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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第1-5節:謎の才女による助け船
しおりを挟む当然、彼は本気でやっているわけではないだろうけど、ちょっぴり楽しそうにしているようも見える。またいつもの悪いクセというか、悪戯心が出ているみたいで、私は心の中で苦笑いを浮かべてしまう。
一方、そんなことが分かるはずもないフレインさんは激しく取り乱しながら、思わず後ずさりをしている。
「ま、待てっ! 早まるなっ!」
「――何の騒ぎですか、これはっ!」
「っ!? ア、アリア様っ? な、なぜこちらに……?」
その時、関所の奥から数人の屈強な兵士さんたちを引き連れて若い女性が現われた。
彼女は周囲にいる関所の衛兵さんたちを強く睨み付けながら、こちらに向かって真っ直ぐ歩み寄ってくる。
それに対し、衛兵さんたちは彼女たちの後方に下がって姿勢を正すと、一様に素早い動作で敬礼をして佇んでいる。その様子はまるで海が真っ二つに割れていくかの如くで、彼女の行く手を遮ることはない。
どうやら彼女の名前はアリアさんというらしい。しかもフレインさんや関所の衛兵さんたちが恐縮していることを考えると、彼らよりも立場が上の人物なのだろう。
彼女は肩の下まで綺麗な金髪をストレートに伸ばし、穏やかそうな目には丸い眼鏡を掛けている。身長はリカルドと同じくらいに高く、落ち着いた雰囲気を漂わせている。仕事の出来る才女といった印象だろうか。
年齢はおそらく私よりも何歳か上。また、肌は透き通るように綺麗で、身なりも清潔感がある。同性の私でも思わず見とれてしまうくらいの美人だ。
「フレイン、この騒ぎは何事なのですか? 答えなさい」
「あ……いや……これは……」
「私がこの場にやってきたことに、随分と驚いているようですね? 想定外のことが起きたとでも言わんばかりでしょうか? 顔にそう書いてありますよ」
「け、決してそのようなことは……」
「リカルド様がフィルザードをご出立なさったとの報告が入り、私は急ぎ出迎えに参ってたのです。そして今、到着したというわけです。これはノエル様のご意思です。その旨を記した指示書もここにあります。いずれにせよ、まずはこの事態の顛末を説明してもらえますか?」
アリアさんは眼鏡の位置を正すと、キリッとした瞳でフレインさんに迫った。彼女の周りにいる屈強な兵士さんたちも鋭い視線を彼に向けている。
さすがにこうした状況になってしまっては、フレインさんも沈黙し続けるわけにはいかない。私たちとの間で起きたトラブルの一部始終を説明する。
そしてその全てを聞き終えたアリアさんは納得したように小さく頷く。
「――なるほど、そういうことでしたか。では、この御方が本物のリカルド様であることは私が保証しましょう。リカルド様と私は幼馴染みの間柄。間違えるはずがありません」
「し、しかし……」
「私が信用できないとでも言うのですか?」
「そ、そういうわけでは……ありませんが……」
「もし私たちの目の前にいるリカルド様が偽物だった時、私が全責任を負います。ですから皆様をお通ししなさい」
「ぎ、御意……」
次々と発せられるアリアさんの真っ直ぐな言葉に、とうとうフレインさんは苦悶の表情を浮かべながらも首を縦に振った。
おそらく裏で糸を引く人物の指示とアリアさんの指示の間で板挟みになって、彼としては深い葛藤があったんだろう。ただ、話の筋が通っていて論理も強固なのはアリアさんだから、最終的には彼女の指示に従わざるを得ないと判断したのだと思う。
まぁ、ヴァーランド内で立場のある人がリカルドの身元を保証するなんて言ったら、それを突っぱねるのは難しいよね。――っていうか、まさかアリアさんがリカルドの幼馴染みだったなんて思わなかったけど。
それはそれで私は聞いた瞬間に心臓が止まりそうになるくらい驚いたし……。
リカルドにこんなにも美人で素敵な女性の幼馴染みがいたなんて、考えもしなかった。そしてどうしてもふたりの関係が気になって、頭の中がモヤモヤする。胸の奥もなんだか痛くて息苦しい。
リカルドに視線を向けてみても、今のところは特に大きな反応を見せていない。さすがに炎の魔法を行使するのは止めているけど、淡々と事態の推移を見守っている。これでは彼の内面を窺い知ることが出来ない。
一方、アリアさんは自分の指示に従う姿勢を見せたフレインさんに対し、鋭かった表情を緩めて穏やかな瞳を向ける。
「関所の警備を厳重にせよとは、父の指示なのでしょう? ……フレイン、いつもありがとう。大丈夫、何かあれば私が間に入りましょう。この場にいる衛兵たちにも処分が下らないようにします。安心なさい」
「っ! ……過分なるご配慮……ありがとうございますッ!」
「さぁ、この場は私に任せて、あなたはもう下がりなさい。ほかの衛兵たちにも通常通りの任務に戻るよう指示を」
「かしこまりました!」
フレインさんは敬礼をしながら返事をすると、関所の奥へと走って引っ込んだ。周りにいた関所の衛兵さんたちもそのあとに続く。
(つづく……)
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