ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」52話

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「ちゃんちゃら」52話


 海斗はスーパーのレジ袋を持って入口を出た。すると、背中に重い衝撃が走ったので、驚いて振り向くと、大地が背中に抱きついていた。
「先に行くなよ。荷物持つぞ。」
 大地は海斗が両手で持っているレジ袋の片方を手に持った。
「別にいいのに。」
「ダメダメ。こう出来なくなるだろ。」と言って躊躇なく大地は空いた海斗の手を握った。海斗は満更でもない顔でそれを握り返す。

 あれからというもの、お互いの気持ちを認識し合ったからか、大地からのスキンシップが大幅に増えた。昔の自分だったら違和感を覚え、拒絶していたかもしれない。しかし、海斗自身も大地に対する好意に対して、それらの全てを受け入れていた。

「なあ、祝賀会、いつにする?」
「大袈裟だな。やらなくていいよ。」と海斗は呆れ気味で言うと大地は食い下がる。
「いーや、初めて就職するんだから特別だろ!」
「そうかなぁ」
 海斗は顔を俯かせながらも頬を赤らめ、握る手を恋人繋ぎに変えた。それに気づいた大地も嬉しそうに握り返した。

 二人が駐車場まで歩いていくと大原が車の前で待っていた。大原は大地と海斗の関係性の変化に恐らく気づいているのだろう。気を遣って車の中で待機していたようだ。
「本日のお夕飯は何になさるんですか?」
「今日は肉じゃがを作ってみたくて」
 レジ袋を渡す海斗を満面の笑みで大地は見守っていた。大地の提案だということは、付き合いの長い大原にとって気づくのは簡単なことだろう。
「本日は出掛けるとのことでしたが、良ければ送りましょうか?」と大原は車のトランクにレジ袋を丁寧に置きながら訊ねた。
 海斗と大地は顔を見合わせたと同時に首を振った。
「いや、大丈夫だ。ここから近いから歩きで行くよ。」
「左様でございますか。」と断られたというのに大原は満面の笑みで運転席に乗り込んで「いってらっしゃいませ。」と頭を下げる。

 大原の車を見送り、二人は再び手を繋ぎながら街を歩いた。この間まで、ここを通る時はほとんど夜のことが多かった。暗い夜道で輝くお店の看板はどこか魅惑的で、吸い寄せられるような力があったが、日中で歩くとそれらはどこか寂しげで、何も圧倒される力を感じなかった。
 寒風が顔を撫でてくる。頬がひんやりと冷たくなっていくのが分かった。すると、大地が首につけていたショールを海斗の首に掛ける。海斗は小さく笑った。
「もう少しで着くのに。」
「体調には気をつけて貰わないとな。」と満足気に海斗の顔を覗き込む。

 まさか、パートナーとして大地とここへ来るとは思わなかったな、と海斗は学生時代、飽きるほど見た紫色の看板の前に立つ。夜だと目立つ看板だが、日中だとまるでかくれんぼをしているかのように、見つけ辛く感じた。
 大地が一回深呼吸をしてから扉を開けて階段を降りていくのを海斗も追った。
 下へ降りると、見覚えのある屈強なマスターは相変わらずグラスを拭いていて、見覚えのある短髪の男が床の掃除をしていた。
 短髪の男がこちらへ気づくとモップを持ちながらこちらへ元気良く駆け寄ってきた。


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