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中央教会編
四章 第十八話 怨念の過去
しおりを挟むロングダルトの近くまで来ていたベオウルフは遠くから国の様子を伺っていた。昔から他国との関わりを遮断していたこの国には、かつて天法皇と呼ばれる人族の者が治めていた国であった。そしてこの天法皇を中心として天使族を信仰する民たちは安寧の下で暮らしていたのだ。ロングダルトはその性質から他国へと国の情報が流れていくということがない。そのため、この国で過去に何が起こり、今はどのような状況であるということはあまり知られていない。
しかしながら、ベオウルフはこの国に起こった過去の出来事を詳しく知っていた。長き時をベオウルフだからこそ知っている『女神の粛清』と呼ばれる百年以上も前に起こった戦争により、この国の運命は大きく変わってしまったのだ。これにより天法皇は崩御し、多数の民がその身を信仰していた者達によって滅ぼされてしまった。
そして現在はゲルオードとベオウルフの二人により国の秘匿性が守られながらも、冒険者を含めて誰もこの国に立ち寄ることはない。
(見た感じは誰もいなさそうだが、明らかに魔力濃度が高え。おそらくハルトを連れ去った黒い空間は転移系の役割と、異空間を作り出す役割があるな。それならメスト大森林で魔物がいきなり増えたのも納得できる······ハルトは城の中か。明らかに誘い込んでやがる)
ゆっくりと静かにロングダルトへと近づいていくと濃度の高い魔力がまるで足に絡みついてくるようだった。
そして体がひりつくように国全体を包み込んでいる魔力の渦にベオウルフは覚えがあった。ほとんどの建物が荒廃する中、ただ一つ中央にある巨大な教会だけがベオウルフの昔知っていたままの姿を保っていた。
明らかに様子がおかしい、そう思いながらもベオウルフは足を進めていき建物の影に隠れつつ教会へと距離をつめて行った。
(······七十三)
「刃怒【ハド】」
少し『ギル』に手を触れると目の前にバタッと音を立てて人が落ちてきた。そしてそれに続くようにしてベオウルフから離れた場所からも肉体が地面に叩きつけられる鈍い音が聞こえてきた。
(これだけしてもまだ誰も出て来ねえのかよ····だがまだ俺の居場所はバレてねえ)
そう思いつつもその後も気配を消しつつ教会の中へと入る。教会の中は開けた天井に豪華な内装が広がっていた。
周りを見渡すと自分の体が小さく感じるほどでまるで別世界に迷い込んだ感覚のするその教会の奥へとゆっくり入っていく。
(二階か?······)
そう思っていた時だった。
「ひとりで乗り込んで来るか。お前はいつも後先を考えて行動しない。だからお前は····守れなかったッ、見殺しにしたッ」
目の前に現れたラグナルクは憎しみを持つような目でベオウルフの顔をジッと見つめた。
「ラグナルク······どうしてお前は人を殺しても何も思わなくなった。お前は、人を守るべき存在だっただろ」
「たわけ、私はもう騎士ではない」
そして睨み合う二人はまだ人を守るべき騎士であった頃を思い出したのだった。
時は、ベオウルフがまだ剣帝になる前まで遡る。この頃、二人は同じギルメスド王国の騎士団に属する騎士であった。
この時はまだ二人とも広く名前が轟くほどの有名な騎士ではなかったが、多くの騎士団からはベオウルフとラグナルクの二人は一目置かれる存在であった。
「聞いたか、ラグナルク。近々東のエスピーテ国と戦うらしいぜ。この戦いで活躍すれば俺らも騎士長くらいの称号をもらえんじゃんねえか?」
「ああ、そうだな。だが活躍しようと下手な真似はやめろよ?」
「わかってんぜ」
するとちょうどその時、一人の少女が二人を見つけると笑顔で駆け寄ってきた。
「二人ともどうしたの? そろそろ訓練始まるよ」
眩いほどの笑顔で二人の顔を見つめたその少女の名は「フィオーレ」という。フィオーレはベオウルフとラグラナルクの二人と同じ騎士団に所属する騎士であり、長く銀色の髪に端正な顔立ちをしたフィオーレは美しい剣筋で当時の二人と比べても戦闘力は遜色なかった。そのため、三人で魔物を狩りに行くということも多く、騎士団の中では息のあった三人で動くことがほとんどであった。
当時、三人の所属する騎士団の騎士団長をしていた人物はガレリアという男であった。ガレリアは一人でSランクの魔物を倒したというその功績から国の英雄と言われている人物であり、そのためガレリアの率いる騎士団には数多くいる騎士団の中でも上位の騎士しか入団することができない。三人はそんなガレリアにその実力を認められ、直接ガレリアの騎士団に引き抜かれたのだ。
三人がガレリアの元まで向かうとすでにそこにはガレリアの他に五人の騎士の姿があった。
「おい、遅えぞ。いつまで待たせる気だ」
そう言ったのはガーバルという屈強な騎士だった。そしてそんなガーバルとは別に「エルサ」と「レイファ」という名の二人の女騎士は優しい笑顔で入ってきた三人を見ていた。
「ごめんねみんな。私が呼びにいくのに手間取っちゃって」
「何をおっしゃっているのですか? フィオーレさんに一切の非はありませんよ」
「そうだそうだー。さっさと席につけー」
二人を庇うフィオーレに諭すようにして穏やかな様子の「メルバド」と「アント」という騎士が少し笑いながらそう言った。
「はいみんなー、話はそのくらいにして俺の話を聞いてねー。そろそろ団長悲しいー」
ガレリアの言葉を聞き全員が静かになった。そして席に着くとガレリアはホッとして口を開いた。
「全員知ってると思うけど、エスピーテ国と近々戦争があるから心積もりしておいて······はぁ、それにしても、まったく上の人間はバカだよな。自分は戦わないからってさ、この戦争で何人の未来ある若者が死ぬと思ってるんだろう。代わりに戦ってみて欲しいわー」
「でもよ団長、俺はこの戦いで戦果を上げて見せんぜ」
「こらこらベオウルフ。君はどうやら勘違いをしてるんじゃないか? 戦争と戦いは違う、前者は無意味な殺し合いだが、後者は自由を勝ち取るための強い意志のぶつかり合いだ。そして今回はバカどもが始めた前者だ」
「は、はい」
「ベオ、君はもっと自分の体を大切にしないとダメだよ。君は時々無理しすぎなんだから、もし私やラーグがいなかったら今頃あなたは生きていないのかも知れないのよ?」
「分かってんぜ」
「それじゃあ、今から国境線に防衛戦を張りに行くから。多少魔物がいて危険だけど作戦は特にありません。みんな頑張ってください、以上」
そうして騎士達はその場を後にして国境へと向かったのだった。
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