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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第1-6節:幼馴染みは恋のライバル!?
しおりを挟むそしてアリアさんはそんな彼らの背中を見送ったあと、屈強な兵士さんたちとともにこちらへ歩み寄ってきて、その全員が私たちに向かって片膝を付きつつ頭を下げる。
「ご無沙汰しております、リカルド様。お出迎えが遅れまして申し訳がありません。また、我が部下によるお騒がせとご無礼、どうかご容赦を。今後は私と直属の部下たちがヴァーランドまで同行し、ご案内させていただきます」
「うん、頼んだぞ。――元気そうだな、アリア。まさかキミがわざわざこんなところまで出迎えに来てくれるとは思わなかった。だが、キミが一緒なら今後のヴァーランド領内を行くのはスムーズになることだろう。助かるぞ」
「恐れ入ります」
「それと今の裁定、見事だった。その様子だと公務に関しても上手くやっていそうだな。今やすっかりスティール伯爵の右腕といったところか」
リカルドの瞳はいつになく優しくて柔らかで、しかもアリアさんをべた褒めだ。
…………。
……ま、まぁ、相手は幼馴染みなんだから仲が良くて当然だよね。しかもこの場は彼女のおかげで穏便に収まったわけだし。
だけど私はますます胸が締め付けられるような想いが強くなって息苦しい。
そんな中、アリアさんはリカルドの言葉に浮かれることもなく、落ち着いた様子のまま受け答えをする。
「いえ、私などまだまだ未熟。事実、この関所まで本家からの情報伝達や意思疎通の徹底がなされておらず、今もリカルド様のお手を煩わせるような事態になってしまってお恥ずかしい限りです」
「ヴァーランド城から離れた場所であれば、どうしても目が行き届かないという面もあるだろう。多少はそういうことがあっても仕方ない。今後、改善していけば良いと思うぞ」
「……相変わらずリカルド様は慈悲深いことでございます。ただ、今後の改善ということであれば、リカルド様自身も戯れを程々にしていただきたく存じます」
「僕の戯れ? 何のことだ?」
リカルドはポカンとしながら首を傾げた。ただ、そこにはどことなくわざとらしい雰囲気も漂っている。こういう時の彼は本音を隠し、素知らぬ振りをしていることが多い。
当然、幼馴染みであるアリアさんはそれが分かっているようで、呆れ返ったような顔をしながら深いため息をつく。
「関所を焼き尽くして強引に突破しようなど、そんな心にもないことをおっしゃらないでください。フレインを脅して、その反応によってこの事態を打開する対策を決めようとしていたのでしょう?」
「ふふっ、気付いていたか。さすが僕の幼馴染みだな」
「はい、手に取るように分かります。今回のこと、いずれフィルザードへお伺いする機会があった際にシーファ様へ報告させていただきます。そして叱っていただきますので、どうかお覚悟を」
アリアさんはリカルドに向かって冷たく言い放った。丁寧な口調と態度で身分を弁えつつも、今回は幼馴染みとしての親しみもあるやり取りになっているように感じる。
それに彼女の釘の差し方は見事だと思う。リカルドにとってお義姉様のことを持ち出されるのは最大の泣き所で、ぐうの音も出ないはずだ。
ただ、なぜかリカルドは困惑するどころか嬉しそうな顔をして感慨深げに頷く。
「うん、ぜひそうしてくれ。姉上もキミに会いたがっていたぞ。何か理由を付けて、ぜひ近いうちに当家の屋敷へ遊びに来い。歓迎する。会えていなかった間のこと、色々と聞かせてくれ。僕や姉上もキミに話したいことがたくさんある」
「……っ……はい! ありがとうございます!」
瞳を輝かせ、うっとりとした表情で首を小さく縦に振るアリアさん。やっぱりふたりは幼馴染み同士だから、立場の違いはあれどその垣根を越えた親しみや感情があるんだろうな。私としても彼女を見ていて心が温かくなってくる。
するとそんな私の視線に気付いたのか、リカルドがこちらに向かって声をかけてくる。
「おっと、キミに紹介しよう。彼女は僕の幼馴染みのアリアだ」
「アリアと申します。以後、お見知りおきください」
「リカルドの妻のシャロンです。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って私が頭を下げると、アリアさんは小さく息を呑んでから太陽のような明るい笑みを浮かべる。
「あなたがシャロン様でしたか! お噂はあちこちから色々と伺っています。リカルド様には勿体ないくらい才色兼備なご令嬢だとか。こうして実際にお会いしてみて、それが真実であると確信しました」
「そ、そうですか……」
アリアさんは声のトーンや話すスピードが上がり、興奮している様子だった。でも本心は別のところにあって、ちょっとわざとらしい気もする。
(つづく……)
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