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2章
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しおりを挟む「マ、ルク」
「おう、ジル様どうした?」
「トリスタン、は?」
「ああ、あいつなら今日は訓練の日だ。晩飯の頃には戻ると思うぞ」
俺を攫ってからずっと俺を運ぶ役目を担ってくれている男__マルクは俺がなんと呼べば良いのか迷っていると案外あっさりと名乗ってくれた。誘拐犯なのに、と思いはしたが今さら関係ないのだろう。マルクという名前ももしかしたら偽名かもしれないし。
マルクが名乗るともう一人の臆病な男__トリスタンも名前を教えてくれて、それ以来は名前を呼ぶようにしている。
二人もルベウス公爵家で俺のことを王子様と呼ぶことに躊躇われたのか、あの日から呼び方を改められた。俺も王子様なんて呼ばれ方は好きではないから、名前で呼ばれる方が良い。
さらに驚いたことにマルクは専門家とまではいかないまでも医術の心得もあるようで、俺が体調を崩した時には看病までしてくれた。護衛騎士は怪我も多いからと、公爵家お抱えの医者から教わっているらしい。
結局あの日、ルベウス家の三人から選択を迫られてから一週間が経過しても、俺は未だに答えを出せずにいた。レノー様達はゆっくり考えれば良いと言ってくれてはいるが、はっきりと答えを出さなければ公爵家の人達にも王宮の人達にも迷惑をかけ続けてしまう。
その間にも何度か王宮騎士が何度かルベウス家に訪れていたようだが、強制的に調査が入ることはなかった。そのため、その時は割り当てられた部屋で犯行時に目撃された可能性のあるマルクとトリスタンと共に大人しくしていたら誰とも会わずにいられた。
このままではいけないと分かっているのに、考えれば考えるほど答えが見えなくなるような気がする。なにを信じたらいいのか、分からなかった。
いつ死んだって良いと思ってた。王宮に行く直前に離宮で死にかけた時だって、今だって死ぬのは怖くない。だから、死ぬのが怖くないから、なにが起きたって平気だと思っていた。
だけど違った。
病気を告げられた時だって誘拐された時だって怖いと思わなかったのに、今はたった一枚の紙が怖い。
たった一枚。何の変哲もないただの紙。
そこに几帳面な字で書かれた単語が、名前が、こんなにも怖いと思うなんて思わなかった。
「……マルク。レノー様たちの話は、ほんとう?」
「さあな。俺にその話の真偽を確かめる方法はねぇが、嘘をつくような人達じゃねぇとは思うぜ」
あの日から何度も繰り返した問答。何度も繰り返しているのにマルクは変わらない答えを返し続けてくれる。だけどいつか、その答えが変わってくれることをずっと願っていた。
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