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「ちゃんちゃら」55話
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「ちゃんちゃら」55話
BARの奥にある部屋に入ると、空島はベッドで横になっていた。つい数時間前まで赤かった顔は青くなっていたが、起き上がって水を飲めるくらいには体調は回復していた。
「すんません、迷惑掛けて。」と無理に笑顔を作りながら空島はこちらへ謝罪する。海斗は首を振った。
「謝る必要ないって。俺が悪阻で酷い時、空島には色々世話になったし、気にせずゆっくりしてなよ。」
空島は困り眉だったが頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えるっす。」
「そうよ、今日はお店休んで大丈夫よ。今のところ大地も反応しないから、薬は効いてるみたいだけど、無理は禁物よ。」とお水のお代わりをマスターは差し出す。マスターの言う通り、大地はなんの異変もなく空島のいるベッドまで近づくことができた。
空島はさっき大地が買ってきたスープが入ったマグカップを手に持って温まっている。
「俺、中々自分に合った鎮静剤が見つからなくて。効かない時がたまにあるんすよ。」
「全然気づかなかった。」
「そりゃそうっすよ。大学休んだりして隠してたんすから。」
学生時代では空島が休む理由なんてズル休みか風邪でも引いたのかくらいにしか思っていなかったが、それらの殆どが定期的にくるヒートが原因なことを大地は察した。
「みんな、そうなのか?」
「Ωだって隠してる人はそうなんじゃないすか?Ωって言うとなにかと不便ですからね。」と空島はスープを口にする。
海斗は椅子に座り、黙って空島の話を聞いている。その表情は神妙な様子だった。
「ごめん、俺、なんにも知らなくて」
大地の言葉に空島は少し驚いていたが、すぐにケロッと笑っていた。
「そりゃ分からないっすよ。知ろうとしなければ、自分とは違う人の事情なんて分からないもんすよ。」
空島は大地を宥める為に言った言葉なのだろうが、どこかそこには多くの経験した無理解から割り切ってしまったような言葉に大地には聞こえた。
「俺も、自分がΩだって診断されなければ気にしたことすら無かったな。」と海斗は俯き、目を伏せながら言った。
マスターは飲み終わった空島のマグカップを洗っていた。蛇口から出る水の音だけが部屋の中で響いていた。
「なんだかαって無力だな。社会ではいかにも必要とされてる人材のように謳われているけどさ。実際は助けるどころか、一緒にいることすらできない。俺、悔しいよ。」
全員、大地の顔を見た。空島に至っては口をあんぐりと開けている。
「大地さん、変わったっすね。」
「なにがだよ。」と自信の無い顔で大地は空島を見遣る。
マスターは蛇口を閉めてニコニコ笑いながら水切りラックにマグカップを置いた。
「大地は無力じゃないよ。」
海斗の言葉に大地は振り返る。海斗は照れ臭そうに頬を掻きながら笑っていた。
「俺、大地と出逢ってから、たくさん良い方向に変われたんだ。趣味も就職先も見つかったし。」
海斗はわざと視線を外し、顔を赤らめた。
「ぱ、パートナーも見つかったしな。」
その言葉を聞いた大地の顔を見て空島が悪態をつく。
「あーあ!やっぱり良いですねぇ!仲がよろしいことで!!」
マスターは空島の肩を叩く。
「あんまり暴れないの。またぶり返すから。」
BARの奥にある部屋に入ると、空島はベッドで横になっていた。つい数時間前まで赤かった顔は青くなっていたが、起き上がって水を飲めるくらいには体調は回復していた。
「すんません、迷惑掛けて。」と無理に笑顔を作りながら空島はこちらへ謝罪する。海斗は首を振った。
「謝る必要ないって。俺が悪阻で酷い時、空島には色々世話になったし、気にせずゆっくりしてなよ。」
空島は困り眉だったが頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えるっす。」
「そうよ、今日はお店休んで大丈夫よ。今のところ大地も反応しないから、薬は効いてるみたいだけど、無理は禁物よ。」とお水のお代わりをマスターは差し出す。マスターの言う通り、大地はなんの異変もなく空島のいるベッドまで近づくことができた。
空島はさっき大地が買ってきたスープが入ったマグカップを手に持って温まっている。
「俺、中々自分に合った鎮静剤が見つからなくて。効かない時がたまにあるんすよ。」
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学生時代では空島が休む理由なんてズル休みか風邪でも引いたのかくらいにしか思っていなかったが、それらの殆どが定期的にくるヒートが原因なことを大地は察した。
「みんな、そうなのか?」
「Ωだって隠してる人はそうなんじゃないすか?Ωって言うとなにかと不便ですからね。」と空島はスープを口にする。
海斗は椅子に座り、黙って空島の話を聞いている。その表情は神妙な様子だった。
「ごめん、俺、なんにも知らなくて」
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「そりゃ分からないっすよ。知ろうとしなければ、自分とは違う人の事情なんて分からないもんすよ。」
空島は大地を宥める為に言った言葉なのだろうが、どこかそこには多くの経験した無理解から割り切ってしまったような言葉に大地には聞こえた。
「俺も、自分がΩだって診断されなければ気にしたことすら無かったな。」と海斗は俯き、目を伏せながら言った。
マスターは飲み終わった空島のマグカップを洗っていた。蛇口から出る水の音だけが部屋の中で響いていた。
「なんだかαって無力だな。社会ではいかにも必要とされてる人材のように謳われているけどさ。実際は助けるどころか、一緒にいることすらできない。俺、悔しいよ。」
全員、大地の顔を見た。空島に至っては口をあんぐりと開けている。
「大地さん、変わったっすね。」
「なにがだよ。」と自信の無い顔で大地は空島を見遣る。
マスターは蛇口を閉めてニコニコ笑いながら水切りラックにマグカップを置いた。
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「俺、大地と出逢ってから、たくさん良い方向に変われたんだ。趣味も就職先も見つかったし。」
海斗はわざと視線を外し、顔を赤らめた。
「ぱ、パートナーも見つかったしな。」
その言葉を聞いた大地の顔を見て空島が悪態をつく。
「あーあ!やっぱり良いですねぇ!仲がよろしいことで!!」
マスターは空島の肩を叩く。
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