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結婚式
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「ライラ。大丈夫だ、俺がいる」
「アレン……うん」
仲睦まじい様子見て、この問題にさっさと終わりを告げたい存在がいた。
精霊王だ。
委任された土地とはいえ、さんざん村人や信徒たちに辛い思いを背負わせてきた自分の問題を棚に上げて平気な顔をできるほど、彼もまた達観してはいなかった。
彼の母親が元人間から水の精霊女王になったように、彼もまた半身は人間の血を引く混血児。
純粋な神の仲間たちに混じり、その孤独感と異質さは与えられたものにしか理解できない。
その立場になったものにしかわからないのだ。
「あー……分かった。シュノーベルズ様には私から話をしよう。アレンの領地については、直接、結界を張ることにする。この土地と隣り合わせになるように、移動することも可能にするとしよう」
「……え?」
「主、一体なにを……? だけど、それでは神が現世に干渉を……」
「何を言うか。現世における私の代理人の一人、アレンの領地にその主が結界を張って誰が文句を言う?」
「いや、しかし……。それじゃ、南の魔王と対立することに……なるんじゃ」
「ふむ。そちらはそちらで別の魔王におねがいするとしよう。魔族のことは魔族で話をつけさせるのが一番いい。それに……いや、これはこちらの話だ」
不意に何か問題を思い出したかのようにする精霊王は、だが、頭を振ってそれを打ち消した。
水の精霊王のはずなのに、黄金のような金髪は揺れるたびに鱗粉のような光の粉をふりまいていて、子供たちはそれをつかもうとして無邪気に遊んでいる。
このまま主がずっと現世にいてくれればいいのに。
村人たちの思いは、神殿騎士たちやライラたちの思いとも重なって、水の精霊王エルウィンの心へと届いていた。
「このままずっと共にいては下さいませんか、主」
ふとライラの何気ない一言が彼の胸をつく。
姿かたちを変え、大神殿やこの村の神官として干渉してきたが、村の祠の奥にある自分の城を訪れる来客はそうは多くなく。むしろ孤独を抱えていたのは、神そのものかもしれなくて。
「い、いいの……か?」
「もちろんです!」
権威も立場も忘れて問いかけたそれに対する返事は、その場に居合わせた人々全員の一致した思いが言葉になったもの。
自分の民を守るためになにかをしなければ。
水の精霊王が強い義務感を感じた瞬間だった。
同時に、家族を知りたいと思った瞬間でも……あった。
人のように感情を表面にだすことが慣れていない彼は、うつむきながら子供の一人を抱き上げてならば、と言葉を続ける。
「では、そうさせてもらうとしよう。とはいっても、まずは何をするかを決めなければならない、ライラ」
十年間、大神殿で行政に携わって来たその能力を見せろ、と精霊王は暗に命ずる。
アレンの腕にしがみついたそれをゆっくりと放すと、ライラは一人で壇上に立った。
「まずは、この村の独立を国に認めさせます。大神殿との密な連携が必要です……そのためには王と対等な誰かが必要……代表者が。でも、精霊王様がいきなり現世に来られたからと言っても信じないでしょう。そこをどうするか……」
「それならば気にすることはない。この王国は結界の外から見れば取り残された異世界だ。先進的な文化を持つ国々ではすでに失われてしまった魔法などたくさん蓄積されている、別の意味で貴重な存在だからな」
「精霊王様、それがどう関わってくるんですか」
「この国の王は名前が大事だということだよ。古い自分の国を捨て新しい文化を取り入れたくて仕方がない。だからこそ結界を緩めることができる聖女の交代も認めたのだろう。あくまでそれはお前……ライラの希望と王の野望が重なった結果に過ぎないが。国王にしてみれば息子の妻がいまは聖女なのだ。好きにやるだろう」
「え?」
今一つライラは理解を覚えない。
アレンがそっと耳にささやいた。
つまり息子夫婦の結婚式を盛大になったように、今度は聖女の戴冠式に多くの外国勢力を招待するはずだ、と。
「しかしそれなら、結局は王太子妃様が聖女になるということだけでは?」
「大神殿と新しく聖女になった王太子妃に、私が神託を下せばいい。十年の単位で繰り返されてきた聖女の交代は先代の聖女ライラの代で終わりを告げた。これからは結界を縮小し、王国のみを守護することになるとな」
「……あ。と、いうことは賢者イブリース様がお作りになられた結界はどうなのですか」
「それだ、位置を少々移動して大神殿がお前のためにと名義を変えておいた土地全てに対して、そちらの古い結界が作動するようにしようと思ってな」
