙間すきまなく網羅もうらすると、小瓶のふたを閉めてそれをポプラの手に握らせる。

「この薬、まだまだたくさんあるから瓶ごとポプラにあげる。もし肌に合わないようだったら、捨ててしまって構わないから。それとその時は代わりに回復魔法をかけてあげるから、遠慮なく言ってね」

「あ、ありがとう……ございますです……」

「明日から寝る前に薄く満遍まんべんなく塗ってね。それじゃ、お休み」

「はい……。お休みなさいませ……シャロン様……」

 ポプラは立ち上がってペコリと頭を下げると、ドアのところへゆっくり歩いていった。ただ、ドアノブに手をかけた直後、不意に立ち止まってこちらを振り向く。

 その表情はなぜかどんよりと曇り、瞳には涙が潤んでいる。

「あ……あの……シャロン様……私……」

「っ? どうしたの、ポプラ?」

「い、いえっ! ありがとうございますなのですっ! 薬、大切に使わせてもらうのですっ!」

 ポプラは目を見開きながら大きくお辞儀じぎをすると、あわてた様子で部屋から出ていった。



 …………。

 どうしたのだろう? 今の彼女は少し様子がおかしかったような……。

 何か言いたいことがあったけど、すんでところでそれを思い留まったという感じ。もしかして深い悩みごとでも抱えているのかな?


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...