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「ゼロから千まで」51話(終)
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「ゼロから千まで」51話(終)
「ちーちゃん。こっちの道だよ。」
「こっちだっけ?」
「もー、一回入院してるのに忘れちゃったの?」
「一回だけだからね。」
千歳は零一と一緒に病院へ向かっていた。病院を見上げると、自分が入院していた頃の部屋の窓が見えた。あそこから自分は零一たちが病院に入るところを見ていたのかと思うと感慨深い気持ちになる。そして、そこには既に別の入院患者がいることも千歳は知っている。
高校二年生の文化祭準備期間中に起きたあの日、夕日に照らされながら零一と千歳が力戦奮闘した屋上での出来事は今でも鮮明に覚えている。
防木の手を拒んだ千歳は屋上から落下した。そして、それを追うように防木も落ちていった。千歳と零一は震える手でフェンスを掴み、屋上から地面を眺めるとそこには信じられない光景があった。
なんと世羅たちと担任の他、当時、校舎の工事を行っていた工事現場の人たちがセーフティエアマットを敷いていたのだ。その上に百合愛と防木は倒れていた。
後に世羅に聞くと「屋上で揉み合いになって誰かが下に落ちたら洒落にならないじゃん?だから、全員で屋上行くより、もしもの時を考えて動いた方がいいかなぁって思って。」と気恥ずかしそうに頭を掻きながら答えてくれた。二葉も三来も担任をなんとか言いくるめ、近くの工事現場のおじさんたちになんとか貸してもらったそうだ。
三人の見事な対応に千歳と零一は驚きながら顔を見合わせて笑った。まさか悪友三人組に命を助けられる日が来るとは思ってもいなかったからだ。
「世羅たち、もう少しで駅着くって」
「じゃあ、早く向かわないとね。」
「それはそうだけど。百合愛のお見舞いも大事だからさ」
そう言ってエレベーターのボタンを千歳は押す。
「ちーちゃんは本当に温かい人だね。」と零一は千歳の手を握る。
「今日は寒くないよ?」
「温まるのは体温だけじゃないからね。」
零一は笑いながら千歳とエレベーターを降りた。
あの事件の後、防木は生徒への暴行で警察に捕まった。零一は頭に怪我を負ったが、大事には至らず今ではご覧の通り千歳の手を満足そうに握っている。
防木は百合愛のことは話さなかった。そして千歳たちも事情聴取の際に百合愛のことを話せなかった。仮に話したとして、先生が生徒に利用されていたなどとなんと言えば良いのだろうか。そして、もう一つ言えなかった理由がある。
「百合愛。」
千歳が病室のドアを開けると、そこに百合愛がいた。
ベッドの上に横たわり、まるで眠れる森の美女のように安らかに眠っていた。
あの事件からもう数年経ち、千歳たちが大学生になった今も百合愛は目を覚まさなかった。
なぜ百合愛があんなことをしたのか千歳は全てを理解することはできない。ただ、百合愛は千歳を嫌っていたわけではないこと。それだけは分かっていた。
「百合愛。」
千歳がそっと眠っている百合愛の手を握る。この間持ってきた花が萎れているのを見る限り、あれから誰も百合愛の身内は来ていないようだった。零一はコートのポケットに手を突っ込み、ドア付近でそっとこちらを見守っていた。
「あのね、百合愛。」
千歳は百合愛の顔を覗く。眠っているからか口角が緩み、どこか笑っているように見えた。その姿は数年経った今でも変わらず美しかった。
「うち、あれからたくさん変わったんだ。正直、あの時も入院するなんて考えた事もなかったし、零一と恋愛するなんて一ミリも考えもしなかった。」
「それはそれでショックだなぁ」
「だって、零一の恋愛の仕方が分かりづらくってさぁ。うちを助けようとしてたなんて全然気づかなかったよ。」
零一は「まさかちーちゃんに恋愛で苦言される日がくるなんてね」と面食らっていた。
「今まで考えなかったこと。気づかなかったこと。たくさんあるんだ。うち、たぶん、百合愛と出会った頃よりたくさん変わったと思う。でもね、変わらないこともあるよ。それはね、」
千歳は歯を見せて笑い、百合愛の頭を撫でた。
「百合愛が大事な友達ってこと。」
千歳は立ち上がり、零一の手を取った。時間はちょうど正午になるところで、窓から射し込む日差しが白い壁を反射して眩しかった。
