ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」1話

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「ゼロから千まで」1話


「絶対に守るからね。絶対に。」

 震える手を小さな手がしっかり握った。
 この手はもう離さないと誓った。
 相手の体温が指を通じて体全体に伝わってくる。その温かさが、自分に勇気と愛情をくれた。これ以上にないくらいに。


 永遠千歳えとおちとせはベッドの上で目を覚ました。ぼんやりとした視界の中で、黒い何かが揺れたのが隅の方に見えた。その黒い物体は人間の髪だった。千歳はまだ視界がはっきりしていないというのにベッドから起き上がった。

「ダメだよ!まだ治ってないんだから」
 懐かしい声が自分の肩を掴む。それと同時に腹部から激しい痛みが脳に伝わってくる。
「いったー!!」
 あまりにも強い痛みに大きな声を出したが、久々に出したのか声は若干掠れていた。
「ほら、言ったじゃないか。」
 そう言って一人の青年が千歳の肩を掴んだまま、そっとベッドに横たわらせた。この青年の顔に見覚えはあった。

「零一…くん?」
 少し頭で考えてから青年の名前を呼んだ。零一は目が飛び出るのではないかというくらい大きく見開かせている。
「零一でいいよ。」
「えっ、でも」
「零一がいいんだ。」
 さっきまで優しく語りかけるような声が棘があるかのように鋭くなったので、大人しく千歳は「零一」と呼んだ。すると、零一は満足そうに微笑んだ。

「千歳が目を覚ましたこと、おばあさんたちに伝えてくるから、ちょっと待っててね。」
 零一は千歳の顔をもう一度確認してから病室のドアを閉めた。急に静まった病室で千歳は真っ白な天井を眺める。腕を伸ばしてみると、点滴のチューブがブラブラとぶら下がっているのが見えた。千歳はお腹を恐る恐る摩ると、何やら凹凸を感じる。そっと病衣を捲ると、お腹にはっきりと縦長の手術痕が出来上がっていた。それを見た千歳は慌ててまた病衣で隠す。

 千歳が自分の身に起きたことを振り返ろうとした時、病室のドアが開き、看護師と自分の祖父母が入ってきた。
「大丈夫かい、千歳。」
「おばあちゃん。」
 祖母は自分の手をしっかり握り、涙目で潤んだ瞳でこちらを眺める。まるで痛々しいものを見ているかのような目だった。手はさっきまで零一が握っていたのだろう。まだ自分の右手は温かった。
 看護師が点滴などの確認をしている中、祖父は両手を腰に当て、悪態をつき始める。

「まったく、とんだ災難だったな、千歳。まさか、学校に不審者だなんて。」
「おじいさん。もうその話はやめましょうよ。千歳も思い出したくないでしょうに。」
 不審者という言葉に千歳の頭に一人の下品な髭面の男の顔が視界いっぱいに広がった。驚いて思わず目を瞑ってしまう。

ーそうだ。思い出した。自分はその不審者にお腹を刺されたんだ。

 千歳は自分の身に降り掛かった災難を思い出し、愕然とする。

「体が落ち着くまで入院だけど、ばあちゃん達も来るかんね。千歳、安心しな。」と祖母は自分の手を摩っている。
「零一は?」
 千歳の質問に祖父母は顔を見合わせて笑う。
「零一くんなら、さっき安心して帰ってったよ。わたしらに気を遣ったんだろうねぇ。千歳のこと心配して、よく見舞いに来てたんだよ。」
 千歳は意外そうに祖母を見つめる。
「今度会ったらお礼言いな。」
「うん。」
 千歳が動揺しながら俯いた。それから暫くは家族でいつも通りのようななんて事ない話をした。どうやら一週間程、自分は気を失っていたらしい。観たいテレビ番組などを見逃したことに後悔している千歳を見て、祖父母は笑っていた。
 すると、祖父が何か思い出したかのように「あっ」と声を上げた。
「そういえば、お前の友達の何ちゃんだっけか?その子もよく見舞いに来てたぞ。」
「誰ちゃん?」
「やーね、おじいさん。百合愛ちゃんでしょ。」

 百合愛という言葉に千歳は胸が弾んだ。

「あー、それと千歳。」
 祖父が一階の購買へ買い出しに行く際、こちらを振り向いた。
「零一くん。お前にまた会いに来るってさ。」

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