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「ゼロから千まで」50話
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「ゼロから千まで」50話
次の瞬間、零一の腕に痛みが広がった。見ると腕に切り傷が出来ていた。傷口は不気味に赤く目立っていた。零一は痛みで呻き声をあげながら後退る。なぜなら目の前にカッターナイフを持った百合愛がこちらへ歩いてきていたからだ。零一がまた一歩後ろへ下がった瞬間、頭に大きな衝撃が走った。あまりにも痛さに零一は立っていられず、屋上の床に転がる。
「手間取らせないで。早く終わらせて」
百合愛は冷たい眼差しで零一を見下ろしている。零一が頭を押さえていると今度は制服の襟首が引っ張られ、首が絞まる。「うっ」と苦しそうな声を出すが、防木は構わずそのまま零一を屋上のフェンスまで引き摺っていく。もうそこには生徒の心配をする教師の姿はどこにもいなかった。
引き摺られていく零一の後を百合愛は淡々とした様子でついてくる。どうやら自分が屋上から突き落とされるのをきちんと確認したいらしい。
防木が意識が朦朧としている零一を持ち上げる。百合愛が「モタモタしないで。」と言いながら百合愛はフェンスに手を掛け、もう一押しのところを加勢する為に少し体を乗り上げる。防木は言われるがまま零一の身体をさらに持ち上げた。それはフェンスを越える一歩手前くらいの高さだった。
「れいちゃん!」
それは零一から見て屋上の奥の方から聞こえるはずなのに、まるですぐ傍にいるかのような大声だった。零一が顔を上げると、あながちそれは間違いではなかったことに気がついた。なぜなら、自分の目の前に千歳の顔があったからだ。
千歳が横から防木にタックルを喰らわせていた。防木は体勢を崩し、零一を掴んでいた手を緩めた。零一はそれを見計らって千歳に抱きつく。
「千歳ちゃん!ダメ!」
見ると百合愛がカッターナイフを持った手を零一の背中に向けながら突進しようとしていた。千歳は「あっ」と声を出すことしか出来ず、零一を庇おうと抱きつきながら前へ出た。
しかし、百合愛の刃先は明後日の方向へ向いた。百合愛の背後に目を向けると、千歳のタックルで蹌踉めいた防木が百合愛の肩を掴んでいた。百合愛は肩の手を勢い良く跳ね除けた。その瞬間、ただでさえフェンスに乗り上げていた百合愛は姿勢を崩した。
千歳と零一は一目散に駆けつける。百合愛はそのままフェンスの向こう側に倒れていく。
「百合愛!!」
千歳が叫んだと同時に百合愛の体が宙に投げ出されるが、そのまま下には落ちなかった。防木が百合愛の手を掴んでいたからだ。千歳はホッとしたが、それも束の間、防木も咄嗟に身を乗り出して掴んだからか、どんどん防木もフェンスの向こう側に引き摺られていく。
「まずい!」
零一の叫び声より先に千歳が防木の空いた手を掴んだ。そのまま軽い千歳の体は風船のように上に浮いてしまう。その感覚は鉄棒で前回りをした時と似ているように感じた。そんな千歳を零一が必死に抱き留める。
あんなに騒がしかった屋上がしんと静まり返った。聞こえてくるのは必死にみんなが力む声だけだった。
防木の巨体は百合愛を支えるのに無問題だが、そんな防木を細身の高校生二人が支えるのは至難の業だった。
いつまでも埒が明かない状態にみんなのそれぞれの手が緩み始める。防木は茫然と自分の手からぶら下がっている百合愛に優しく声を掛ける。
「百合愛。い、いま助けるからな」
防木が下を覗き見ると、そこには安心とは真逆の恐怖で満ちた顔があった。百合愛は掴んでいる防木の手をカッターナイフで刺した。防木は痛みで苦悶の声を上げる。
「き、気持ち悪い!触らないで!!」
そして防木の手から百合愛は離れていった。防木もその後に続く。
防木が乱暴に百合愛の後を追ったので、強力な負荷が下へ加わり、千歳は再びフェンスから投げ出されそうになった。
「ちーちゃん!」
しかし今度は後ろへ強く引っ張られた。
