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「ちゃんちゃら」19話
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「ちゃんちゃら」19話
「部屋はここの客室をお使い下さい。その間、海斗様のアパートの家賃はこちらが払うので、ご安心下さい。」
「はぁ。」
アパートの家賃は頑張って貯めていたバイトの給料で賄えなくなっていたので、先月から滞納していた。正直、助かった。
海斗は大原が部屋を出ていくのを見届けた後、ベッドで横たわりながら昨日の大地の言動を思い出していた。
ー大地もあんな顔するんだな。初めて見た。
普段プライドが高く、いつも自信に溢れている大地があんなにみっともなく床に頭を擦り付けて懇願してきた姿は初めてだった。まるで別人を見ているようだった。
海斗は寝転んだ姿勢のまま、頭の後ろに手を組む。横目で小さい家庭用金庫を眺める。先程、大原という執事が、海斗が生で初めて見た札束というものを金庫の中に入れていったのを思い出す。
大地の話は、海斗にとって悪い話ではなかった。番のままでいるということは、薬に頼らずにいられるということ。南雲先生曰く、パートナーとのスキンシップくらいでも、番が離れた際に出るホルモンバランスの乱れからくる心身の症状は、和らげると聞いている。スキンシップくらいなら今までと大して変わらないし、一抹の不安が全く無いわけではないが、まあ大丈夫だろう。薬代も浮くし、快適な部屋も手に入れた。海斗にとってこの状況は、気まずいこと以外は至れり尽くせりであった。
しかし、どうしても海斗には理解できないことがあった。大地の言動の理由だ。なぜあんなに自分と番でいることを懇願したのだろう。妊娠の一件を気に病んでいるのなら、もうその心配はないはずだ。海斗はそっと下腹部に手を当てる。
ーお腹の中はもう空っぽなのに。
海斗はまだ終わっていない悪阻の吐き気で口を押さえる。
悪評を恐れるなら示談金を支払って終わりにすればいい。
海斗は大地の発言の根本は自分への罪悪感からきているものだと信じて疑わなかった。
「なあ、大原。あいつ、最初なんて言ってた?お金貸してもらえないか?って言ったよな!」
「ええ、そうですね。」
リビングで海斗の部屋に持っていく用の水を用意しながら大原は大地の話に耳を傾けた。
「あいつ、まさか100万を返す気だったんじゃないだろうな。」
「律儀なお方ですね。」
全然良くないと言った顔で大地は不安そうにテーブルに両手をついた。
「なんであいつ怒らないんだ。俺、てっきりめっちゃ怒られるかと思った。」
大地は手をついたまま思案を巡らせている。
「そんなに怒る方なんですか?」
「いや、怒ってるところなんて見たことない。それでも、さすがに今回の件は、怒らないやついないだろ。」
「ひょっとしたら、呆れてるのかもしれませんね。」
「よせよ。一番辛いやつじゃないか。」
大地は内心、海斗からの蔑みや拒絶による関係の破綻が無かったことにホッとしつつも、まるで嵐前の静けさのような不安も同時に抱いていた。
大地は海斗が好きだ。しかし好意の一方で、海斗の内に秘めた感情を読み取れないという恐怖心もあった。
大地はそこまで考えて、一つの見落としに気づいた。
ーそういえば俺、今まで海斗と一緒に過ごしてきて、あいつが普段なにを考えているのか、想像したこともなかったな。
「部屋はここの客室をお使い下さい。その間、海斗様のアパートの家賃はこちらが払うので、ご安心下さい。」
「はぁ。」
アパートの家賃は頑張って貯めていたバイトの給料で賄えなくなっていたので、先月から滞納していた。正直、助かった。
海斗は大原が部屋を出ていくのを見届けた後、ベッドで横たわりながら昨日の大地の言動を思い出していた。
ー大地もあんな顔するんだな。初めて見た。
普段プライドが高く、いつも自信に溢れている大地があんなにみっともなく床に頭を擦り付けて懇願してきた姿は初めてだった。まるで別人を見ているようだった。
海斗は寝転んだ姿勢のまま、頭の後ろに手を組む。横目で小さい家庭用金庫を眺める。先程、大原という執事が、海斗が生で初めて見た札束というものを金庫の中に入れていったのを思い出す。
大地の話は、海斗にとって悪い話ではなかった。番のままでいるということは、薬に頼らずにいられるということ。南雲先生曰く、パートナーとのスキンシップくらいでも、番が離れた際に出るホルモンバランスの乱れからくる心身の症状は、和らげると聞いている。スキンシップくらいなら今までと大して変わらないし、一抹の不安が全く無いわけではないが、まあ大丈夫だろう。薬代も浮くし、快適な部屋も手に入れた。海斗にとってこの状況は、気まずいこと以外は至れり尽くせりであった。
しかし、どうしても海斗には理解できないことがあった。大地の言動の理由だ。なぜあんなに自分と番でいることを懇願したのだろう。妊娠の一件を気に病んでいるのなら、もうその心配はないはずだ。海斗はそっと下腹部に手を当てる。
ーお腹の中はもう空っぽなのに。
海斗はまだ終わっていない悪阻の吐き気で口を押さえる。
悪評を恐れるなら示談金を支払って終わりにすればいい。
海斗は大地の発言の根本は自分への罪悪感からきているものだと信じて疑わなかった。
「なあ、大原。あいつ、最初なんて言ってた?お金貸してもらえないか?って言ったよな!」
「ええ、そうですね。」
リビングで海斗の部屋に持っていく用の水を用意しながら大原は大地の話に耳を傾けた。
「あいつ、まさか100万を返す気だったんじゃないだろうな。」
「律儀なお方ですね。」
全然良くないと言った顔で大地は不安そうにテーブルに両手をついた。
「なんであいつ怒らないんだ。俺、てっきりめっちゃ怒られるかと思った。」
大地は手をついたまま思案を巡らせている。
「そんなに怒る方なんですか?」
「いや、怒ってるところなんて見たことない。それでも、さすがに今回の件は、怒らないやついないだろ。」
「ひょっとしたら、呆れてるのかもしれませんね。」
「よせよ。一番辛いやつじゃないか。」
大地は内心、海斗からの蔑みや拒絶による関係の破綻が無かったことにホッとしつつも、まるで嵐前の静けさのような不安も同時に抱いていた。
大地は海斗が好きだ。しかし好意の一方で、海斗の内に秘めた感情を読み取れないという恐怖心もあった。
大地はそこまで考えて、一つの見落としに気づいた。
ーそういえば俺、今まで海斗と一緒に過ごしてきて、あいつが普段なにを考えているのか、想像したこともなかったな。
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