設計士 建山

如月 睦月

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箱3

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神林邸の中を細かく見て回る2人だったが、別段おかしな点が見つかる事は無かった。『礒志田さん、小屋を見ましょうか』『ええ、そうですね』いよいよ礒志田から聞いていた「おかしい」と言う小屋へ向かう事になった。



小屋は玄関からでて左、家屋と隣接した場所に位置する。

『見た目には何もおかしなところはありませんね』



『建山さん、中ですよおかしいのは』



『ええ、そう言ってましたね、入りましょう。』

海外の納屋のような大きな扉だが、作りは海外のそれとは違いしっかりしていた。父親の腕の良さをここでも知ることになる。湿気や乾燥で変形することを計算に入れたとしか思えない扉の立ち振る舞いは、経月劣化を微塵も感じさせることは無い。鍵を開けると吹き抜ける様に冷気を感じた。



『礒志田さん、なんですかねこの臭い』



『ん?なんです?カビですか?』



『いや…これは…あ!火葬場の臭いですね』



『穏やかじゃないですね、私にはわからないですけども…』



中に入ると礒志田のような素人でもわかるほど違和感があった。



『壁…なるほど…』



『狭いでしょ?』『ええ、妙ですね』



『息子の…えーっと、神林さんに連絡とって貰えます?』



『ええ、何を伝えたらいいです?』



『内壁を剥がして壁を見たいと、なんだったら壁を壊しても良いかと』



『えー…直せと言われたらお金出してくれるんですか建山さん』



『出すわけないでしょう、礒志田さんの調査ですから。出来ないなら私が協力するのはここまでですけど、お任せしますよ、礒志田さんの調査ですから。さ・が・し・だ・さ・ん・の・調査です・か・ら・ね』



『二度も言わなくても…わかりましたよ聞いてみましゅよ。』



『三度ですよ』



外に出て礒志田が電話をしている間、建山は小屋の中を歩いた。荷物は何もない、伽藍洞と言うやつだ、だが、それは荷物を運び出したと言う状況ではなく、どう見てももともと開けていたと感じられた。

『地面に物をずらしたような痕跡がなく、壁に何かをぶつけたような形跡もない…つまり内側の壁を改造した時点で、何も物を置かない事になったと言う事だろうか…いやまて…』



正面の壁の下、地面の中央部に四角いものを置いてあった痕跡を見つけた。積もったホコリの層が少しだけ薄いのだ。



『なんだろう…まさか告様…いやまさかな』



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『建山さん!連絡とれました、壁壊してもいいそうでやんす!』



『やんすって…なに人ですか、じゃぁ明日、道具持ってもう一度来ましょう、そうですね…朝10時頃でいいですかね、現地集合で』



『乗せてくれないんですか?建山さんお願いしましゅよホントにいちゅもいちゅも!なんで乗せてくれないんですか』



『だって礒志田さんうるさいんだもん』



『う…う…うるさいって!しかもだもんって!子供じゃないんですから!』



『私は静かに乗りたいんですよ、邪魔しないで下さい』



『建山さん、はっきり言います!明日乗せてください!』



『嫌です』



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翌朝 午前9時30分



『いやぁ建山さんの車は乗り心地イイですね~エンジンの音もイイし、なんだかんだで乗せてくれたんだから優しいなぁ~だからモテるんですねぇ、ベッドの上でも沢山の女性を乗せてるんでしょうねぇ~』



『そういう下品な話は嫌いなんですよ、下ろしますよ』



『あ、いや、調子に乗りましたすみません。しかし隣町ってだけでこうも景色が違うんですね~』



『そうですね、不思議な感覚ですよね、数キロ違うだけでまるで異国の様な、文化すら違う気がしますよね、礒志田さんはもっとあちこち行くから色々見て来たんでしょうね』



『んまぁ仕事で行くのでゆっくり観光なんかできませんけど、そのぉ~文化の違い?みたいなものは感じますよ、色んな街や村で独特の文化が根付いてましてね、2人目の子供を授かって、その2人目が男の子だったら、神がいるとされている川に流すとかありましたよ』



『そういうのって、警察が動かないものなのですか?』



『誰も被害届出しませんしね、本当に今でも行われていたとしても、それを外部の人間には話してくれませんし、私が耳にするのはあくまでも風習ですから。』



『それを礒志田さんは刑事事件とかにするとかしないものなんですか?』



『私は依頼された事以外は首を突っ込みません、それやっちゃうと信用問題でしょう、私の界隈ではタブーなんですよ、だいいち証拠が無いんで憶測だけでモノを言っても警察は動きません。』



『いいんですかねぇそれで』



『私は仕事として、見つめる目を持っていますが、逸らす目も持っています、この仕事はその目を使い分けることが大事なんです』



『かっこよく言ってますけど、事なかれ主義じゃないですか』



『なんでも首突っ込んで意見すればいいってものじゃないでしょう、その村の風習を表に出して叩いて、その後私はどうするんですか?なんの利があるんですか?正義を貫いて私の名前がメディアに出て職を失って、そんな騒ぎになったら再就職だってできませんよ、村の人々が晒し物になっては壊滅して、私は外を歩けない生活になる、そんな世界で生きていける自信が無いんですよ。』



『そう言われると確かに諸刃の刃ですね…礒志田さん、正義って何なんでしょうね』



『心にしっかり持つべきだけれど、振りかざしてはいけない刃…でしょうかね』



『深いですね、そしてちょっと不快でもあり、不可解な感覚も覚えますね』



『そうですね、何事もほどほどにって事でしょうかね』



『自分も守らなくてはいけませんからね、貫く事で自分が破滅することだってある、刺し違えるだけ価値のある正義なのか見極める事も大事…かぁ…』



『それが歯がゆいときもありますけどね』



『礒志田さんとこんな話ができると思いませんでしたよ、乗せて良かったです』



『でしょう?私だってヘラヘラ生きてるわけじゃないんですから』



『すぐ調子に乗る!』



『しゅみません』



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午前10時 神林邸



建山の愛車、フィアット NUOVA(ヌォーヴァ)500から工具を運び出す。



『建山さん、ほんとこの車、大事にしてますよねぇ、本当は車好きなんでしょう?』



『いえ、全然』



一点を見つめたまま、そそくさと持って来たツナギに着替えを始める建山。

つられるように着替えを始める礒志田だったが、ジャージだった。



『礒志田さん、パツパツですね』



『ええ、高校の時のジャージです』



『ほんとだ、胸に礒志田って書いてますね、なんでひらがななんですか?』



『礒志田のサガの字がいつも滲んで読めなくなるんですよ、画数が多くて』



『生地を変えればいいのに』『は、はぁ』



今更言われても困る言葉を残してスタスタと足を運ぶ建山に、じわじわとその言葉に面白さを感じてきてニヤニヤしながら付いていく礒志田。

真っすぐ小屋に向かい、その扉の前で荷物を下ろすと、建山が作業前のマルボロを1本吸う、ポニーテールにツナギ、煙草、そして携帯灰皿に吸い殻を入れて粉塵マスクをする一連の流れに「カッコ良さ」を感じる礒志田。だが礒志田もウェービーな金髪ロン毛に黒ぶちメガネ、そして無精髭と言うなかなかなイケオジ、残念ながらパツパツジャージだけが敗因だった今日の彼、そこが彼の愛すべきキャラクターでもあるのだが。



『礒志田さんもしたほうが良いですよ』



『え?』『マスク』



『はい、ありがとうございます、なんかドキドキしてきましたね』



『いえ、全然』
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