うーん? と、ライラとアレンは首を傾げる。
そうなれば王国の半分以上は、古い結界から外れてしまうことになる。
今度は王国と大神殿の戦争になるのではないか、と危惧を抱き始めていた。
そんな二人の疑問に対して精霊王はあっさりとしたもので、
「王族とそれに関係する貴族が住む場所だけを私の結界に含めればいい。ありがたいことにその過半数は王都の中にいるではないか」
「あ……それはそうですけど。でも結界が緩んでしまったら……どうなるの?」
「王国の中心部だぞ。大した問題が起こるとは思えん。それよりも南の魔王はどうでもいい。問題なのは高原オオカミの帝国だ。信仰を持たない存在というのはこれはこれでややこしい」
確かにそれはそうだ。
神様なんてものが存在しないという連中に関しては、神々が定めたとする土地の割り振りとか、法律とか全く無視してやってきてしまうからだ。
奴らと対抗するとすればやっぱり村じゃなくてきちんとした国としての対応はどうしても必要になる。
大神殿が新しく国を名乗ればいいのかしら。
そんなことにライラが頭を悩ませようとすると、精霊王はめんどくさいことは考えなくていいとバッサリと切って捨てた。
「この村に今ちゃんといるではないか。神殿の最高位の一人が」
「え? っと私ですか?」
「そうだ」
「だけど、ええ? 私に何ができると?」
「大神殿はその名前をアルフライラと変更すれば良い。水の精霊王の大神殿ではなく、アルフライラ大神殿と名前を変えればいい」
なんだかとんでもないことになってきたぞ。
ライラはアレンと顔を二度、三度と突き合わせてどうすればいいの? と不安そうに精霊王の方を見る。
主は面白そうな顔して若い二人の旅立ちを祝おうとしていた。
「七代目の剣聖を名乗る気はあるかアレン?」
「は? 俺ですか、ある――にはありますけど、名乗ってしまったらこの場所で生活することができなくなる……」
「ひとつの場所にずっと定住せず、世界をさまようことによりその力によって多くの均衡を保つのが役割だからな。では知っているか」
水の精霊王はなぞかけでもするかのようにアレンに問いかけた。
「何をですか精霊王様」
「初代の剣聖、アルベルト・デル・シュバイエ公の伝説は知っているな?」
「それはもちろん。知っていますか」
「彼がたった一晩で魔王の軍勢を葬ったというのも本当のことだ。最も、それは私が生まれる前の話だが真実であるとは聞いている。第八位の魔王、蒼骸のルクスター。不死の骸骨の魔王だったというが、さてどうか。蒼い骸骨など考えるだけで恐ろしいが、この八位の座と二つ名は一代だけ続き、そのあとはずっと空白でな、アレン」
「まさ……か、俺に? それを名乗れ、と? 魔王を?」
ゆっくりと精霊王は意地悪そうな笑みを浮かべて頷いていた。
それはあり得ない、とアレンは恐れいななくが……ライラにいつのまにかしっかりと握られた彼の尾は、拒絶を許さないという恋人の強い意志を現わしていた。
「だが、蒼骸ではさすがに美学がない。字面も悪い。蒼凱としてはどうだ?」
「……凱? まだ勝どきの声を上げた気はないですが……拒絶は?」
「なし、だ。根回しは必要だがこれで最低限の準備は整う。子供たちの先祖返りもゆっくりと進むだろう。これからは親子共々、離れて暮らす恐怖に怯えることもない。奴隷となることもないし、この村にはやがて多くの人が集まってくるだろう。国として彼らを守ればいい。まあその前に……最も重要なことだ」
「重要、とは……?」
「アレンにライラ。お互いの気持ちも知れたのだ、そろそろ素直になって受け入れてみてはどうかな」
「あ……」
「それは、その」
純粋な青年と一人の少女は恥ずかしそうに互いを見つめて俯いてしまった。
「結婚式を挙げるのにこれほどふさわしい場所はないぞ? まあ、酒や宴の準備はできていないが。これだけたくさんの人々に見守られて夫婦となるのも悪くはないのではないか?」
言葉とは裏腹に礼拝堂の中には、いやその外にもさらにその外にも。
村の内外に多くの祝宴の場所がいつのまにか用意されていた。
見たこともない食事もなれば会ったことのないような異様なしかし神々しい謎の種族もたくさんやってきて……村に貼られていた結界の外に追いやられた神殿騎士たち――グラント守護卿とその部下たちすらも、この祝宴には招待されていた。
ライラはいつのまにか花嫁の衣装に、アレンは花婿の白衣に身を包んでいたのはさすがに神の奇跡というべきか。
こうして世にも珍しい魔王と聖女の結婚式は訪れた神や竜、魔族の王たちと仲間たちに祝福をされて始まった。
「アレン……うん」
