色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
10 / 66
証言者たち

オットーの証言~禁断の魔術~その3

しおりを挟む
 クララの質問にオットーは答える。
「うむ。話には、まだまだ続きがある。チューリンを倒した後、私たちはその場に来ていた帝国軍にチューリン殺害の罪で捕えられてしまうんだ。でも、ちょうどその時、皇帝が謁見の間から出てきて、師だけ解放しろと言って、師と皇帝は一緒に謁見の間に入ってしまった。アクーニナや私たちはそのまま牢に入れられてしまったので、この後の話は師本人から伝え聞いた話だ」。

 イリーナとクララは固唾をのんで話に聞き入る。
「実は皇帝も偽物で、アーランドソンという魔術師によって体を乗っ取られていたんだ。その魔術はヴィット王国で使用が禁止されているもので、憑依魔術という “禁断の魔術” だったらしい。そのアーランドソンは、次の憑依する体を捜していたんだよ。島に師を行かせたのは、そのテストだったのさ。島で生き残れるほどの剣の腕や才覚の持ち主であれば、次の体としてふさわしいと。そして、皇帝は師の体を乗っ取ろうとして、そこで、戦いが起こった。皇帝の魔術も強力で師も危なかったらしい。もう、だめだと思ったところをオレガが助けたんだ」。
「オレガ?!」
「そう、オレガ・ジベリゴワ。師の弟子だが、その時は城で働くただの召使いだったんだが、彼女がその場に居合わせて、師がやられそうになったところを助けたそうだ。彼女がアーランドソンに剣を突き刺したことで隙ができ、師はその隙をついて倒したと言っていた」。

 驚きの証言だった。
 皇帝が魔術師に体を乗っ取られていた偽物だって? そして、それをユルゲンが倒したという。
 まったく想像もできない内容だった。ユルゲンが倒した翼竜の事件と、“チューリン事件” は全く関係のない出来事だと思っていたが、そんな繋がりがあったとは。

「皇帝は体を乗っ取られて死んでいたので、師が倒したのは偽の皇帝ということで、罪にはならずに済んだ。そして、娘のイリアが即位するが、彼女は国内の混乱を恐れて皇帝が偽物であったことは完全に秘密にされ、死んでいたことも半年間伏せられた。そして、この“チューリン事件”と呼ばれるようになった騒動は、側近チューリンが、権力を不法に手中にしていたということで、公式には皇帝親衛隊によって排除されたということなった」。
「そのアーランドソンという魔術師の事は?」
「もちろん、表には一切公表されていないんだよ。だから誰も知らないだろう? アーランドソンが皇帝の体を乗っ取っていた偽物だった事は、師によると、本人が倒される直前にそう言っていたそうだ」。
「なぜ、公表されなかったのでしょう?」
「そうだなあ…。帝国の頃は、その事が公表されると体制の維持に悪い影響があるから、おそらくそうしたんだろう。革命後に人民共和国政府がそのことを公開されないのは、多分、帝国は、この事件を文書として残していなかったんじゃないかな。いまの政府も帝政時代の文書は全部調べているはずだしね。師も “回想録”には書かなったようだし、この事実を知るのは限られたごくわずかな人間だけだ」。
「「へー」」。
 イリーナとクララは感嘆の声を上げた。
「こんな、貴重な話が聞けて、とてもうれしいです」。
「おどろきです」。
 オットーは微笑んだ。
「よかったね」。

 三人は他にも、傭兵部隊の頃の話を聞いたりするなど、しばらく雑談をする。
 クララが尋ねた。
「お爺様はどんな人でしたか?」
「そうだね…。軍人だったけど戦いはあまり好きではなかったようだね。特に住民や軍に関係ない人の犠牲をできるだけ出さないように考える人だったね。後は、頼まれるとあまり嫌とは言わない、お人好しなところもあったね」。
 そう言うとオットーは笑って見せた。そして、話を続けた。
「剣の腕はかなりのものだったけど鼻に掛けたりせず、傭兵部隊の隊長だったときも、あまり偉そうにすることもない、どちらかというと気さくな人で、多くの人に好かれていたね」。
「へー。良い人だったんですね」。
 イリーナが感心して声を出した。
「私も小さいころの記憶しかないけど、お爺様はとても優しかったです」
 クララがオットーのいうことに同意するようにそう言った。
「あまり軍人っぽくなかったね。もちろんいい意味でだよ」。
 オットーはそういって話を締めくくった。

 オットーは高齢なので、あまり長居をするのは良くないと思い、イリーナとクララは礼を言って早々に去ることにした。彼からは“チューリン事件” の事だけしか聞けなかったが、十分な内容であった。
「ありがとうございました」。
 二人は礼を言う
「この後は、ズーデハーフェンシュタットに行くのかい?」
「はい。ソフィア・タウゼントシュタインさんにお会いします」。
「彼女にも長らく会っていないね。私がよろしく言っていたと伝えてくれ」。
「わかりました」。
 イリーナとクララはオットーの家を後にした。

 二人は宿屋に戻り、オットーの証言で“チューリン事件”について新たに判明したことを確認した。

 イリーナはメモを書いた。

【分かったこと】
・ブラミア帝国の皇帝スタニスラフ四世が殺されアーランドソンという魔術師に体を乗っ取られていた。
・“チューリン事件”のチューリンや怪物はアーランドソンに魔術で操られた傀儡だった。
・魔術師アーランドソンを倒したのはユルゲン・クリーガーであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

絶対に見つかってはいけない! 〜異世界は怖い場所でした〜

白雪なこ
ファンタジー
気がつけば、異世界転生を果たしていたエリザの人生は、その時から恐怖、破滅と隣り合わせなものとなった。 一瞬たりとも気を抜いてはいけない。気付かれてはいけない、知られてはいけない。なのに、異世界転生者の本能なのか、全てを忘れたように純異世界人として生きることもできなくて。 そんなエリザの隠密転生者ライフをコソコソっとお届けしようと思います。 *外部サイトにも掲載しています。

処理中です...