色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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証言者たち

ブラウグルン共和国・首都ズーデハーフェンシュタット

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 大陸歴1710年5月18日・ブラウグルン共和国・ズーデハーフェンシュタット

 翌日、イリーナ・ガラバルスコワとクララ・クリーガーは駅馬車を使ってフルッスシュタットを出発し、さらにグロースアーテッヒ川を渡し船で渡り、夕方にはズーデハーフェンシュタットに到着した。
 ここでも安い宿屋を駅馬車の係員に聞いて、そこに泊まることにした。
 
 宿屋に到着して荷物を部屋に置くと、長旅で疲れた二人はベッドに身を投げ出してぐったりした。
「わたし、ちょっと寝るわ」。
 クララはうつぶせで、枕に顔を半分うずめたまま言う。
「そう。私は少し休んだら、食べ物を買いに行って来るわ」。
 イリーナはそういって、クララの隣のベッドで仰向けで寝そべって、自分の資料を読んでいた。ユルゲン・クリーガーの弟子オットー・クラクスから聞いた話が衝撃的で頭から離れなかった。

 しばらくして、夕刻頃、イリーナは起き上がり、食料の買い出しに街に出かけた。
 宿屋の主人に近くの市場の場所を聞き、そちらに向かう。
 辺りは少々暗くなっている時間だが、人通りは多く、大通りには人民共和国ではまだ珍しいガス灯が明るく辺りを照らしている。イリーナとクララの故郷・アリーグラードも大陸でも人口かなり多いが、それに劣らないにぎわいだった。
 そして、海が近いのか、微かに潮の香りがする。
 海のないパルラメンスカラ人民共和国出身の二人は海を見たことが無かった。明日、時間を見つけて海を見に行きたいとイリーナは思った。

 イリーナが宿屋に戻るとクララはまだ眠っていた。
 イリーナがクララを叩き起こす。
 「晩御飯買って来たよ!」
 「ん?…、ああ、晩御飯? ありがとう」。
 クララが目をこすりながら身体を起こした。
 そして、二人は床に座って、イリーナの買ってきた食べ物を並べる。
 貿易港らしく珍しい果物があった。海も近いので魚の干物も。肉類はソーセージなどをの少し。手洗い桶で手を洗って、二人でわいわい言いながらそれを食べ始める。
「ワインもあるわよ。なんか安かったから」。
 イリーナが瓶を取り出した。
「おお!でかした!」クララは喜んで軽く両手を打った。「でも珍しいねえ。イリーナが飲みたいなんて」。
「たまにはね」。
 イリーナは少し恥ずかしそうに答えた。クララはワインのラベルを見るとアレナ国産とあった。このワインは最近、帝国でもよく出回り始めた品だ。帝国では少々高めだが、共和国ではかなり安く売られていたので、イリーナはお得感から衝動買いしてしまったのだ。
「コルク抜きは?」
「抜かりはない」。そういってイリーナはコルク抜きを取り出した。「さっき、宿屋のおじさんに借りた」。
 イリーナはコルクを抜いた。
 そして、カップにワインを注いで、酒盛りが始まった。
「かんぱーい!」

 ◇◇◇

 翌日の朝、イリーナは旅の疲れの影響もあったのか、二日酔いでうなだれていた。一方のクララは、けろっとしている。
 二人でワインの瓶一本はちょっと量が多かったか。イリーナはさほど酒が強い方ではなかった。一度、何とか起き上がり、コップに水を汲んで飲んだ。そして、またベッドに横になる。
 ソフィア・タウゼントシュタインとは、手紙であらかじめ会う約束をしている。それは、今日の午後だ。それまでには酔いも醒めるだろう。

 クララは一人で食料の買い出しに出かけた。
 正午、少し前にはイリーナの二日酔いも醒めて来た。イリーナが起き上がったところにちょうどクララが返って来た。
「ずいぶん遅かったわね」
「ちょっと迷っちゃって。いろんな人に道を聞いて戻ってきた」
「戻ってこれて良かったわね」
「もう体調はいいの?」
「だいぶ、良くなったわ」

 クララはそれを聞いて安心したような表情をして、買って来た食料の袋をテーブルの上に置いた。
「結局、お昼ご飯になっちゃたよー」
 二人は、資料を読みふけながら、昼食を食べる。
 イリーナは、まだ二日酔いを抑えるため、頻繁に水を水差しからコップに汲んで、飲んでいた。

 イリーナとクララは海を見たことが無かったので、今日のソフィアと会うまでの時間がまだ少しあったので、港を見に行こうということになった。ソフィアも港に近いところに住んでいるらしいので、ちょうどいいだろう。
 歩いて港の桟橋付近まで来た。多くの人が忙しく働いている。数多くの貿易船がいて、積み荷の陸揚げをしていた。

「ここらへんで、お爺様と共和国軍の戦争継続派が戦ったのかなあ?」
 クララが話しかけて来た。
「きっとそうよ。港に停泊していた戦艦の上で戦争継続派の兄弟子と戦ったって“回想録”に書いてあったからね」
 クララは桟橋のほうを指さしながら答えた。
 二人は港の賑わいを見ながら目的地に向かって歩き続ける。

 ソフィアから手紙によると、彼女は海が見える石造りのアパートの二階に住んでいると言う。
 イリーナとクララは目的の建物を見つけると階段を上がり、ソフィアの部屋の前に来た。そして、扉をノックする。
 返事があって出て来たのは中年男性だった。二人が予想外の人物に驚いていると、男性は自己紹介した。
「こんにちは。お待ちしておりました。私は、ソフィア・タウゼントシュタインの息子で、ステファンです」。
「こんにちは、私は、イリーナ・ガラバルスコワです」。
「私は、クララ・クリーガーです」。
 二人は頭を下げた。
「どうぞ中へ」。
 ステファンは二人を中へ招き入れた。
「母は、足が悪くて、最近はほとんど部屋にいるんだよ」。
 そういって、さらに奥に案内する。
 二人が奥の部屋に入ると、ベッドの端を背もたれにしている老女がいた。ステファンは彼女に声を掛けた。
「かあさん、お二人が来たよ」。
 老女は読んでいた本を閉じて顔を上げ、二人を見た。
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