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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第1-3節:関所での妨害
しおりを挟む関所に到着した私たちは、その門の横に立って警備をしている衛兵さんのところへ歩み寄った。彼は険しい表情をして警戒しつつ、手槍を握り締めて身構える。
「何者だ? 目的と行き先を述べよ!」
「我はフィルザード辺境伯のリカルドである! 速やかにこの場を通されたい!」
前へ出たリカルドは、威風堂々とした雰囲気を纏わせながら強い声で言い放った。その凛とした表情と気高い空気は周囲を圧倒する。妻である私でさえも背筋が真っ直ぐに伸びる気分になる。
彼の姿はまさに純然たる貴族そのもの。王家の血筋とはいえ、平民としてずっと暮らしてきた私には出せない気迫だ。
さすがに衛兵さんも身がすくみ上がり、目を白黒させている。ただ、程なく我に返って、リカルドに対して負けじと物言いをする。
「貴殿が本物のフィルザード辺境伯かどうかは怪しい。通常の通行者と同様に身辺や荷物を調べさせてもらう。当然、全員分の通行税も徴収する」
「無礼者! こちらにおわすのは紛れもなくフィルザード辺境伯のリカルド様なるぞ! 特にフィルザード家とスティール家は長きに渡って親密な交流がある! 関所の衛兵のうち、誰ひとりとしてリカルド様の顔をご存じないなどありえん! しっかり確認なされよ!」
すかさず前に出たナイルさんが、憤慨しながら叫んだ。その迫力はリカルドに負けず劣らずといった感じで、普段の温厚さはすっかり鳴りを潜めている。
それに対して衛兵さんはリカルドの時と違い、意外と落ち着いた様子のままでいる。
「貴殿は?」
「リカルド様を警護する親衛隊長のナイルだ」
「ナイル殿、そちらの御方がフィルザード辺境伯とよく似ているのは間違いない。だが、何者かが騙っている可能性もあり得る。この関所の警備を担う兵のひとりとして、辺境伯ご自身であるという確証がない以上はすんなり通すわけにはいかん」
「くっ、埒が明かん。関所を警備している責任者をここへ」
「……承知した。少々お待ちを」
衛兵さんは落ち着いた様子でそう言い残すと、関所の奥へと入っていった。
その場には代わりに別の衛兵さんがやってきて警備を引き継ぎ、私たちはそのまま待機することとなる。
…………。
なんだか違和感を覚える。彼らはこうしたやり取りを想定し、あらかじめ準備や練習をしていたかのような気がする。慌てた様子が全然ないし、衛兵さんの交代もスムーズだから。嫌な予感しかしないな……。
やがて門のところには威厳のある雰囲気と一段格上の鎧や剣を装備した将校らしき兵士さんがやってきた。彼は堂々とした態度でリカルドに話しかけてくる。
「お待たせしました。私がこの関所の警備隊長を務めている少尉のフレインです。部下から事情を聞きましたが、もしその話の通りであれば兵として彼の言動は当然のものかと。通行税も調査も免除して通せというなら、身分を証明していただきたい」
「分かった。では、フレイン。これを見よ」
リカルドは懐の中から一通の書簡を取り出した。
そこには金箔などであしらわれた豪華なデザインとイリシオン王家の紋章の印、そして細かな文章が記されている。
ちなみにそれは私も公務の作業時に見ているので、何なのかを即座に理解する。
「イリシオン王国のギル国王陛下から発せられた東部地域会議の召集令状だ。フィルザード辺境伯である僕に宛ててのものだ。これなら良いだろう?」
「まずその召集令状が本物であるかを調べねばなりません。また、もしそれが本物だとしても、あなた自身がフィルザード辺境伯本人かどうかの証明にはならない」
「では、この勲章はどうだ? 僕が爵位を受け継いだ際、ギル様から直々にいただいたものだ」
書簡に続き、リカルドは胸ポケットから技巧の凝らされた勲章を取り出した。
私の記憶が確かならそれはイリシオン王国内での爵位を示すもので、王家御用達の職人によって製作された美術品と言ってもいい代物。しかも一つひとつが全て異なるため、それが各貴族の身分を証明するものともなっている。
(つづく……)
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