121 / 178
第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第5-4節:終わらない戦い
しおりを挟むその後、辺りは沈黙に包まれ、風の音だけが空間を支配した。私はゆっくりと腕を下げ、視界を回復させつつ周囲の様子を窺う。
するとあれだけの大軍勢だったアンデッドたちは全てどこかに消え去っている。
周りにいた兵士さんたちもその状況を確認したようで、次々に勝利を喜ぶ歓声を上げる。
死霊祓いはアンデッドに対して絶対的な対抗効果を発揮する魔法。神の力を借りた光で照らすことで、彼らの魂をあの世へ送り返すのだ。
アンデッド自身には防ぐ手立てがなく、しかも彼ら以外にはせいぜい光が眩しいと感じるくらいで何の影響も及ぼさない。
なるほど、ナイルさんが死霊祓いの使い手だと知っているなら、リカルドの指示や陣立ては的確で納得がいく。
……私、反省しなきゃ。もっと彼を信じてあげないと。
そんなことを思っていると、リカルドとナイルさん、それにゼファルさんが陣の中へ戻ってきて、私たちは温かく出迎える。
特にリカルドは真っ先に私のところへやってきて得意気な顔をする。
「まっ、結果はザッとこんなもんだ。僕は指示をしただけで実際に戦ったわけではないがな」
「ふふっ、お疲れ様。それにしてもナイルさんの死霊祓いは効果範囲が広いし、かなり高位レベルだよね?」
「まぁな。ナイルは神官の家系の出身でな。死霊祓いはアイツの最も得意とする魔法なんだ。もちろん、剣の腕も達人級だがな。おそらくジョセフやキール、そして悔しいがこの僕よりも強い」
「神官の家系ということは、ナイルさんは回復魔法も?」
「あはは、実はそっちはほとんど使えん。ただ、解毒や呪いなどの解除は出来るぞ。要するに穢れを祓うことの専門だな」
「そうだったんだ」
どれも今まで知らなかったことだったので、私は興味深く聴き入った。
中でも彼が太鼓判を押すほどナイルさんの剣の腕が確かなら、ますますその剣技を見てみたい気持ちが強まる。地方会議が終わってお屋敷に戻ったら、今度こそお手合わせをお願いしよう。
「……おい、なんだありゃ?」
その時、ゼファルさんが山道の前方へ視線を向けながら言い放った。しかも今まで穏やかだった表情は一瞬にして曇り、ついには厳しいものへと変化する。
私を含め全員が一様にその方向を見ると、そこには遠くから整然とした足音を響かせて歩を進めてくる影たち――。
それは一掃したはずのアンデッドの群れだった。即座に後方も確認してみると、やはりそちらからも彼らとは別の集団が歩み寄ってきている。死霊祓いが効かなかったとは考えにくいから、これはおそらく増援だろう。
兵士さんたちの表情が再び緊張に満ちたものになり、すかさず陣形を整え直して身構える。そしてリカルドは深いため息をつくと、最初にアンデッドたちと対峙した時よりも深刻そうな空気を漂わせる。
「やれやれ、ぬか喜びだったか……」
「リカルド様、おそらくこれは近くのどこかにアンデッド召喚の魔方陣が複数あるものと思われます。それをなんとかしない限り、ずっと湧いて出ることでしょう。体力と魔法力に限りのある我々はジリ貧です」
「祓えるか、ナイル?」
「お任せを。ただ、広範囲に効果が及ぶ死霊祓いと違い、解除魔法で魔方陣をひとつずつ消していかねばなりません。そのため、ある程度の時間と手間がかかります」
「リカルド様、解除魔法なら私も使えます。ナイル殿と私で手分けして魔方陣を消しましょう」
横で話を聞いていたリーザさんが即座に協力を申し出た。それを聞くや否やリカルドは大きく頷き、次に打つ手を即断する。
「よしっ、後方側の魔方陣はリーザに任せる。ゼファル、キミはリーザのサポートに回ってくれ。僕は前方側でナイルをサポートする」
「承知ですぜ、リカルド様!」
「兵士たちは引き続き、シャロンやポプラ、ソフィアを守れ!」
リカルドの指示を受け、兵士さんたちは力強く『オーッ!』と鬨の声を上げた。彼の迷いのない采配と希望を抱かせるような空気が全体の士気を上げている。私も勇気が湧いてくる。
(つづく……)
10
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる