81 / 178
第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第2-7節:取り残されたシャロン
しおりを挟むさすが経験豊富なスピーナさん。ノエル様のピリピリとした態度や外交の場という性質、そして最終的には許容するであろうリカルドや私の性格を考えて、この場は彼を立てておくのがベターだと結論づけたらしい。
ちなみにノエル様の言う『ほかの者』とは、私のことを指しているのだと思う。だって彼の顔にそう書いてあるから。リカルドを独り占めできなくなった元凶として、よっぽど私が気に食わないんだろうな。
「お、おい、ノエル? お茶ならスピーナじゃなくてもシャ――」
「そうだっ、リカルド兄様! シーファ姉様はお元気でいらっしゃいますか? あとでご挨拶に伺いたいのですが」
「姉上はそれなりに元気だが、やはり外部の人間に会わせるのはリスクが大きいからな。お前が姉上を気にかけていたということを、あとで伝えておくよ」
「そうですか……。お体のことを考えれば仕方ありませんよね。分かりました、シーファ姉様にはよろしくお伝えください。それにしても残念です。またシーファ姉様のヴァイオリンを聴きたかったのに」
「あっ、それなら代わりにシャロンのオカリナを聴いてみるのはどうだ? 彼女の演奏も味わいがあって癒されるぞ。お茶の時に演奏してもらうのも――」
「リカルド兄様! そろそろ貴賓室へ移動しましょう! お話したいことがたくさんあるんですっ!」
「そ、そうか……うん……」
ノエル様の強引かつ怒濤の勢いに押され、とうとうリカルドは静かに頷くだけになってしまった。事ここに至っては、さすがに私のことに触れるのを諦めるしかないと思ったようだ。
そして彼は私の方をチラッと見て、申し訳なさそうな顔でわずかに頭を下げる。
それに対して私は『ん、分かってる』という気持ちを込めながら小さく頷く。
「さ、行きましょう、リカルド兄様」
「分かった分かった。そんなに腕を引っ張るな。――ジョセフ、キール。あとのことは任せたぞ」
リカルドはそう言い残すと、はしゃぐノエル様に腕を引っ張られながら屋敷内へ入っていったのだった。彼は彼で気苦労が絶えないかもしれない。あのパワーには圧倒されてしまうもん。
ちなみにフィルザード家とスティール家の間で交わされる書簡のやり取りなど、実務的な公務に関しては明日以降に行われる予定となっている。
もちろん、そうした会議のメンバーには私も入っているから、しばらくは息をつく間もない日々が続くことだろう。
ただ、今日のこのあとに関しては何も指示されていない。
というか、本来はリカルドと一緒に貴賓室でノエル様のおもてなしをすることになっていたんだけど……。
だからおそらく夕食の時までは自由にしていて良いのだとは思う。
それならこのまま自室で何もせずに過ごすよりはみんなのお役に立ちたいということで、私はジョセフに歩み寄って声をかけてみることにする。
「ジョセフ、私にも何かお手伝いできることはありますか?」
「お気遣いありがとうございます。ですがシャロン様のお手を煩わせるようなことにならないよう、全て段取りは付けてあります。ご安心ください」
「そうですか……。予定外に手が空いてしまったので、何かあればと思ったのですが」
「あはは、なるほど。確かにあのノエル様のご様子を考えれば、シャロン様は貴賓室に立ち入らない方がよろしいでしょうな。それでしたら、お客様を迎え入れた時の対応を私の横で見学なさってはいかがでしょうか?」
「あっ! はい、そうします! 今後のためにもなりそうですしね! でももし何かやることが出来たら、遠慮なく言ってくださいね?」
「ふふっ、御意のままに」
こうして私はジョセフの横で彼の仕事を見学をさせてもらうことにした。
その後、彼はキールさんとともにそれぞれフィルザード家とスティール家の兵士さんたちに指示を出して、警備人員の再配置や荷下ろしなどを進めていったのだった。
それはまさに阿吽の呼吸で、普段から一緒に仕事をしているかのような連携具合。さすがベテランの宰相というだけあって、指示の仕方も対応も判断も見事だと言わざるを得ない。
私もしっかり勉強をして、いずれは少しでも彼のサポートが出来るようになりたいな……。
ちなみにノエル様がフィルザードに滞在している間、キールさんを含めたスティール家の上官の家臣さんたちは屋敷内のゲストルームを使用することになっている。
そのほかの兵士さんや屋敷の警備を担当しているフィルザードの兵士さんは、庭の空いているスペースで共同の野営をするとのこと。これは両家の兵士さんの交流を促すと同時に、有事の際の訓練を兼ねているらしい。
普段は静かなお屋敷も、しばらくは賑やかになりそうだ。
(つづく……)
11
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる