ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第十七話 父の誇り

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バーロンガムの上空は眩い光に包まれ、けたたましい程の爆音が響き渡る。
空には激しい爆発が広がりその熱波は地上まで押し寄せていった。
隕石は砕け散り粉々になった破片は空中に散らばっていき地上には再び天からの光が差した。

しかし空を見上げたダイハードの顔は曇ったままであった。

「良い攻撃であったぞ、ウォール・ダイハード。久しぶりに生を実感した」

上昇した隕石は確かにモルガンに激突した。
しかし当の本人は平然とした様子でダイハードを見下ろしていたのだ。

「正真正銘の化け物だな」

(何をしたかお主には見えたか)

(······いいや。この場合何もしなかったと言うのが正解だろう。メテオ・プラトンがあの者に直撃した瞬間、防御魔法や結界を発動する動作すらしていなかったからな。考えたくもないが、かなりの火力不足ということか)

(わしの力も奴には干渉出来ん)

「まだ終わりでは無いだろう、ウォール・ダイハードよ。更なるお主の限界を見せろ。血を吐き肉が抉れ、己の細胞が悲鳴を上げるその時まで戦え。さすれば我も全力のお主に応えよう」

モルガンは戦闘において相手には最大限の敬意を払う。
その敬意こそが機人族であるモルガンの持つ人情なのだ。
そこに最強種としての驕りは一切なく一戦を交えるダイハードに対して真剣に向き合っていた。

「少し聞かせて欲しい。何故お前のような強き者が向こうへついた」

「我らの行動は全て主の命令により決定される。無論、そこに反論の余地は無い。ただ一つ己が意見を述べるのならば、我はこの大陸と全力で戦ってみたい」

「そうか······多くの戦友を守れなかった俺にはもう巨帝という名を名乗る資格が無い。それ故今この時はつまらぬ誇りなど全て捨てよう。娘を守る一人の父親としてこの身を全て捧げる。俺は全力のお前と戦ってみたい」

「——親父ッ」

娘の悲痛な叫びは父親の心へと確実に炎を焚き付けた。
帝王としての誇りは今のダイハードに必要は無い。

「父さん頑張るから、少し見てなさい」

吹っ切れたようなダイハードの顔を見てモルガンは嬉々とした笑みを浮かべた。
これ以上二人の間に交わす言葉など必要ない。

「行くぞッ——グラダリア」

(任せろ)

モルガンへと走り出したダイハードは同時にグラダリアで自身の身体を打ちつけた。
すると褐色の肌は光沢を帯び、ダイハードの全体を包み込んでいく。
空中に飛び上がったダイハードはグラダリアを左手に持ち替え右手の拳に力を込めた。
握り締められた拳はミシリと音を立てて確実にモルガンを捉える。

(握力で空間が歪んでいるか、面白い)

「来いッ! ダイハード」

「うぉらぁああアアアッ——!!!」

雷声と共に鋼の拳は空気を抉りながらモルガンと激突する。
筋力、魔力量、それまでの戦闘でダイハードの持つ力の底をダイハードは理解していたつもりであった。
—しかし完璧に構築されたモルガンのビジョンは突如として砕け散る。

(重いッ——)

モルガンの予想を遥かに超えた重たい一撃は衝撃波として身体中を駆け巡った。
先程まで微動だにしなかったモルガンの両足は地面にめり込み衝撃が伝わるようにして辺りに亀裂が広がっていく。グラダリアにより硬度の上がった拳は更にその重さも増していた。

(跳ね返せんッ)

打撃を受け止めたモルガンの右手にはダイハードの全体重がのしかかる。
更に重さが加わった一撃の衝撃波は止まることなくモルガンを押し潰した。

「久しく忘れていたこの高揚感ッ!! 良いぞッ!!」

(だが少し甘いな、重心が偏りすぎている)

モルガンは身体の重心をずらしながらダイハードの体勢を崩そうと右手にかけられた重圧をいなした。
完璧なまでの自然かつ俊敏な動きはダイハードの身体を地面に引きずり下ろす——はずだった。

「ッ———!」

いなしたはずのダイハードは地面に向かうことなく体勢を保ったまま目の前に立っていたのだ。

(無理矢理重心の位置を変えたのかッ——)

身構える間もなくグラダリアからの二発目が迫っていた。
モルガンは上半身を仰け反らせその身体をグラダリアが掠めた。

(ほう····)

