ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」26話

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「ゼロから千まで」26話


 零一が名残惜しそうにこちらへ手を振りながら通学路を歩いていく。
「夕方、また来るからね。」
「うん。」
「来んでいい。」
 まだ祖父は横で愚痴を言っていたが、千歳は自分の部屋に戻るなり、自分の手を見つめる。さっきまでずっと零一と手を握っていた為、手の平はまだ温かった。恋というものをよく知らないが、この感覚は好きだった。大人しく零一の言われた箇所を復習しようと思ったが、まだ昨日のぬくもりと唇の感触が襲い、中々手がつかなかった。千歳は頑張って気を逸らそうと友人たちのことを考えることにした。
 今頃みんなは文化祭の準備をしている頃だろう。参加できないことに寂しさを覚える。こっそり学校に行っても良いだろうかと思ったが、さっきの零一とのハグや手を繋ぐ行為を思い出し、気後れする。学校では零一とどう付き合っていけばいいのだろうかと考えを巡らす。いつも通り自由に過ごしたいが、二葉たちの言う周りからの牽制というものが気になった。
「恋するって、こんなに不自由なんだな。」
 千歳は机に突っ伏す。恋愛というものがこんなに大変なものだとは思わなかった。しかし、だからといって零一と離れるのは嫌だった。ずっと考えても何も進まない気がしたので、そのまま千歳は机に突っ伏すことにした。

 気がつけば、外は夕方になっていた。今日は二葉たちと会ってからまた零一と会う予定だった。
 暫く窓を眺めていると、二葉たちが制服姿でこちらへやってきた。千歳が勢い良く玄関から飛び出ると二葉たちに確保された。
「相変わらず勢いあるなぁ。」
「熊かと思ったよ。」
「みんな、文化祭の準備してるの?」と千歳が三人の顔を見回すと、三人とも頷いた。
「千歳が寂しがってるだろうと思って、買い出しついでに来たってわけ。」と手に持っているレジ袋を三来が見せつけてくる。
「まあ、彼氏ができた千歳は寂しくないだろうけどねぇ」と二葉がニタニタ笑いながら玄関で靴を脱ぎ始めた。彼氏という言葉に千歳は縋るように二葉の背中に抱きつく。驚いた二葉が抱きつく千歳の頭を掴む。
「なになに!?どうした!?」
「みんなに聞きたいことがあるんだけど」

 千歳はみんなを自分の部屋に入れると、昨日の出来事を身振り手振りで説明した。千歳のバタバタしたジェスチャーに二葉は顔を赤らめ、三来は真っ青になり、世羅は黙って聞いていた。
「何だか、前より他人の視線が気になるっていうか、零一を見ると変な感じがするんだ。」
 三人とも言葉を失っている様子だった。
「これって、びょ、病気?」
 すると三人全員が大きな溜息をついた。
「ここまで来るとまあ、病気かもね。」
「え!ど、どうしよう!」と三来の言葉に千歳は口をパクパクさせる。
 そんな千歳の動揺を他所に世羅は顎に手を当て唸り始める。
「それにしたって、いくらなんでも霧崎のやつ、過保護じゃないか?」
 腕組みする世羅をみんな見上げる。三来も苦笑していた。
「えー、霧崎って結構束縛するタイプなんだね。百合愛も大変だったんだねぇ」
「そうかな。」と二葉が口を挟む。
「だって、学校でそんな感じじゃなかったと思うけど。寧ろ、百合愛の方がグイグイ行ってる感じがあった。」
「千歳がこんなんだから、多少強引になってるだけじゃないの?」
 みんなの会話を千歳は黙って正座しながら聞いていた。
 気持ちを晴らす為のほんの少しだけの相談会は、想像以上に長引くということを千歳の折り曲げた足の痛みが教えていた。


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