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1章
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光に刺激されて重い瞼を持ち上げると、見覚えのない白を基調とした清潔そうな部屋が目に入った。
体には布団がかかっていて、ベッドの上で寝かされていたことに気づく。
身体が重くて起き上がる気力も湧かず、視線だけを動かすとすぐに俺の腕に刺さった点滴を見つけた。
体にかかった布団と点滴、明らかに人の手が入った状況にハッとして、無理矢理ベッドから這い出ると、上手く立つ事も出来ず、そのまま地面に体を打ち付け、その際に腕に刺さったままだった点滴を吊るした器具も一緒に倒れ、思いの外大きな音が鳴ってしまった。
するとその音を聞き付けたのだろう。
バタバタと走りながらこちらに近づいてくる足音が聴こえてきたと思えば、すぐに扉が開いて白衣を着た男性が部屋に入ってきた。
「っ、ジルベール様!?どうされましたか?」
その男性は地面に倒れる俺を見て軽く目を見開くと、その勢いのままに俺のそばまで駆け寄って来て、俺の体を慎重にベッドへと戻した。
それから、倒れた拍子に点滴の針が抜けた影響で出血していた腕の処置をして、それ以外に体に異常がないかを診終わると、ホッ、と安堵したような表情を浮かべて、ベッド脇に置いてあった椅子に腰掛けた。
「これで、とりあえずは大丈夫でしょう。…さて、自己紹介がまだでしたね。ここは王宮の医務室で、私は王族専属の医師のノアと言います。これからしばらくは、こちらにお過ごしいただく予定ですので、何かあれば遠慮なく仰ってくださいね」
ノアと名乗った30代ほどのその人物は、人好きのする柔和な笑みを浮かべながら、そう言った。
もう、あそこには戻れないと、言外に告げられているようだった。
しばらく俺がぼんやりしている間にも、何かを話していたようだったが内容が頭に入って来ず、彼もそのことに気づいたのだろう。
声が途切れたと思えば、その穏やかな声色で名前を二度三度と呼ばれ、そこでようやく反応する事ができた。
「……ジルベール様、ご飯は食べられそうですか?なにか食べやすいものでもお作り致しますよ」
いらない、そう意味を込めて首を横に振ると、彼はそうですか、と言いながら困ったように笑った。
「ではお水だけでも」
そう言って水差しに入っていた水をグラスに注ぎ、差し出してくるものの、それも受け取る気になれず、先程と同じように首を横に振ってそれを拒否する。
「……では、こちらに置いておきますので、喉が渇きましたらお飲みくださいね。私はしばらく隣の部屋にいますので、なにかありましたらそちらのベルでお呼びください」
彼はそう言いながら恭しく一礼して、静かに去って行った。
きっと、これ以上話しても無駄だと判断されたのだろう。
一人になったこの部屋は、静かで冷たく感じた。
体には布団がかかっていて、ベッドの上で寝かされていたことに気づく。
身体が重くて起き上がる気力も湧かず、視線だけを動かすとすぐに俺の腕に刺さった点滴を見つけた。
体にかかった布団と点滴、明らかに人の手が入った状況にハッとして、無理矢理ベッドから這い出ると、上手く立つ事も出来ず、そのまま地面に体を打ち付け、その際に腕に刺さったままだった点滴を吊るした器具も一緒に倒れ、思いの外大きな音が鳴ってしまった。
するとその音を聞き付けたのだろう。
バタバタと走りながらこちらに近づいてくる足音が聴こえてきたと思えば、すぐに扉が開いて白衣を着た男性が部屋に入ってきた。
「っ、ジルベール様!?どうされましたか?」
その男性は地面に倒れる俺を見て軽く目を見開くと、その勢いのままに俺のそばまで駆け寄って来て、俺の体を慎重にベッドへと戻した。
それから、倒れた拍子に点滴の針が抜けた影響で出血していた腕の処置をして、それ以外に体に異常がないかを診終わると、ホッ、と安堵したような表情を浮かべて、ベッド脇に置いてあった椅子に腰掛けた。
「これで、とりあえずは大丈夫でしょう。…さて、自己紹介がまだでしたね。ここは王宮の医務室で、私は王族専属の医師のノアと言います。これからしばらくは、こちらにお過ごしいただく予定ですので、何かあれば遠慮なく仰ってくださいね」
ノアと名乗った30代ほどのその人物は、人好きのする柔和な笑みを浮かべながら、そう言った。
もう、あそこには戻れないと、言外に告げられているようだった。
しばらく俺がぼんやりしている間にも、何かを話していたようだったが内容が頭に入って来ず、彼もそのことに気づいたのだろう。
声が途切れたと思えば、その穏やかな声色で名前を二度三度と呼ばれ、そこでようやく反応する事ができた。
「……ジルベール様、ご飯は食べられそうですか?なにか食べやすいものでもお作り致しますよ」
いらない、そう意味を込めて首を横に振ると、彼はそうですか、と言いながら困ったように笑った。
「ではお水だけでも」
そう言って水差しに入っていた水をグラスに注ぎ、差し出してくるものの、それも受け取る気になれず、先程と同じように首を横に振ってそれを拒否する。
「……では、こちらに置いておきますので、喉が渇きましたらお飲みくださいね。私はしばらく隣の部屋にいますので、なにかありましたらそちらのベルでお呼びください」
彼はそう言いながら恭しく一礼して、静かに去って行った。
きっと、これ以上話しても無駄だと判断されたのだろう。
一人になったこの部屋は、静かで冷たく感じた。
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