嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)

第5-3節:ナイルの秘められた能力

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 ただ、だからこそ私は少し疑問も感じる。だってこうした左右が狭まった山道であれば、兵士さんたちが道なりに並んで敵と戦うという方法も取れると思うから。それは現在の私たちのような少数で多数と戦うには有効な戦術だ。

 山道や回廊かいろうなど横に広がることが出来ない場所では最前列しか攻撃に参加できず、弓や魔法などによる遠隔攻撃でもない限り集団はその数の力を活かしきれない。

 一対一、あるいは少数対少数なら勝ち目も出てくる。

 見たところ敵は接近戦かつ物理攻撃しかしてこない種類ばかりだから、充分に選択肢に入る戦術だと思うんだけど……。

 そうなると、リカルドの頭の中にはこの状況を打破する何かがあると考えるのが妥当か。防御に特化することで人的被害を最小限に留め、一方で敵を一気に殲滅せんめつさせられる何かが。

 なんとなく見えてきたような気がしつつ、私は静かに彼を見守る。

「――ナイル! この場はキミに任せるぞ! サポートは僕に任せろ!」

「承知です! ゼファル殿もリカルド様とともに、私が陣の外側で呪文スペルの詠唱をしている間の護衛をお願いします!」

 迷いのない瞳と決意に満ちたナイルさんの声。表情には自信が満ちあふれ、私はこんなにも彼の雄々しい姿を見るのは初めてかもしれない。

 普段は見せない強い闘志を放つ彼に対し、ゼファルさんもやや圧倒されている。

「お、おうっ……。何をする気か知らんが、アンデッドどもがお前さんに近付くのを防げば良いんだな?」

「そういうことです!」

「分かった! 任せておけっ!」

 ゼファルさんはロングソードを鞘から抜き、いち早く陣の外側へ出て後方側の警戒に入った。腕や全身の隆々とした筋肉が躍動し、輝く刃が軌跡を生む瞬間を待っている。

「リーザ、キミは攻撃魔法でアンデッドへ遠隔攻撃を! ただし、あくまでも僕らの隙間を縫ってナイルに近付こうとするヤツだけでいい!」

「承知しました!」

 そう言うとリーザさんは陣の最前列の一角に移動し、前後の両方向を警戒する。

 一方、リカルドも前方側の敵を食い止めるため、陣の外側へ向かおうとする。そんな彼を私は慌てて呼び止める。

「リカルドっ、私も戦うよ!」

「……ならばキミは後詰ごづめだ。万が一に備えてこの場で待機していてくれ」

「だ、だけど……前線の戦力は多い方が……」

「安心しろ、ナイルの魔法が発動した時点でこの戦いはおそらく終わる。しかもヤツらが僕らと接触する前に呪文スペルの詠唱が済めば、僕やゼファルの出番だってない。ならば余力は後ろで確実に温存しておくのがベターというものだろう?」

「……う、うん。まぁ、そういうことなら……」

 私は彼の指示にあまり納得がいかなかったんだけど、この場は自分の意見を呑み込んで素直に従うことにした。リカルドはなるべく私を危険に晒したくないという気遣きづかいで、それらしい理由を付けて待機を指示したんだと思ったから。

 それに私たちの指揮系統のトップはリカルド。あまり揉めると集団の士気を下げ、混乱を招く。自滅に繋がる行為は避けなければならない。

 なによりリカルドの戦略もひとつの選択肢としてあり得るものだしね。

 本当は私も積極的に戦ってみんなの力になりたかったんだけど、今はその想いをグッとこらえる。

 …………。

 それにしても、ナイルさんはどんな魔法を使おうというのだろう? リカルドの発言や呪文スペルの詠唱にある程度の時間がかかるということから推測すると、おそらくは広範囲に効果が及ぶ強力な魔法。

 でもそれによってもし山が崩落したら、私たちだって無事では済まない。

 ――いや、リカルドならそんなことくらい分かっているはず。だとすれば、周りの環境に影響を与えず、敵だけを一掃できる魔法ということになる。

 そんな都合の良い魔法なんて……。


 っ!? そうかっ、そういうことかっ! ようやく私はナイルさんの使おうとしている魔法の正体に気付く!

 視線をナイルさんに向けると、彼はすでに陣の外側に出て呪文スペルの詠唱を始めている。目をつむって静かにたたずみ、空間に指で印を結んでいる。

 やがて神々しい金色の光が彼の体を柔らかく包み、足下に浮かび上がるのは魔法力で描かれた古代文字や神聖模様で構成された魔方陣。そしてアンデッドの群れを充分に引き付けたところで、ナイルさんはカッと目を見開いて叫ぶ。

彷徨さまよえる魂よッ、在るべき場所へ返れ! 死霊祓いターン・アンデッド!」

 その言葉に応じて魔法は発動し、彼を包んでいた金色の光は一気に眩い光となって膨れ上がった。それは彼を中心として爆発するかのように広がり、周囲の空間を温かく照らし続ける。

 その太陽のような明るさに、私は思わず腕で目を覆った。耳にはあちこちから上がる断末魔の叫びが聞こえてきて、それは反響しつつ次第に薄まっていく。


(つづく……)
 
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