色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
3 / 66
序章

“回想録”

しおりを挟む
 二人が調べているユルゲン・クリーガーは、クララ・クリーガーの祖父。
 クララによると彼は十年ほど前に既に亡くなっているそうだ。

 ユルゲン・クリーガーの生前に彼の半生ついて書かれた本が出版された。それは、“ユルゲン・クリーガー回想録”という。

「お爺様の経歴って、ちょっと複雑だよね」
 クララはそういって“回想録”を手に取り、パラパラとめくって本の中を確認するために眺めた。
「最初はブラウグルン共和国、次にブラミア帝国、帝国の崩壊後はパルラメンスカヤ人民共和の軍に所属」

 ユルゲン・クリーガーは、パルラメンスカヤ人民共和国の南で国境を接する隣国・ブラウグルン共和国の首都ズーデハーフェンシュタットの生まれだった。両親を早くに病気で亡くし六歳から孤児院育ち。十三歳の頃、 “深蒼の騎士” であったセバスティアン・ウォルターという人物に見出され、 “深蒼の騎士” になるための教えを受け、剣術と魔術を鍛錬してきた。

 “深蒼の騎士” とは、共和国で精鋭騎士で、慈悲と博愛を謳い、高い剣技とわずかばかりの魔術を駆使し、長きにわたって共和国を守ってきたという。
 そして、ユルゲンは、十六歳の時に従軍。二十二歳で “深蒼の騎士” の一員となった。

 一方、イリーナとクララが住む、パルラメンスカヤ人民共和国の前身のブラミア帝国は軍事国家であった。
 五十五年前、ユルゲンが三十一歳のある日、ブラミア帝国は圧倒的物量をもってブラウグルン共和国へ侵攻した。共和国軍は敗退を続け、ついに帝国軍は首都に迫った。共和国軍はグロースアーテッヒ川での最終決戦でほぼ壊滅状態となり、その後、無条件降伏した。当時の共和国政府による、首都の住民に被害を及ぶことを防ぐための決断だった。
 こうして共和国は帝国に併合されてしまった。占領後、多くの共和国の指導者、軍の上級士官が処刑された。その頃、ユルゲンは下級士官であったため処刑は免れた。

 この戦争のことをパルラメンスカヤ人民共和国では“イグナユグ(南進)戦争”、一方のブラウグルン共和国では、“ブラウロット(青赤)戦争”と呼んでいる。

 ブラウグルン共和国はその後、三年もの間、ブラミア帝国に占領支配されていた。
 その頃、ユルゲンは剣の腕前を買われて帝国の傭兵部隊に参加し、隊長に就任していた。

 「やっぱり、“三大事件”のあたりが謎だらけだと思う」
 イリーナは手元の資料をめくって言った。
 “三大事件”とは、“チューリン事件”、“ソローキン反乱”、“人民革命”のことだ。

 “回想録” には、その他にも面白い物語が載っている。
 特に傭兵部隊の設立から約三年間が興味を引く。
 “イグナユグ戦争” の終結直後に起こった共和国軍戦争継続派との戦い、旧貴族ヴェールテ家の連続殺人事件、セフィード王国からの漂着船、ダーガリンダ王国での坑道落盤事故の救難活動、 “透明な悪魔” 事件、犯罪組織 “シュバルツ・スピネ” との戦い、帝国の秘密警察 “エヌ・ベー”、などなど。
 さらに、遊撃部隊になってからの最後の一年間は、ダーガリンダ王国の “最後の魔術師” 事件、アレナ王国でのカルト宗教事件について載っていた。

 しかし、読み物として興味深い話はたくさんあるが、イリーナとクララが謎だと思っている件については、“回想録”には答えはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...