仲睦まじい様子見て、この問題にさっさと終わりを告げたい存在がいた。
精霊王だ。
委任された土地とはいえ、さんざん村人や信徒たちに辛い思いを背負わせてきた自分の問題を棚に上げて平気な顔をできるほど、彼もまた達観してはいなかった。
彼の母親が元人間から水の精霊女王になったように、彼もまた半身は人間の血を引く混血児。
純粋な神の仲間たちに混じり、その孤独感と異質さは与えられたものにしか理解できない。
その立場になったものにしかわからないのだ。
「あー……分かった。シュノーベルズ様には私から話をしよう。アレンの領地については、直接、結界を張ることにする。この土地と隣り合わせになるように、移動することも可能にするとしよう」
「……え?」
「主、一体なにを……? だけど、それでは神が現世に干渉を……」
「何を言うか。現世における私の代理人の一人、アレンの領地にその主が結界を張って誰が文句を言う?」
「いや、しかし……。それじゃ、南の魔王と対立することに……なるんじゃ」
「ふむ。そちらはそちらで別の魔王におねがいするとしよう。魔族のことは魔族で話をつけさせるのが一番いい。それに……いや、これはこちらの話だ」
不意に何か問題を思い出したかのようにする精霊王は、だが、頭を振ってそれを打ち消した。
水の精霊王のはずなのに、黄金のような金髪は揺れるたびに鱗粉のような光の粉をふりまいていて、子供たちはそれをつかもうとして無邪気に遊んでいる。
このまま主がずっと現世にいてくれればいいのに。
村人たちの思いは、神殿騎士たちやライラたちの思いとも重なって、水の精霊王エルウィンの心へと届いていた。
「このままずっと共にいては下さいませんか、主」
ふとライラの何気ない一言が彼の胸をつく。
姿かたちを変え、大神殿やこの村の神官として干渉してきたが、村の祠の奥にある自分の城を訪れる来客はそうは多くなく。むしろ孤独を抱えていたのは、神そのものかもしれなくて。
「い、いいの……か?」
「もちろんです!」
権威も立場も忘れて問いかけたそれに対する返事は、その場に居合わせた人々全員の一致した思いが言葉になったもの。
自分の民を守るためになにかをしなければ。
水の精霊王が強い義務感を感じた瞬間だった。
同時に、家族を知りたいと思った瞬間でも……あった。
人のように感情を表面にだすことが慣れていない彼は、うつむきながら子供の一人を抱き上げてならば、と言葉を続ける。
「では、そうさせてもらうとしよう。とはいっても、まずは何をするかを決めなければならない、ライラ」
十年間、大神殿で行政に携わって来たその能力を見せろ、と精霊王は暗に命ずる。
アレンの腕にしがみついたそれをゆっくりと放すと、ライラは一人で壇上に立った。
「まずは、この村の独立を国に認めさせます。大神殿との密な連携が必要です……そのためには王と対等な誰かが必要……代表者が。でも、精霊王様がいきなり現世に来られたからと言っても信じないでしょう。そこをどうするか……」
「それならば気にすることはない。この王国は結界の外から見れば取り残された異世界だ。先進的な文化を持つ国々ではすでに失われてしまった魔法などたくさん蓄積されている、別の意味で貴重な存在だからな」
「精霊王様、それがどう関わってくるんですか」
「この国の王は名前が大事だということだよ。古い自分の国を捨て新しい文化を取り入れたくて仕方がない。だからこそ結界を緩めることができる聖女の交代も認めたのだろう。あくまでそれはお前……ライラの希望と王の野望が重なった結果に過ぎないが。国王にしてみれば息子の妻がいまは聖女なのだ。好きにやるだろう」
「え?」
今一つライラは理解を覚えない。
アレンがそっと耳にささやいた。
つまり息子夫婦の結婚式を盛大になったように、今度は聖女の戴冠式に多くの外国勢力を招待するはずだ、と。
「しかしそれなら、結局は王太子妃様が聖女になるということだけでは?」
「大神殿と新しく聖女になった王太子妃に、私が神託を下せばいい。十年の単位で繰り返されてきた聖女の交代は先代の聖女ライラの代で終わりを告げた。これからは結界を縮小し、王国のみを守護することになるとな」
「……あ。と、いうことは賢者イブリース様がお作りになられた結界はどうなのですか」
「それだ、位置を少々移動して大神殿がお前のためにと名義を変えておいた土地全てに対して、そちらの古い結界が作動するようにしようと思ってな」
うーん? と、ライラとアレンは首を傾げる。
そうなれば王国の半分以上は、古い結界から外れてしまうことになる。
今度は王国と大神殿の戦争になるのではないか、と危惧を抱き始めていた。
そんな二人の疑問に対して精霊王はあっさりとしたもので、
