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「ゼロから千まで」4話
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「ゼロから千まで」4話
「えっ、なんでいるの?」
口をあんぐり開けた千歳を前に零一はメロンパンを差し出してくる。それは駅中でたまに売っている美味しいという噂のメロンパンだった。
「看護師さんから聞いたけど、もう通常通りの食事摂っていいんでしょ?千歳好きだって言ってたから」
そう言って零一は笑顔でメロンパンが包まった紙袋を鼻先に差し出してくる。芳醇なバターの香りが鼻いっぱいに広がり、我慢出来ず紙袋を手に取る。網目に焼き目がついた姿を久々に見た千歳は迷わずそれを口に運んでしまった。表面がサクサクした食感とまぶした砂糖のジャリジャリした食感が心地良かった。
千歳が幸せを噛み締めていると、零一がベッドの上に教科書とノートをそっと置いた。不思議そうにそれらを見る千歳を見て零一は小さく溜め息をついた。
「授業遅れてる分のノートだよ。食べ終わったらざっくり説明するから」
そうだ、この短い期間に色々なことが起こり過ぎて忘れていたが、自分はついこの間まで学校で授業を受けていたのだ。とは言っても、殆どはよく分からず眠っているのだが。
メロンパンを急いで食べ終わり、ノートを手にしたところでようやく自分の最初した質問が無視されていることに気がついた。
「なんでいるの!?」
来ないでと言ったばかりだというのに、当たり前のように零一は教科書を開きながら、こちらに微笑みかけてくる。
「だって、千歳が授業に遅れちゃうだろう?」
「もう遅れてるからいいよ。」
「ダメだよ。今回の一件で千歳には不幸になって欲しくない。」
千歳はハッとした。そうか、零一が必死なのは不審者騒動で自分を庇って怪我を負わせたと思っているからか、と納得した。千歳の中では気にするに値しないことだが、零一にとっては気掛かりなところなのだろう。しかし、千歳にとって気掛かりなのは、零一と百合愛の関係性だった。百合愛のあの様子だと、これ以上零一と一緒にいるのは芳しくない。
千歳はノートをざっくり見て「ありがとう!もう大丈夫!」と元気良く零一に返した。しかし、零一はそのまま笑顔で押し返してくる。
「貰ってよ。これは千歳の分だから。」
零一の言葉に何か悪寒が走ったような、気味の悪さを感じた。そんな千歳を他所に零一は時計を見て寂しそうに困り眉をした。
「もうこんな時間か。明日は部活で遅くなるから、ちゃんと復習するんだよ。そうだ、僕が宿題出すね。まず、ここは」
零一が怒涛の勢いで宿題を出し終えると、笑顔でこちらに手を振りながらドアを閉めていった。
昨日の自分の言った言葉は全て夢での出来事だったのではないかと疑う程の零一の様子に千歳は動揺を隠しきれなかった。
千歳は手元にある零一の丁寧な字で書かれたノートを眺めた。ノートの下の方に千歳用と達筆で小さく書かれていた。こんなノートを百合愛に見られたらマズイのではないだろうかと冷や汗を掻いていた千歳だったが、あれから百合愛が病室にお見舞いには来る様子は無かった。安心したような、心苦しいような、そんな感情が千歳を襲っていた。
代わりに零一は毎日のように千歳に会いにくるようになった。本人は勉強を教えに来ているつもりなのだろう。会話のほとんどは授業の内容だった。友人たちの様子を知りたかったが、零一とは関わりがある訳ではないので、おいそれと訊けなかった。もちろん、百合愛のことも怖くて何も言えなかった。
まるで、世界がこの病室の一室だけになってしまったような、そんな狭さと密着さを千歳は感じていた。
「えっ、なんでいるの?」
口をあんぐり開けた千歳を前に零一はメロンパンを差し出してくる。それは駅中でたまに売っている美味しいという噂のメロンパンだった。
「看護師さんから聞いたけど、もう通常通りの食事摂っていいんでしょ?千歳好きだって言ってたから」
そう言って零一は笑顔でメロンパンが包まった紙袋を鼻先に差し出してくる。芳醇なバターの香りが鼻いっぱいに広がり、我慢出来ず紙袋を手に取る。網目に焼き目がついた姿を久々に見た千歳は迷わずそれを口に運んでしまった。表面がサクサクした食感とまぶした砂糖のジャリジャリした食感が心地良かった。
千歳が幸せを噛み締めていると、零一がベッドの上に教科書とノートをそっと置いた。不思議そうにそれらを見る千歳を見て零一は小さく溜め息をついた。
「授業遅れてる分のノートだよ。食べ終わったらざっくり説明するから」
そうだ、この短い期間に色々なことが起こり過ぎて忘れていたが、自分はついこの間まで学校で授業を受けていたのだ。とは言っても、殆どはよく分からず眠っているのだが。
メロンパンを急いで食べ終わり、ノートを手にしたところでようやく自分の最初した質問が無視されていることに気がついた。
「なんでいるの!?」
来ないでと言ったばかりだというのに、当たり前のように零一は教科書を開きながら、こちらに微笑みかけてくる。
「だって、千歳が授業に遅れちゃうだろう?」
「もう遅れてるからいいよ。」
「ダメだよ。今回の一件で千歳には不幸になって欲しくない。」
千歳はハッとした。そうか、零一が必死なのは不審者騒動で自分を庇って怪我を負わせたと思っているからか、と納得した。千歳の中では気にするに値しないことだが、零一にとっては気掛かりなところなのだろう。しかし、千歳にとって気掛かりなのは、零一と百合愛の関係性だった。百合愛のあの様子だと、これ以上零一と一緒にいるのは芳しくない。
千歳はノートをざっくり見て「ありがとう!もう大丈夫!」と元気良く零一に返した。しかし、零一はそのまま笑顔で押し返してくる。
「貰ってよ。これは千歳の分だから。」
零一の言葉に何か悪寒が走ったような、気味の悪さを感じた。そんな千歳を他所に零一は時計を見て寂しそうに困り眉をした。
「もうこんな時間か。明日は部活で遅くなるから、ちゃんと復習するんだよ。そうだ、僕が宿題出すね。まず、ここは」
零一が怒涛の勢いで宿題を出し終えると、笑顔でこちらに手を振りながらドアを閉めていった。
昨日の自分の言った言葉は全て夢での出来事だったのではないかと疑う程の零一の様子に千歳は動揺を隠しきれなかった。
千歳は手元にある零一の丁寧な字で書かれたノートを眺めた。ノートの下の方に千歳用と達筆で小さく書かれていた。こんなノートを百合愛に見られたらマズイのではないだろうかと冷や汗を掻いていた千歳だったが、あれから百合愛が病室にお見舞いには来る様子は無かった。安心したような、心苦しいような、そんな感情が千歳を襲っていた。
代わりに零一は毎日のように千歳に会いにくるようになった。本人は勉強を教えに来ているつもりなのだろう。会話のほとんどは授業の内容だった。友人たちの様子を知りたかったが、零一とは関わりがある訳ではないので、おいそれと訊けなかった。もちろん、百合愛のことも怖くて何も言えなかった。
まるで、世界がこの病室の一室だけになってしまったような、そんな狭さと密着さを千歳は感じていた。
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