先程からモルガンは魔力障壁によりグラダリアの能力を打ち消していた。
しかし上半身に凄まじいほどの圧力を感じたのだ。
このまま背中から地面に倒れ込めばグラダリアの追撃は免れない。

(畳み掛けろ! ダイハードッ)

確かにグラダリアは掠めたがモルガンは魔力障壁で防いだはずであった。
しかし”空気”は違う。モルガンの周りに存在した空気はグラダリアの影響を受け、ダイハードの追い風となっていた。

巨巌の鉄鎚トール・ヴラフス

グラダリア自身が硬度を上げ、空気を抉るようにしてその鉄鎚は振りかざされた。
攻撃速度は遅いものの威力が凄まじいことなど容易に想像できた。
身動きの取れない今のモルガンにとっては最も受けたくない一撃なのだ。

「はぁあああああアアアアッ——」

ダイハードの筋肉はブチブチと肉が切れるような音を立てながらその攻撃にさらなる威力を与える。
傷口が開き激しい痛みが身体中を駆け巡ることなど今は関係なかったのだ。
当たれば即死、モルガンが相手であろうともそれは自明であった。

「終わりだッ——」

「フッ——」

「ッ——!?」

しかし、僅かな間隙から見えたモルガンは不敵な笑みを浮かべていた。

「収縮」

(ダイハードッ!! 離れろ!!)

グラダリアは叫んだ。意思として感じ取った危機感に確証は無い。
だがその危機感をダイハードも感じていたのだ。
そして危機感は揺るぎない事実を持って——

「発散」

押し寄せてきたのだ。

「親父————ッ!!!!」

与えたはずの衝撃は、数倍にも膨らみ迫ってきた。
追い風は向かい風となり、自身を襲う刃と化したのだ。

(わしで向きを上書きしろッ!!)

「うぅらぁあああアアアッ!!」

身体の限界などとうに超えていた。
ダイハードを突き動かしたのは父親としての誇り。
向かい来る猛撃にグラダリアを衝突させ向きを変えた。

「誇ってよいぞ、巨帝。お主は十分楽しませてくれた」

(手足が······動かない)

「これで最後だ」

「あ····ああ」

力を使い果たしたダイハードは下を向く。
ただオーダリの瞳には信じ難い、信じたくない現実が広がっていた。

上空から響き渡る耳をつんざくほどの轟音。
首を動かすことすらできないダイハードもその存在感を感じ取っていた。
先ほど消失したはずの隕石が空を埋め尽くし、バーロンガムという大国の最期を決めようとしていたのだ。

オーダリはダイハードの駆け寄りその肩を持った。

「親父、ここはもう無理だ。逃げるぞ」

「離せ、お前の足なら今からでも逃げ切れる」

「そんなことするわけねぇだろッ——いいからはやくしろッ—」

モルガンはその様子を見つめながら、手を出すことはない。
そして静かに後ろを向き歩き始めた。

「お、おい機人族。目的を忘れたか、此奴を殺すのではなくこちらの支配下に入れるのだぞ」

「好きにしろ。あれが落ちる前にな」

「チッ—調子に乗りやがって」

今のダイハードではクドルフであろうともまともに戦うことができない。
それはオーダリも同様である。大天使を前に一分立っておくことすら出来ないほどにその戦力差は大きかった。


モルガンは任務を遂行し、主の元へと帰還する。
帝王を相手にして尚、完璧なまでに成すべきことを果たした。

——だが歩みを進めていたその足は急に動きを止めた。
理由は明白、モルガンの頭の中にけたたましい警告音が鳴り響いていたのだ。

(この警告は我が主に反応はしないッ——)

感じたことのないような焦り。その焦りは無機質な機械の額に冷や汗を流させた。
そして再び、振り返る。無意識に、渇望するようにその正体を見つめた。

『—警告—警告—警告—警告—』

うるさいほどに鳴り響いたままの警告音はさらにその大きさを増す。
クドルフは何故か立ち尽くしようにして固まっている。
だが、モルガンの瞳にはたった一人しか映っていなかった。
その者は同族ではない。興奮に似たその感情はモルガンは久しく味わうことのなかった恐怖である。

ダイハードの目の前に立ったその人物は化け物揃いのこの場においても、異質の存在感を放っていた。

「ごめん巨帝、ちょっとオクレタ」
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