「王族とそれに関係する貴族が住む場所だけを私の結界に含めればいい。ありがたいことにその過半数は王都の中にいるではないか」
「あ……それはそうですけど。でも結界が緩んでしまったら……どうなるの?」
「王国の中心部だぞ。大した問題が起こるとは思えん。それよりも南の魔王はどうでもいい。問題なのは高原オオカミの帝国だ。信仰を持たない存在というのはこれはこれでややこしい」
確かにそれはそうだ。
神様なんてものが存在しないという連中に関しては、神々が定めたとする土地の割り振りとか、法律とか全く無視してやってきてしまうからだ。
奴らと対抗するとすればやっぱり村じゃなくてきちんとした国としての対応はどうしても必要になる。
大神殿が新しく国を名乗ればいいのかしら。
そんなことにライラが頭を悩ませようとすると、精霊王はめんどくさいことは考えなくていいとバッサリと切って捨てた。
「この村に今ちゃんといるではないか。神殿の最高位の一人が」
「え? っと私ですか?」
「そうだ」
「だけど、ええ? 私に何ができると?」
「大神殿はその名前をアルフライラと変更すれば良い。水の精霊王の大神殿ではなく、アルフライラ大神殿と名前を変えればいい」
なんだかとんでもないことになってきたぞ。
ライラはアレンと顔を二度、三度と突き合わせてどうすればいいの? と不安そうに精霊王の方を見る。
主は面白そうな顔して若い二人の旅立ちを祝おうとしていた。
「七代目の剣聖を名乗る気はあるかアレン?」
「は? 俺ですか、ある――にはありますけど、名乗ってしまったらこの場所で生活することができなくなる……」
「ひとつの場所にずっと定住せず、世界をさまようことによりその力によって多くの均衡を保つのが役割だからな。では知っているか」
水の精霊王はなぞかけでもするかのようにアレンに問いかけた。
「何をですか精霊王様」
「初代の剣聖、アルベルト・デル・シュバイエ公の伝説は知っているな?」
「それはもちろん。知っていますか」
「彼がたった一晩で魔王の軍勢を葬ったというのも本当のことだ。最も、それは私が生まれる前の話だが真実であるとは聞いている。第八位の魔王、蒼骸のルクスター。不死の骸骨の魔王だったというが、さてどうか。蒼い骸骨など考えるだけで恐ろしいが、この八位の座と二つ名は一代だけ続き、そのあとはずっと空白でな、アレン」
「まさ……か、俺に? それを名乗れ、と? 魔王を?」
ゆっくりと精霊王は意地悪そうな笑みを浮かべて頷いていた。
それはあり得ない、とアレンは恐れいななくが……ライラにいつのまにかしっかりと握られた彼の尾は、拒絶を許さないという恋人の強い意志を現わしていた。
「だが、蒼骸ではさすがに美学がない。字面も悪い。蒼凱としてはどうだ?」
「……凱? まだ勝どきの声を上げた気はないですが……拒絶は?」
「なし、だ。根回しは必要だがこれで最低限の準備は整う。子供たちの先祖返りもゆっくりと進むだろう。これからは親子共々、離れて暮らす恐怖に怯えることもない。奴隷となることもないし、この村にはやがて多くの人が集まってくるだろう。国として彼らを守ればいい。まあその前に……最も重要なことだ」
「重要、とは……?」
「アレンにライラ。お互いの気持ちも知れたのだ、そろそろ素直になって受け入れてみてはどうかな」
「あ……」
「それは、その」
純粋な青年と一人の少女は恥ずかしそうに互いを見つめて俯いてしまった。
「結婚式を挙げるのにこれほどふさわしい場所はないぞ? まあ、酒や宴の準備はできていないが。これだけたくさんの人々に見守られて夫婦となるのも悪くはないのではないか?」
言葉とは裏腹に礼拝堂の中には、いやその外にもさらにその外にも。
村の内外に多くの祝宴の場所がいつのまにか用意されていた。
見たこともない食事もなれば会ったことのないような異様なしかし神々しい謎の種族もたくさんやってきて……村に貼られていた結界の外に追いやられた神殿騎士たち――グラント守護卿とその部下たちすらも、この祝宴には招待されていた。
ライラはいつのまにか花嫁の衣装に、アレンは花婿の白衣に身を包んでいたのはさすがに神の奇跡というべきか。
こうして世にも珍しい魔王と聖女の結婚式は訪れた神や竜、魔族の王たちと仲間たちに祝福をされて始まった。
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どうぞこれからも頑張ってください。
期待しております。
ありがとうございます。
これでも修飾・装飾的な表現はできていないつもりです。
女性向けな恋愛を意識しているので少しは書いていますが、重たくなっているのであればある意味、成功かもしれません。