ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」番外編6話

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「ちゃんちゃら」番外編6話


「本当に良かったな。何もなくて。」と海斗は店員が持ってきた水を飲みながら空島の容態を心配した。
「まさか海斗先輩も泉谷先輩に襲われてたなんて。どんだけΩ狙ってるんすか。」
 海斗は困り顔で、運ばれてきたハンバーガーを口にする。
「泉谷のような奴から見たら、Ωはただの男好きな男ってイメージなのかも?」と海斗は口についたソースを拭きながら憶測を話す。空島は溜息を吐きながら店内を見渡す。空島の美的感覚では何も読み取れない絵画が飾ってあったり、客も落ち着いた雰囲気のある層が殆どのあたり、高級な店なのだろう。空島がソワソワしている様子を見て、海斗は安心させるように笑った。
「今日は奢るよ。」
「そんな悪いっすよ。」
 遠慮する空島にさらに海斗は笑みを深める。
「なんか大変だったみたいだし、後ここのお店のハンバーガーすごく美味しいから食べて欲しかったんだ。」
 海斗の優しさに空島の中に蠢いていたこれまでの不安や緊張が解れていくのが感じた。本人は無意識だが、彼と話していると落ち着く。恐らく大地はそんな海斗の魅力に惚れたのだろう。海斗がお腹を気にしながら再びハンバーガーを口にする。幸せそうな海斗にこちらも気が付けば口角が上がっていた。
「式はどうする予定なんすか?無事に出産してから?」
 海斗は唸りながら一緒に頼んだスムージーを手にする。
「一応、安定期に入ったらやる予定。今のところ悪阻もほとんど無いしな。」と言った後、スムージーを口にしてから海斗は付け加えた。
「俺は出産してからでも別にいいんだけど、大地は出産してからはお互い育児に専念できる環境の方が良いって意見でね。」
「はえー」
 自分には縁のない話だと思ったが、海斗先輩がこんなに将来のことを楽しそうに話すのは珍しく、空島自身も海斗と大地の行く末を見守りたいとも思っていた。
「いいっすねぇ。絶対、式呼んでくださいよ!俺も二人がくっつくのに一枚噛んでるようなものなんすから。」
「もちろんだよ。」と海斗はクスクス笑っている。

「空島は?確か、前の恋人と会ってくるって、この間言ってなかったか?」
 その言葉に微笑ましい気持ちが一瞬で消え去った。その反応を見て海斗はまずいことを聞いたという表情をしていた。
「この間、空島が家に来た時に話を少し聞いたけど、大丈夫だったのかなぁって、心配でさ。」
 海斗とは大学生の時と同じくらい、よく会っていた。大地から何か聞いていたのだろう。海斗は空島の過去に何が起きたのかを気に病んでいる様子だった。別に隠すこともないので、その際に木待先輩とのことを喋ったのだ。
「別に、相変わらずだったっすよ。親の言いなりって感じで。」
「言いなりかぁ」
 店内で流れる音楽がジャズに変わる。何か考え事をしている海斗は色気がある。黒くサラサラした髪が風で少し靡いて、色情煽られる彼の見た目が露わになる。正にαを誘うΩそのものだった。なぜ空島も大地も彼がΩだと気づかなかったかというと、彼自身があまりにも間が抜けている性格で、悪意などどこにも無く感じられたからだ。人を惹きつける見た目が霞むほどに。人の警戒心を無意識に解す能力はある意味ΩらしいといえばΩらしいのかもしれない。

「俺も親の言うことは逆らえなかったからなぁ。俺はその元彼の気持ち、ちょっと分かるかも。」
「えー」
 急に味方がいなくなったような気がして凹む空島に海斗は慌ててテーブルから少し乗り出す。
「なんていうか、その人の世界では親の存在が大きいんじゃないかな。だから、彼自身、どうすることもできないんだよ。」
「世界ねー。」
 随分と狭い世界だ。そう鼻で笑ったのと同時に、いつまでもあの時の恐怖や苦痛に囚われている自分が頭の中に浮かぶ。
「みんな、そんな狭い世界で過ごしてるもんなんすかね。」
 妙に達観した空島を不思議そうに見ながら海斗はまたハンバーガーを食べ始めた。
「俺、同僚に親が決めた結婚をした人がいるんだけど。そんな状況でも、自分の楽しみや考えを見つけて過ごしてて、自由な人なんだ。」
 空島からしてみれば目から鱗だった。
「そんな人もいるんすね。一目見てみたいっす。」
「今度、紹介するよ。」
 二人は笑い合うと、再びハンバーガーを食べ始めた。
「んー、アボカド選んだの正解っすねー。今度マスターにも紹介しようっと。」
「その人には紹介しないの?」
 空島はストローに口をつけた状態で固まる。
「その、空島を助けてくれたって人。鳥舟さんだっけ。これから会うんだろ?」
 アイスティーのストレートを吸いながら空島は苦い顔をした。

「どうっすかね。」


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