嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)

第5-1節:和やかな旅立ち

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 必要な物資や人員の手配、行程の途中で滞在する宿所の選定、会議で話し合われる内容のレクチャー、スケジュールの確認、ジョセフたちへの公務の引き継ぎなど様々な準備を整え、私たちはヴァーランドへ向けて出発した。

 地方会議の開催日は一週間後。不測の事態に備えて移動日は余裕を持って設定してあるから、その日までに到着しないということはほぼないだろう。

 メンバーはリカルドと私、ナイルさん、ポプラ、ゼファルさん、リーザさん、ソフィアちゃん、そのほかに警備や物資の運搬を担当する一般の兵士さんが十人ほどとなっている。

 また、経費を節約するために馬車や動物は使わず、全員が徒歩での移動。物資は各自が持てる範囲に留め、食料や水、薬、野宿をする際に使うマットや毛布といった必要最低限の物は何台かの荷車に載せて兵士さんたちが交代で運んでいる。

 ちなみに地方会議やパーティで使う礼服や軍服、ドレス、資料といったものはすでにヴァーランドへ送ってあるので、それらに関しては心配がない。

 ――というわけで、リカルドや私も機能性や動きやすさを重視して、移動中は旅装束を身に付けるという状況になっているのだった。だから端から見ただけでは、私たちが辺境伯へんきょうはくの一行だとは誰も思わないだろう。

 むしろ旅芸人の一座だと言われても違和感がないかも。それが良いのか悪いのかは分からないけどね……。


 こうしてフィルザード家の屋敷を出発して二日が経過し、私たちは領地の南東地域に差し掛かっている。この付近の道は狭くて険しく、ゼファルさんの話によるとそれがヴァーランドとの境界を越えた先まで続いているとか。

 また、ヴァーランドのある東方面と私の故郷がある南方面の分岐点までは、私がフィルザードへ嫁いできた際に通った場所でもある。岩だらけで変わらない景色の連続だから、どの辺りを進んでいるのかまではピンと来ないけど。

 それでも付近に村や集落のようなものがなかったのは、なんとなく覚えている。事実、今夜は山道の途中で野宿をする予定になっているし。

 ただ、リカルドなら今、私たちが歩いている地点に心当たりがあるかも。彼なら何度も通っているはずの道だし、なんといってもここの領主様だもんね。

「ねぇ、リカルド。ヴァーランドまであとどれくらいかかるか分かる?」

 私は数歩ほど前を歩くリカルドに声をかけた。

 すると彼はこちらを振り向き、進むスピードを少し落としながら私のすぐ右隣を歩き始める。そしてわずかにうつむいて考え込んでから口を開く。

「領地と領地の境界という意味なら、今のペースで歩いてあと一日半くらいといったところか。ヴァーランド城なら、そこからさらに二日ほど歩かねばならない」

「ふーん、そうなんだ」

「もしかして疲れたのか?」

「ううん、まだまだ余裕あるよ。普段から視察で足を鍛えてるし。ただ、最近は公務が忙しくて剣の素振りや稽古けいこをしていないから、腕力とか実戦での勘は少し落ちてるかもね」

「シャロンには申し訳ないと思っている。馬車を用意してやれれば良かったのだが、経費が限られているのでな……」

 リカルドは力のない悲しげな瞳で私を見つめた。

 確かに最近はお屋敷周辺の警備など、想定外の出費がかさんでいる。私も公務に関わっているがゆえ、すでに年初予算をオーバーしていることは承知している。

 正直、フィルザード家の現在の財政はクレストさんが岩塩鉱山の税金を前払いしてくれたり、一部の支払い期限を猶予ゆうよしてくれたりしているおかげでなんとかなっている状態なわけで……。

 だから節約できるところは節約しないとね!

 私はリカルドを気遣きづかうようにクスッと笑い、彼の上腕をポンポンと軽く叩く。

「そのことは気にしないでって、今回の準備の時にも言ったはずでしょ? それに私は歩くのが好きだし、馬車だと座りっぱなしでお尻が痛くなっちゃうからこれでいいの」

「ありがとう、シャロン。でももし足が痛くなったり疲れたりしたら、遠慮なく言ってくれ。僕がキミをおんぶしてやる」

「おんぶじゃなくて、お姫様抱っこはダメ?」

「フッ、キミが望むなら僕はそれでも構わないぞ」

 ニヤッと口元を緩めるリカルド。しかもなんだか本気でそれをやりかねない雰囲気なので、私は慌てて首を何度も横に振る。

 ……まぁ、実は本音ではリカルドにお姫様抱っこをされてみたいという願望はあるんだけどね。その反面、照れくさすぎて無理っていうか。ドキドキしすぎて卒倒しちゃいそうだもん。

「あはは、ウソウソっ! その気持ちだけ受け取っておくよ。むしろリカルドこそ疲れたら私がおんぶしてあげるよ」

「おいおい、そんな姿をみんなに見られたら、僕は夫としても辺境伯へんきょうはくとしても面目めんもく丸潰れじゃないか。強がってでも気合いと根性で乗り越えてみせるさ」

「頼もしいですな。さすがは私の愛しい旦那様っ♪」

「茶化すな、バカ者……ふふっ」

「あはははっ!」

 険しい山道に私たちの軽やかな笑い声が響く。色々な面で大変な状況にいるけど、なんだか楽しい。

 おのずと空気はなごみ、周りを歩く兵士さんたちも釣られて表情が緩む。


(つづく……)
 
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