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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第1-2節:シャロンの懐妊疑惑!?
しおりを挟むどうしてポプラがそんな気持ちになっているのかは分からない。
ただ、私はそんな彼女の暗い雰囲気を少しでも吹き飛ばそうと思い、冗談めかして問いかけてみることにする。
「ふふっ、いい人ばかりって、いつも叱られているスピーナさんやモーリスさんも?」
「……もちろんなのです。ドジな私を寛容な心で見守ってくれて、ありがたいことなのです。確かに叱られることは多いですけど、それは自分に落ち度があることがほとんどですから」
「なんだかんだでみんなに可愛がられてるよね、ポプラって。それってきっと人徳だと思う。私なんて未だにスピーナさんと壁がある感じだから、少し羨ましいよ」
「私に人徳なんてないのです。死んだら確実に地獄へ堕ちる人間なのですよ……」
ポプラは自嘲するかのような薄い笑みを浮かべ、ポツリと呟いた。その瞳は光を失い、仄暗い陰に満ちている。
その彼女の雰囲気と衝撃的な言葉に、思わず目を丸くする私。どんな言葉を掛ければよいのか、それとも黙って見守る方が良いのか、最適な反応が分からない。考えようとしても、心が動揺していて何も浮かんでこない。
だって地獄に堕ちるだなんて、天真爛漫なポプラには何よりも縁遠いことだと思うから……。
そんな感じで戸惑っていると、リカルドがその場の重苦しい沈黙を破って私に話しかけてくる。
「いずれにせよあの時の状況を考えれば、シャロンが荷物を守ろうとした判断はひとつの選択肢としてあり得るものだった。おかげで今、こうして滞りなく旅が続けられているわけだしな」
「そ、そうだね……」
「ただし、それは結果論に過ぎん。やはり命が最優先だぞ。命を失ったらその時点で終わりだ。一方、もし食料を失ったとしてもフィルザードの者の多くは飢えに慣れているし、何日かなら耐えられる。違うか?」
「……うん、冷静に考えればその通りだよね。ゴメン、反省してる」
「いや、謝るのも反省するのも僕の方だ。フィルザードがもっと豊かであれば、護衛の兵の数だって増やせたものを。そうすればキミにあんな負担をかけず、危険に晒すこともなかっただろうに……」
本当にリカルドは優しい。またしても私を気遣ってくれた。胸が熱くなって、嬉し涙を零しそうになる。
でもここで泣いてしまうと、またいらぬ心配をかけてしまうかもしれないから我慢する。そして私はあらためて決意を心に、リカルドの手を取って強く握りしめる。
「リカルド、これからも一緒に頑張ろう。フィルザードを豊かにするためにも、絶対に風車や水路を完成させないとね。私たちの子どもには、そんな苦労をさせたくないしね」
「ああ、そうだな! …………。――えっ! シャ、シャロンっ? 僕たちの子どもって……まさかキミのお腹には……ッ!?」
「あっ! か、勘違いしないでっ! それはあくまでも将来の話であってっ、今のことじゃないよっ!! だってっ、そもそもまだ私たちは――っ!」
そこまで口にしたところで私はハッとして、慌てて手で口を塞いだ。周囲を見回すと護衛の兵士さんたちは温かい眼差しでこちらを見ていて、つい今まで暗い雰囲気だったポプラさえも頬を真っ赤にして狼狽えている。
瞬時に顔が焼けた鉄のように熱くなる私。気まずさと恥ずかしさで身の置き所がなくて、この場から逃げ出したい気分だ。
唯一、リカルドは最初こそ動転していたものの即座に冷静さを取り戻して、私を真剣に見つめている。
「シャロン、キミはきちんと今後のことを考えてくれているんだな?」
「そ、それはもちろん……。だって私はリカルドの奥さんなんだし……」
「……なるほど」
「っ? なるほどって何が? ねぇ、何がっ!?」
「そんなことよりも、もうすぐ関所に着く。今は目の前の事態にひとつずつ対処していこう」
リカルドは私の問いかけに明確には答えず、それっきり話を打ち切ってしまった。もはや進行方向へ視線を向けたまま、静かに歩を進めている。
…………。
なんだかうまくはぐらかされてしまった感じがする。
私としては今の言葉の真意が気になるところだけど、確かにリカルドが言うように今は間近に迫った事態を解決していかないといけないのも事実。ゆえに私は彼の精悍な横顔を眺めつつ、気持ちを切り替えるのだった。
(つづく……)
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