「百合愛。うち、もう行くね。」
「ちーちゃん。こっちの道だよ。」
「こっちだっけ?」
「もー、一回入院してるのに忘れちゃったの?」
「一回だけだからね。」
千歳は零一と一緒に病院へ向かっていた。病院を見上げると、自分が入院していた頃の部屋の窓が見えた。あそこから自分は零一たちが病院に入るところを見ていたのかと思うと感慨深い気持ちになる。そして、そこには既に別の入院患者がいることも千歳は知っている。
高校二年生の文化祭準備期間中に起きたあの日、夕日に照らされながら零一と千歳が力戦奮闘した屋上での出来事は今でも鮮明に覚えている。
防木の手を拒んだ千歳は屋上から落下した。そして、それを追うように防木も落ちていった。千歳と零一は震える手でフェンスを掴み、屋上から地面を眺めるとそこには信じられない光景があった。
なんと世羅たちと担任の他、当時、校舎の工事を行っていた工事現場の人たちがセーフティエアマットを敷いていたのだ。その上に百合愛と防木は倒れていた。
後に世羅に聞くと「屋上で揉み合いになって誰かが下に落ちたら洒落にならないじゃん?だから、全員で屋上行くより、もしもの時を考えて動いた方がいいかなぁって思って。」と気恥ずかしそうに頭を掻きながら答えてくれた。二葉も三来も担任をなんとか言いくるめ、近くの工事現場のおじさんたちになんとか貸してもらったそうだ。
三人の見事な対応に千歳と零一は驚きながら顔を見合わせて笑った。まさか悪友三人組に命を助けられる日が来るとは思ってもいなかったからだ。
「世羅たち、もう少しで駅着くって」
「じゃあ、早く向かわないとね。」
「それはそうだけど。百合愛のお見舞いも大事だからさ」
そう言ってエレベーターのボタンを千歳は押す。
「ちーちゃんは本当に温かい人だね。」と零一は千歳の手を握る。
「今日は寒くないよ?」
「温まるのは体温だけじゃないからね。」
零一は笑いながら千歳とエレベーターを降りた。
あの事件の後、防木は生徒への暴行で警察に捕まった。零一は頭に怪我を負ったが、大事には至らず今ではご覧の通り千歳の手を満足そうに握っている。
防木は百合愛のことは話さなかった。そして千歳たちも事情聴取の際に百合愛のことを話せなかった。仮に話したとして、先生が生徒に利用されていたなどとなんと言えば良いのだろうか。そして、もう一つ言えなかった理由がある。
「百合愛。」
千歳が病室のドアを開けると、そこに百合愛がいた。
ベッドの上に横たわり、まるで眠れる森の美女のように安らかに眠っていた。
あの事件からもう数年経ち、千歳たちが大学生になった今も百合愛は目を覚まさなかった。
なぜ百合愛があんなことをしたのか千歳は全てを理解することはできない。ただ、百合愛は千歳を嫌っていたわけではないこと。それだけは分かっていた。
「百合愛。」
千歳がそっと眠っている百合愛の手を握る。この間持ってきた花が萎れているのを見る限り、あれから誰も百合愛の身内は来ていないようだった。零一はコートのポケットに手を突っ込み、ドア付近でそっとこちらを見守っていた。
「あのね、百合愛。」
千歳は百合愛の顔を覗く。眠っているからか口角が緩み、どこか笑っているように見えた。その姿は数年経った今でも変わらず美しかった。
「うち、あれからたくさん変わったんだ。正直、あの時も入院するなんて考えた事もなかったし、零一と恋愛するなんて一ミリも考えもしなかった。」
「それはそれでショックだなぁ」
「だって、零一の恋愛の仕方が分かりづらくってさぁ。うちを助けようとしてたなんて全然気づかなかったよ。」
零一は「まさかちーちゃんに恋愛で苦言される日がくるなんてね」と面食らっていた。
「今まで考えなかったこと。気づかなかったこと。たくさんあるんだ。うち、たぶん、百合愛と出会った頃よりたくさん変わったと思う。でもね、変わらないこともあるよ。それはね、」
千歳は歯を見せて笑い、百合愛の頭を撫でた。
「百合愛が大事な友達ってこと。」
千歳は立ち上がり、零一の手を取った。時間はちょうど正午になるところで、窓から射し込む日差しが白い壁を反射して眩しかった。
「百合愛。うち、もう行くね。」
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