色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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終章

イリーナとクララの冒険

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 大陸歴1710年11月10日・パルラメンスカヤ人民共和国・首都アリーグラード

 歴史の探索の旅から、約半年が経った。

 今日は革命記念日だ。
 正午からパルラメンスカヤ人民共和国の建国五十周年記念パレードが大通りで開催される。街の中央部の広場から城まで、数キロに渡って人民革命軍が行進をするのだ。

 通りの両側には住民がたくさん集まってきて大変な混雑となっていた。イリーナとクララはパレードを見るため待ち合わせをして、大通りまで来たが人が多くて、パレードが良く見えないかもしれない状態だった。

 人々は人民共和国の旗か、50の文字がデザインされた旗を手にしていた。この旗は通りで役人たちが配っていた。
 イリーナとクララも旗を受け取った。

 先頭には現在の軍総司令官アントン・ブアチーゼが礼服で馬に乗ってゆっくりと進んでいく。
 その後ろには騎兵、歩兵と一糸乱れず整然と行進していった。
 その最中、両側の家の二階、三階、四階から人々が投げる紙吹雪が舞う。これは、 “ティッケル・リェーンタ・パラード”だ。
 これは、滅多に行われない歓迎の方法で、前回行われたのは、十年前の建国四十周年パレードの時だった。

 軍の行列は城の中庭まで行われるらしい。中庭を見下ろす城のベランダでは、首相や大臣達が出迎えているらしいが、イリーナやクララなど一般人は城には入れないので、その様子を見ることができない。

 軍の行進の最後尾が通り過ぎると、通りに人々は三々五々散っていった。

 イリーナとクララは、少し移動して、カフェに入った。話の内容は自然と、これまでの調査でのユルゲン・クリーガーの人生や人となりについての話題となった。

 ユルゲン・クリーガーは、ブラウグルン共和国で生まれ、十三歳で師のセバスティアン・ウォルターの弟子となった。そして、共和国軍の精鋭の “深蒼の騎士” となった。共和国が帝国に占領された後は、帝国軍の傭兵部隊の隊長となり、その後、帝国正規軍の副司令官へ。帝国の崩壊後は人民革命軍の上級士官であった。

 これまで証言などからユルゲンは軍人で剣は特に秀でていたが、さほど戦いが好きでない人物であったのは間違いないようだ。所々で無駄な犠牲は避けようとしていた。特に一般住民への被害はなるべく避けようとしていた。
 プラウグルン共和国がブラミア帝国に占領された直後、住民に犠牲者を及ぼさないために徹底抗戦派を倒した。共和国の再独立の際も、命令書の偽造によってモルデンを掌握したのは住民に被害を及ぼさないための策略だった。

 本人による “回想録”によると、ユルゲンはウォルターの弟子になった理由を、 “先の見えない孤児院での生活から逃げ出したい” と思ったからと書いてある。結果的に“深蒼の騎士”となったものの、それは消極的な理由であるようだ。生涯で取った弟子の数が少ない理由もここにあるのかもしれない。

 彼がブラミア帝国に留まることになったのは、彼を留めておきたい皇帝たちが仕組んだ偽の軍法会議によってだ。ユルゲン本人はこのことを知らないまま亡くなった。
 そして、帝国の崩壊後は人民革命軍に参加し、自分や家族の命を守ることを引き換えにヴィット王国へ情報を流すスパイの仕事をすることになった。

 本人の意思にかかわらず、国家や組織など大きなものに巻き込まれていった人生というのは、どうだったのだろうか?
“回想録”には、そういったことについてのユルゲンの思いは書かれていなかった。

 今回の調査の結果で、イリーナとクララには、更に、新たに知りたい事実も出て来た。
 ヴィット王国の秘密組織 “リムフロスト”、それとのユルゲンとの関係だ。アグネッタは詳細は話せないようだったが、彼女の話によるとユルゲンは、人民革命の後、革命軍の中でスパイとして十数年は“リムフロスト”に情報提供の協力をしていたことになる。

 クララは、ちょっと複雑な心境だった。
 しかし、自分の祖父がヴィット王国のスパイを続けていたのも、大陸全体の平和と安定を願っての事だと思いたかった。また、いずれ “リムフロスト”についても詳しく調べる旅をするのかもしれない。

 最後にクララが面白い話題をイリーナに持ち出した。
「そうそう、今回の私たちの調査や旅について本で出版したいって言ってくれている人がいるんだけど」
「ええっ?! 本当?!」
「少し前、ブユケネンさんから手紙が届いて、彼の知り合いの出版社の人で、私達の事にとても興味を持ってくれているみたい。それで、今度ぜひ会いたいと」。
「私達、秘密をたくさん解明したからね」。
「本が売れたら私たちも印税で大金持ちになれるかも」。
「あなたんち、いまでも大金持ちじゃない」。
「もっと、お金持ちになれるかもしれないってこと」。
「あなた、お爺様と違って本当に俗物ね」。
「お爺様は、別格だよ」。
 まあ、たしかに、彼の半生を調べてみて、確かに別格だなと、イリーナは心の中でつぶやいた。

「本のタイトル、何にしようか?」クララが嬉しそうに話す。「『イリーナとクララの冒険』かなあ?」
「えっ? ちょっとダサくない?」。
「わかり易くていいんじゃない」。
「それに、タイトルは、出版社の人が決めるんじゃ?」
「そーかな? でも、絶対『イリーナとクララの冒険』がいいよ。わかり易い」。クララは満面の笑みを浮かべた。「とりあえず、出版社の人と会う日時を決めておくね」。

 イリーナとクララはそんな取り留めのない話を夕方ごろまで語って過ごした。
 ユルゲン・クリーガーの事と調べ始めたのは、初春だった。それが終わった今、もう冬も近い深い秋の季節だ。風も冷たかった。
 アリーグラードは内陸にあるため冬は長い。もうすぐ初雪もあるだろう。

 二人は『イリーナとクララの冒険(仮)』についての出版社との打ち合わせに期待に胸を膨らませた。
 そして、取り留めのない話を終えると、しっかり厚着をして、それぞれ帰路についた。

(完)
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