嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)

第5-2節:立ちはだかる者たち

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 リカルドはあらためて真摯しんしな顔つきになり、私の瞳を真っ直ぐ見つめた。

「真面目な話、本当に無理はしないでくれ。僕にとってはキミの体が第一だ。休憩をしつつ、ゆっくり進んでも日程的に問題ないのだからな」

「ん、分かってる。心配してくれてありがとう」

「そういえば、こうして僕たちが一緒に外出するのは久しぶりのような気がするな」

「あ、そうかも。最近はお互いに忙しかったもんね。もちろん、執務室や食堂、夜のお茶会なんかで毎日のように顔を合わせて、一緒に過ごす時間はあるけど」

 確かに思い返してみると、私たちが最後に揃って外出したのはかなり前だったような気がする。水路の掘削現場への視察だって最近は回数を減らしているから、その際に畑で会うということですら少なくなっているわけだし。

 またふたりだけで……デートしたいな……。

 そのためには、やっぱり様々な懸案に決着をつけなければならない。早く領内が落ち着くといいんだけど。

「――皆さん、止まってくださいっ!」

 その時、隊列の先頭を歩いていたナイルさんが厳しい声で叫んだ。

 切迫した雰囲気と迫力。それを受けてその場にいた全員が足を止め、一転して緊張に満ちた表情で彼に視線を向ける。

 持っていた槍を握り直し、鋭い目つきで周囲を警戒する兵士さんたち。最後尾を歩いていたゼファルさんもロングソードの柄に手を添え、いつでも戦闘に入れる体勢を取って後方へ意識を集中させる。

「シャロン、ちょっと待っててくれ。大丈夫、ここにはみんなもいる」

 リカルドは私を安心させるかのようにフッと頬を緩め、私の肩をポンと叩いた。そのあと彼はナイルさんのところへ駆けていく。

 ちなみに去り際の彼はすでにりんとした真顔に戻っていて、私はその精悍せいかんな横顔を見て思わずカッコイイなと感じてドキドキしてしまう。こんな時に不謹慎ふきんしんかもしれないけど……。

「どうした、ナイル?」

「どうやらお客さんが集団でおいでです。まだ姿は見えませんが、こちらへ近付いてくる気配を感じます」

「っ!? とうとう来たか……。やはりすんなりとは進ませてくれんようだな」

「しかもこの漂う黄泉よみの冷気と腐臭ふしゅうの者たちのようですね……」

 いつになくナイルさんの目つきが厳しくなった。

 静かな中に潜む覇気と威圧感。そこにはなぜか迫り来る存在に対する哀れみのようなものも含んでいる。

 やがて私たちの前方から、行く手を阻む影たちが現れる。目には一様に不気味な赤い光が輝き、殺意と敵意が満ちている。

「うっぷ!」

 近くにいた何人かの兵士さんが思わず手で口を押さえ、吐き気をこらえていた。でも無理はない。だって敵は肉体が腐乱したり骨だけのボディだったりというアンデッドの群れだったのだから。


 スケルトン、ゾンビ、グール、ワイト、マミー――。

 アンデッドの種類は数あれど、中でも見た目がグロテスクなヤツばかり。まるで死霊の見本市状態だ。

 辺りには次第に腐臭ふしゅうが強く漂い始め、私も思わず顔をしかめる。

 彼らは動きこそ亀のごとく遅いものの、整然と隊列を成してこちらに迫ってくる。その数はパッと見た感じ、数十といったところ……。

 ただ、奥の方にもまだまだいるようだから、百体を超えているのは確実だと思う。

 これは想像以上の大軍勢。脅威きょういでしかない。単体では大したことがない強さでも、集団となれば事情は変わってくる。隙を見せたり立ち回り方を間違えたりすると、そこから崩される。一瞬の判断ミスが命取りになる。

 ――その末路は彼らの仲間入り。そんなことは考えたくもない。

 私は思わず身震いをすると、腰に差しているショートソードを抜いて構えた。

 直後、後方からゼファルさんの警戒心に満ちた叫び声が上がる。

「リカルド様っ、背中にもお気を付けくださいよ! 後ろからもお出迎えですぜ!」

「何っ? フッ、挟撃とは念の入ったことだ……。――皆の者、山肌を背にして半円形の陣を取れ! シャロンやポプラ、ソフィアを陣の内側に入れて守れ!」

 リカルドの手振りを交えた指示を聞くと、兵士さんたちは素早い動作でその配置についた。

 そびえる山肌を背後にして、兵士さんたちは上から見て半円形に並んでいく。各自が外側を向いて構えることにより内側――すなわち背中側を気にすることなく、迫り来る敵に対処できる。防御に特化した陣形と言っていい。

 前方への攻撃を想定し、魚のウロコのように並ぶ魚鱗ぎょりんの陣形ともちょっと似てるかも。

 ……父はやけに戦術に詳しくて、私も幼い頃からその知識を教え込まれた。父が王族の親衛隊長をしていたと知った今では、それも納得のことだけど。


(つづく……)
 
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