ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」4話

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「ちゃんちゃら」4話


 瓶の蓋を開けると、咽せ返るような麦芽の香りに思わず口を押さえた。その様子を見た空島が心配そうに訊ねる。
「どうしたんすか?もう酔ったんすか?」
「いや。」
 とりあえず一口だけ口にして、こちらを気にかけている空島に話を振った。
「大地は、いつ帰ってくるんだろうな。」
 空島は一瞬なにを言われてるのか分からなかったのか、「え?」と聞き返してきた。
「あいつ、いま海外に行ってるんだろ?」
 するとようやく言われてることを理解したのか、空島は「あー!」と声を上げながらビールを口にした。
「なんか、親の仕事の付き添いでしたっけ?凄いっすよね~。確か一週間後くらいじゃなかったっすか?」と楽しそうに空島が話す。
「あいつ、会社継ぎたくないって騒いでたのに。付き添いとかは行くんだな。」
「え?そうなんすか?」
 空島の返答に違和感を感じた。見ると空島自身も首を傾げている。
「俺、そんな話聞いたことないっすね。行きたくないって言ってたのは聞いたっすけど。大地さんと海斗先輩、仲良いんすね。」
 どうやら大地は周りに家の事業のことは話していないらしい。少し意外だと感じたと同時にこの間起きたことへの気まずさが増した。
 しかし、大体話が聞けそうな日にちが決まったので内心ホッとしていた。顔を上げると、先程まで考え込んでいた空島が突然海斗の顔を見つめてくる。
「でも、出掛ける数日前、海斗先輩会ってませんでしたっけ?いつ帰るか聞かなかったんすか?」
 すぐ空島に質問したのを後悔した。人差し指で頬を掻き、海斗は目を泳がせる。
「あー。なんか、帰る日付け聞くの忘れててさ。」
「チャットしたらいいじゃないすか。まあ、海外だといつ届いてるのかは分からないっすけど。」と空島は少しおどけて言った。
 そんな軽いノリで聞けたら良かったのだが、どうも気まずかった。
 何か空島に返事をしようと海斗は口を開こうとしたが、すぐ閉じた。

 なにか。なにか腹から迫り上がってくる。

 口を押さえていると、隣に座っていた空島が再び心配の眼差しを向けてくる。
「大丈夫すか?」
 さっきまでは平静を装うことは辛うじて出来ていたが、今はその余裕すら無かった。
 何とか離れようと椅子から腰を上げた途端、迫り上がってきたものを床にぶち撒けた。

 横から空島の小さい悲鳴が聞こえる。さっきまで耳障りだったフロアのけたたましい音楽が遠のいていく。
 その日、最後に海斗が見た光景は、周りの人たちが、海斗が床に倒れ込んだことに全く気がつく様子などなく楽しく踊っている様子。そして、いやに目に焼きつきそうなショッキングピンクの照明だった。


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