零一だった。
「絶対に守るからね。絶対に。」
震える千歳の手を零一はしっかり握った。
次の瞬間、零一の腕に痛みが広がった。見ると腕に切り傷が出来ていた。傷口は不気味に赤く目立っていた。零一は痛みで呻き声をあげながら後退る。なぜなら目の前にカッターナイフを持った百合愛がこちらへ歩いてきていたからだ。零一がまた一歩後ろへ下がった瞬間、頭に大きな衝撃が走った。あまりにも痛さに零一は立っていられず、屋上の床に転がる。
「手間取らせないで。早く終わらせて」
百合愛は冷たい眼差しで零一を見下ろしている。零一が頭を押さえていると今度は制服の襟首が引っ張られ、首が絞まる。「うっ」と苦しそうな声を出すが、防木は構わずそのまま零一を屋上のフェンスまで引き摺っていく。もうそこには生徒の心配をする教師の姿はどこにもいなかった。
引き摺られていく零一の後を百合愛は淡々とした様子でついてくる。どうやら自分が屋上から突き落とされるのをきちんと確認したいらしい。
防木が意識が朦朧としている零一を持ち上げる。百合愛が「モタモタしないで。」と言いながら百合愛はフェンスに手を掛け、もう一押しのところを加勢する為に少し体を乗り上げる。防木は言われるがまま零一の身体をさらに持ち上げた。それはフェンスを越える一歩手前くらいの高さだった。
「れいちゃん!」
それは零一から見て屋上の奥の方から聞こえるはずなのに、まるですぐ傍にいるかのような大声だった。零一が顔を上げると、あながちそれは間違いではなかったことに気がついた。なぜなら、自分の目の前に千歳の顔があったからだ。
千歳が横から防木にタックルを喰らわせていた。防木は体勢を崩し、零一を掴んでいた手を緩めた。零一はそれを見計らって千歳に抱きつく。
「千歳ちゃん!ダメ!」
見ると百合愛がカッターナイフを持った手を零一の背中に向けながら突進しようとしていた。千歳は「あっ」と声を出すことしか出来ず、零一を庇おうと抱きつきながら前へ出た。
しかし、百合愛の刃先は明後日の方向へ向いた。百合愛の背後に目を向けると、千歳のタックルで蹌踉めいた防木が百合愛の肩を掴んでいた。百合愛は肩の手を勢い良く跳ね除けた。その瞬間、ただでさえフェンスに乗り上げていた百合愛は姿勢を崩した。
千歳と零一は一目散に駆けつける。百合愛はそのままフェンスの向こう側に倒れていく。
「百合愛!!」
千歳が叫んだと同時に百合愛の体が宙に投げ出されるが、そのまま下には落ちなかった。防木が百合愛の手を掴んでいたからだ。千歳はホッとしたが、それも束の間、防木も咄嗟に身を乗り出して掴んだからか、どんどん防木もフェンスの向こう側に引き摺られていく。
「まずい!」
零一の叫び声より先に千歳が防木の空いた手を掴んだ。そのまま軽い千歳の体は風船のように上に浮いてしまう。その感覚は鉄棒で前回りをした時と似ているように感じた。そんな千歳を零一が必死に抱き留める。
あんなに騒がしかった屋上がしんと静まり返った。聞こえてくるのは必死にみんなが力む声だけだった。
防木の巨体は百合愛を支えるのに無問題だが、そんな防木を細身の高校生二人が支えるのは至難の業だった。
いつまでも埒が明かない状態にみんなのそれぞれの手が緩み始める。防木は茫然と自分の手からぶら下がっている百合愛に優しく声を掛ける。
「百合愛。い、いま助けるからな」
防木が下を覗き見ると、そこには安心とは真逆の恐怖で満ちた顔があった。百合愛は掴んでいる防木の手をカッターナイフで刺した。防木は痛みで苦悶の声を上げる。
「き、気持ち悪い!触らないで!!」
そして防木の手から百合愛は離れていった。防木もその後に続く。
防木が乱暴に百合愛の後を追ったので、強力な負荷が下へ加わり、千歳は再びフェンスから投げ出されそうになった。
「ちーちゃん!」
しかし今度は後ろへ強く引っ張られた。
零一だった。
「絶対に守るからね。絶対に。」
震える千歳の手を零一はしっかり握った。
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