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2章
57(リュカside)
しおりを挟むリュカside
第一王子殿下はよく見るけど、スピネル公爵子息が声を張り上げているのは初めて見たような気がする。
でも、そうか。そうだった。ジル様はいつか王宮を出なければならないのか。最初から知っていたはずなのに、どこかで気にしないようにしていたのかもしれない。
いいな。あの人は堂々とジル様と一緒にいたいと、好きだと伝えられる立場にいる。それが少し、羨ましい。なんて、そんなことは絶対に口にもできないのだけれど。
そっとお二人から視線を外して、ジル様が見つめる花に目を向ける。
再度見ても、その落ち着いた色の花に見覚えはない。王宮の庭園は行き尽くしたと思っていたが、ジル様はいつこの花を見たのだろう。離宮の方に咲いていたのだろうか。もしそうなら、今度離宮の方に足を運んでみよう。
車椅子で離宮まで行くのは大変だから、アレクにジル様を抱えてもらうか、俺一人で行って花を摘んで持ち帰ればいい。
窓辺にでも飾ったら喜んでくれるだろうか、そんなことを考えながらジル様に視線を戻した、ちょうどその時だった。
ふわりと、糸が切れたようにその小さな体が前に倒れた。
ジル様が車椅子から転がって花壇に倒れ込むのが、スローモーションのように見える。
花壇の中に倒れたまま、動かずに目を瞑っている。眠っているのとは違う、どこか蒼白に見える顔色と、少しだけ荒い呼吸音。
その姿に二年前の“あの日”の酷い寒さが体を覆い隠したような気がした。
あの日の、あの未知や死への恐怖と何もできない自分の無力感。少しずつ薄れていたその感覚が鮮明に蘇る。
いつからだ、いつから体調を崩していた?また気付けなかった。ちゃんと見ていたはずなのに。どうする、どうしよう。足が竦む。ジル様が動かない。怖い。今ここにノア先生はいない。頼れない。このまま目が覚めなかったら、どうしよう。こわい。ジル様、じるさま
「リュカ!」
呼ばれて、ハッとそのどうしようもないほどの無力感が霧散した。
違う。今はもう、何もできなかった二年前とは違う。今は立ち止まっている場合じゃない。
「アレク!医務室まで急いで!サロモンは俺を手伝って!」
「任せろ」
「わかった!」
「俺も一緒に行こう。学園内は把握している」
ここから医務室までは、アレクなら走れば凡そ三分程度で着く。往復で6分ほど。
アレクとスピネル公爵子息の荒い足音を後ろで聞きながら、俺も竦む足を無理矢理にでも動かしてジル様のすぐ横に膝をつく。
大丈夫。簡単な処置くらいなら、ノア先生から教えてもらった。こういう時のために教えてもらったんだ。だから大丈夫。きっと大丈夫だ。
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