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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第1-7節:アリアの立ち位置
しおりを挟むいずれにせよその圧倒的な勢いに押され、私としてはやや当惑してしまう。
「ちなみに王家の血筋にもかかわらず、つい最近まで平民として暮らしていたとのこと。それは本当なのですか?」
「えぇ、まぁ。色々と事情がありまして」
「政略結婚ということですよね? 辺境伯夫人としてのご苦労もあることでしょう。ただ、リカルド様との暮らしが満更でもないようなご様子でなによりです。リカルド様もフィルザード家の皆様もお優しいですものね」
「おかげさまで……」
「今後もリカルド様をよろしくお願いします。幼馴染みとして、そのことがどうしても気になってしまいますもので」
「そ、そうですか……」
私としては愛想笑いを浮かべながら適度に相槌を打つくらいしか出来なかった。
それに彼女の言葉にはどことなくトゲがあるような気もして、全てを素直に受け取れない自分がいる。どうしても心を許しきれないというか……。
…………。
アリアさん、リカルドに対して幼馴染み以上の感情を持っているのかな……?
もしそうだとして私が彼女の立場なら、横からリカルドを掠め取った盗人のように私のことを思うかもしれない。心の内では嫉妬と憎悪が膨れあがって、爆発寸前なのを堪えていたとしても不思議じゃない。
もちろん、私がリカルドのところへ嫁ぐことになった経緯に私は関わっていないんだけど、彼女の心情を考えると私としても複雑な気持ちにならざるを得ない。
私の取り越し苦労というか、アリアさんがリカルドのことを単なる幼馴染みとしか思っていないならいいんだけどね……。
――そうだ、リカルドはどうなんだろう? 彼はアリアさんのことをどう思っているのかな? 特別な感情なんて持ってないよね? 幼馴染みとして仲が良いだけだよね?
うぅ、急に不安になってきた……。
でもそんな弱気な心情を表に出すことなんて出来ない。そして彼に本心を確かめようにも、私の望まない答えを口にする可能性だってないとはいえないから訊くのが怖い。それなら何も知らないままという、現状維持の方がまだマシだ。単なる逃げかもしれないけど……。
だから私は必死に平静を装いつつ、リカルドの様子を黙って窺い続ける。
一方、彼はやれやれと肩をすくめながらアリアさんに声をかける。
「アリア、一度にいくつも質問をするからシャロンが困っているだろう。まだまだヴァーランド城まで距離があるのだから、その道中で少しずつ話をしていけばいいじゃないか」
「あ、そうですよね……。では、出立までもうしばらくこの場でお待ちください。待機させている直属の部下たちに、今後の指示を出して参りますので」
アリアさんはリカルドと私に向かってそれぞれ丁寧に会釈をすると、屈強な兵士さんたちとともに関所の奥へ戻っていった。
そんな彼女たちの後ろ姿を見送ると、リカルドは私と肩が触れるほどの位置まで歩み寄ってきてクスッと優しく微笑む。
「相変わらずマイペースなヤツだ。そこがアリアらしいとも言えるがな」
「……あの、リカルド。アリアさんについてもう少し詳しいことを教えてくれたら嬉しいな。リカルドの幼馴染みということしか、まだ分かってないから」
あくまでも感情を抑え、無味無臭のありきたりな質問という感じで私はリカルドに問いかける。嫉妬していると思われるのも、彼の気持ちを疑っていると捉えられるのも嫌だから。
すると幼馴染みとの思わぬ再会に気持ちが緩んでいるのか、幸いにもリカルドは何も勘ぐることなく即座に答えてくれる。
「昔から彼女はよく当家に遊びに来ていてな。年齢は十八歳で、僕と姉上の間に入って場をまとめるのが上手かった。おっとりとしているが心は強くて賢い。何年か前に王都の王立学校へ留学に出て、数か月前にヴァーランドへ戻ってきたらしい」
「そういえば、さっきのアリアさんやリカルドの言動から察すると、スティール家でそれなりに重要なポストに就いているみたいな感じだったよね?」
「現在はカイン殿――要するにスティール伯爵の筆頭秘書官として、辣腕を振るっていると聞く。元々、彼女は頭の回転が速くて秀才だったからな。王都でますます知識や経験を積み、それが活かされているのだろう」
私はそれを聞いて、フレインさんがアリアさんに対して平身低頭していたことをようやく納得した。だってスティール伯爵の権威が後ろ盾にある彼女の機嫌を損ねれば、どんな処分を受けることになってもおかしくないから。
(つづく……)
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