嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)

第2-6節:露骨なまでの敵視と侮蔑

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 その人に対し、リカルドはノエル様をなんとか引き離してから声をかける。当然、ふたりだけの甘々なひとときを中断させられたノエル様は少し不満そうな顔をしていたけど、この場は大人しく我慢しているようだ。

「キール! ここまでノエルの護衛、ご苦労だった。無事に送り届けたこと、見事である」

勿体もったいないお言葉、痛み入ります」

「ヴァーランドへ戻るまではいつも以上に気が抜けないだろうし、公務などもあって大変だと思うがよろしく頼むぞ」

「御意」

「そうだ、ノエルとキールに紹介したい者がいる。フィルザード家にとついできた僕の妻だ。――シャロン、こっちに来て挨拶あいさつを」

「は、はいっ!」

 リカルド様からご指命を受け、私は背筋が伸びる想いがした。その場にいた全員の注目が私に集まり、さらに初めての外交の実践ということもあって否が応にも緊張で体が震える。

 心臓はドクンドクンと耳に響くほどに大きく高鳴り、全身にはじんわりと汗がにじんでくる。押しつぶされそうになる圧力と得も言われぬ寒気。穏やかな表情を浮かべようにも顔がどうしても強張ってしまう。

 こんなにもプレッシャーを感じるなんて思ってもみなかった。覚悟もイメージトレーニングも出来ていたはずなのに……。


 ――でもここでリカルドに恥をかかせるわけにはいかない!


 その一心で精神状態を何とか制御し、表向きは落ち着いた様子を見せつつ彼らのところへ歩み寄っていく。

「シャロンと申します。どうかお見知りおきを」

 私はドレスの裾の端を軽く握って頭を下げ、おしとやかな口調で挨拶あいさつをした。その瞬間には表情の硬さも少しはやわらいでいた気がする。

 意識していなかったけど、私の体は勝手に動いていた。これは幼い頃から父に教え込まれてきた貴族の所作が、自然に出たということなんだと思う。こうしてうまく乗りきれることがあるたびに、父への感謝の気持ちをあらためて感じる。

 そんな私に対し、ノエル様は小さく舌打ちをした。しかも敵意の灯った瞳でにらみつけてきて、歓迎されていない雰囲気が明らかに伝わってくる。

「……ふーん、貴様がシャロンか。なんとなくうわさには聞いている。一応、この場はリカルド兄様の顔を立てて、名乗るだけはしておく。俺はノエルだ」

「このたびはわざわざフィルザードへお越しいただき、ありがとうござ――」

「どうでもいい! 時間の無駄だから、もう俺に話しかけるな。そもそも俺は貴様のようななんか、リカルド兄様の奥方として認めていないからな。この泥棒猫め」

「なっ! ど、泥棒猫っ!?」

「そうだ、俺からリカルド兄様を奪った泥棒猫だ。早くどこかへ行け。シッシッ!」

 ノエル様は表情に嫌悪感をたっぷりとにじませ、私に向かって虫や獣でも追い払うかのような手振りをした。瞳にもさげすむような意思と凍えるような冷たさがただよっている。

 私への態度はリカルドに対するものと露骨に違っていて、私は唖然あぜんとして何も言葉が出てこない。

 そもそも彼は私のことを『小娘』と言っているけど、私の方が年上のはず。ちょっとカチンと来るけど、状況や自分の置かれている立場を考え、その感情は表に出さずに腹の中でグッとこらえる。

 するとそんな私たちの様子を見ていたキールさんがあわてて私の目の前に来て腰を落とし、狼狽うろたえながら深々と頭を下ろす。

「し、失礼しました、シャロン様! 我が主の非礼をどうかお許しくださいッ! 申し遅れましたっ、私はノエル様にお仕えしている親衛隊長のキールと申します!」

「こちらこそよろしくお願いします、キールさん。私は気にしていませんから、頭をお上げください」

寛大かんだいなるお言葉、感謝いたします!」

「キール! こんな小娘に恐縮する必要なんてないぞ!」

「し、しかし……」

 恐る恐る顔を上げ、私とノエル様を交互に見やるキールさん。どう対応すればいいのか、困惑しているのが傍目はためにも分かる。

 そんな中、助け船を出したのはリカルドだった。彼はノエル様の頭を拳で軽く小突き、深い溜息ためいきをつく。

「こらっ、ノエル! 僕の妻に対して失礼すぎるだろ。さすがに僕だって怒るぞ?」

「っ!? ご、ごめんなさい、リカルド兄様。つい本音が出てしまって。こういう場では思ってても口にしてはいけないんでしたね。社交辞令というものでしたっけ」

「お前、それこそ分かっててわざと言ってるだろ? やれやれ……」

 リカルドは肩を落とし、ガクッと項垂うなだれた。その彼が視線を下に向けているすきを狙い、ノエル様は私に向かってベーッと舌を出す。

 本当に小生意気というか、内面はまだまだ年相応に幼い子だ。リカルドがいなかったら手が付けられないかもしれない。

 ――いや、むしろリカルドの前だからこそ、はしゃいでやっているのかな?

「あっ、そうだ! リカルド兄様のためにビスケットを手に入れて、持ってきたんですよ。あとでお茶と一緒に食べましょう」

「何っ!? ビスケットだとっ?」

「以前、食べたがっていたじゃないですか。それを覚えていて、今日のためになんとか手に入れました」

「お前っ、気がくじゃないか! 最高だぞっ!」

「えへへへ!」

 リカルド様が満面の笑みを浮かべてノエル様の頭をグシャグシャと無造作にでると、ノエル様は恍惚こうこつとした表情ですがままになっていた。

 ただ、よく見ると彼は時折チラチラと私に視線を向け、優越感に浸っているかのようにニタリと口元を緩めている。

 なんだろう、見せつけられているような気がして、さすがにイラッとしたかも。

「よし、あとでシャロンにお茶を用意させて一緒に――」

「おい、スピーナ! あとで貴賓きひん室にお茶を持ってこい。俺とリカルド兄様の分だ。間違ってもには任せるなよ?」

「承知しました、ノエル様」

 リカルドの言葉をさえぎって命令をしたノエル様に対し、スピーナさんはいつもと変わらぬ冷静な態度で即答した。そこに迷いは一切感じられない。

 つまり命令の優先順位をどうするべきか、状況を見てその判断が瞬時に出来ているんだろう。その点に関しては、困惑して狼狽うろたえていたキールさんとは対照的だ。


(つづく……)
 
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