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「ゼロから千まで」2話
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「ゼロから千まで」2話
意識を取り戻してからようやく頭がはっきりしてきたのか、千歳は両手を頭の後ろに置いて天井を見上げた。天井は相変わらず真っ白だが、千歳の頭の中では様々な考え事が行ったり来たりしていた。
まずは祖母が持ってきてくれた自分のスマホの電源を入れた。そこにはいくつもの通知がメッセージアプリから届いていた。それのほとんどが普段よく連む友人たちからで、みんな自分の体調を心配している様子だった。見舞いに行きたいという旨が書かれてあったので、快くその誘いを受けた。
ざっと見渡すと、零一と百合愛からもメッセージは来ていた。千歳は昨日の祖父の言葉を思い出した。よく二人は自分に意識が無くてもお見舞いに来ていたという。零一とは既に会ったが、意識が朦朧としていたからか、特に何を思いもせずに気がつけば目の前から去っていたような感覚だった。
千歳は二人に会うのが気まずかった。その理由を言語化するより先に、メッセージアプリのニュースに表示された文字が目についた。
「ときわ高校で不審者。女生徒一人刺され、重症」
ときわ高校とは自分が通っている高校だ。この記事に書かれていることは間違いなく自分のことだろう、と千歳は息を呑んだ。気がつけば、興味本位で指は記事のリンクをタップしていた。
「犯人は40代の男。動機はずっと『自分がやった。』言動も支離滅裂。侵入は校舎の工事現場の鉄骨使ったか。」
千歳は頭を捻ってあの時のことを思い出そうとするが、肝心の犯人は面識の無い男だった。分かったのは、自分が刺された時に遠くで青ざめた顔をしていた零一の姿くらいだった。
千歳からしてみれば事件のことよりも心配なのは、友人たちの安否だった。
千歳はどうしても百合愛が零一と一緒にいないことが気掛かりだった。昨日、零一と会った時、百合愛はいなかったことくらい、常にテストの順位が下から数えた方が速い千歳でも分かった。
百合愛と零一が付き合ったのは今年の春頃にあった体育祭の打ち上げの時だ。百合愛は容姿端麗だと周りの男子たちが騒いでいたので、百合愛は美人さんなのだろう。零一も女子たちから同じようなことを聞くので、恐らく彼もまた美人なのだろう。人の容姿について無頓着な千歳にとって友人の百合愛の恋愛話は突然未来から宇宙人がやってきたっていうくらいには突拍子もない出来事だった。もちろん、千歳にとって恋愛話も無頓着な事柄の一つである。
しかし、無頓着で得体の知れない事でも、友人が幸せそうにしている様子を見るのは悪い気持ちではなかった。その一方で百合愛が少し大人っぽく見えて、先を走っていくような、そんな感覚も同時に味わっていた。
「千歳ちゃん。」
突然、自分の名前を呼ばれて思わずスマホを持ったまま固まる。すぐ隣を見ると、そこには先程まで自分の脳内で大人っぽく歩いていた百合愛がいた。手入れされた綺麗な髪が彼女の肩の上で踊っている。自分とは違って上品に口角を上げて笑う様は、まるでどこかのお嬢様のようだった。百合愛がいつも通り笑っていたので、千歳の中にあった不明瞭な違和感はすっかり消え去っていた。
「久しぶりっ」
そう言ったか言わないか、千歳の視界がぐるりと回った。気がつけばベッドの白いシートを眺めていた。段々と頬が熱くなっていくのが千歳にも分かった。恐る恐る顔を上げると、そこには先程まで天使のような笑いを浮かべていた百合愛が冷たく見下ろすような視線でこちらを眺めていた。その姿は悪魔と言っても過言ではなかった。
意識を取り戻してからようやく頭がはっきりしてきたのか、千歳は両手を頭の後ろに置いて天井を見上げた。天井は相変わらず真っ白だが、千歳の頭の中では様々な考え事が行ったり来たりしていた。
まずは祖母が持ってきてくれた自分のスマホの電源を入れた。そこにはいくつもの通知がメッセージアプリから届いていた。それのほとんどが普段よく連む友人たちからで、みんな自分の体調を心配している様子だった。見舞いに行きたいという旨が書かれてあったので、快くその誘いを受けた。
ざっと見渡すと、零一と百合愛からもメッセージは来ていた。千歳は昨日の祖父の言葉を思い出した。よく二人は自分に意識が無くてもお見舞いに来ていたという。零一とは既に会ったが、意識が朦朧としていたからか、特に何を思いもせずに気がつけば目の前から去っていたような感覚だった。
千歳は二人に会うのが気まずかった。その理由を言語化するより先に、メッセージアプリのニュースに表示された文字が目についた。
「ときわ高校で不審者。女生徒一人刺され、重症」
ときわ高校とは自分が通っている高校だ。この記事に書かれていることは間違いなく自分のことだろう、と千歳は息を呑んだ。気がつけば、興味本位で指は記事のリンクをタップしていた。
「犯人は40代の男。動機はずっと『自分がやった。』言動も支離滅裂。侵入は校舎の工事現場の鉄骨使ったか。」
千歳は頭を捻ってあの時のことを思い出そうとするが、肝心の犯人は面識の無い男だった。分かったのは、自分が刺された時に遠くで青ざめた顔をしていた零一の姿くらいだった。
千歳からしてみれば事件のことよりも心配なのは、友人たちの安否だった。
千歳はどうしても百合愛が零一と一緒にいないことが気掛かりだった。昨日、零一と会った時、百合愛はいなかったことくらい、常にテストの順位が下から数えた方が速い千歳でも分かった。
百合愛と零一が付き合ったのは今年の春頃にあった体育祭の打ち上げの時だ。百合愛は容姿端麗だと周りの男子たちが騒いでいたので、百合愛は美人さんなのだろう。零一も女子たちから同じようなことを聞くので、恐らく彼もまた美人なのだろう。人の容姿について無頓着な千歳にとって友人の百合愛の恋愛話は突然未来から宇宙人がやってきたっていうくらいには突拍子もない出来事だった。もちろん、千歳にとって恋愛話も無頓着な事柄の一つである。
しかし、無頓着で得体の知れない事でも、友人が幸せそうにしている様子を見るのは悪い気持ちではなかった。その一方で百合愛が少し大人っぽく見えて、先を走っていくような、そんな感覚も同時に味わっていた。
「千歳ちゃん。」
突然、自分の名前を呼ばれて思わずスマホを持ったまま固まる。すぐ隣を見ると、そこには先程まで自分の脳内で大人っぽく歩いていた百合愛がいた。手入れされた綺麗な髪が彼女の肩の上で踊っている。自分とは違って上品に口角を上げて笑う様は、まるでどこかのお嬢様のようだった。百合愛がいつも通り笑っていたので、千歳の中にあった不明瞭な違和感はすっかり消え去っていた。
「久しぶりっ」
そう言ったか言わないか、千歳の視界がぐるりと回った。気がつけばベッドの白いシートを眺めていた。段々と頬が熱くなっていくのが千歳にも分かった。恐る恐る顔を上げると、そこには先程まで天使のような笑いを浮かべていた百合愛が冷たく見下ろすような視線でこちらを眺めていた。その姿は悪魔と言っても過言ではなかった。
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