設計士 建山

如月 睦月

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本間間

本間間 1

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本間間(ほんけんま)



京間とも言い、6尺3寸×3尺1寸5分(191cm×95.5cm)



のサイズ、京都をはじめ関西方面 で使われている。





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一級建築士の建山斗偉志(たてやま といし)32歳。





昭和のいわゆるバブル期、小さいながらも事務所を構え、なんとかかんとか軌道に乗っていた『建山設計事務所』。従業員はなし、乗っている車は1957年型2代目フィアット NUOVA(ヌォーヴァ)500。特に車好きと言うわけではないが、小さなこの街を移動するにはコンパクトで良く、何よりフォルムが気に入っていた。





肩まで伸びたウェービーな髪、前髪を少し垂らしてポニーテールにするのが建山のこだわりだ、朝起きて一連の朝の支度が終わったら髪を縛る、これが建山のスイッチオンなのだ。





スイッチをオンにしたら珈琲を入れる、お気に入りの『種田コーヒー』のモカブレンドを口にしながらマルボロメンソールに火をつけると携帯の電話が鳴った。





『ふぅ~…もしもし、建山設計事務所です』





『あ!建山さん!どうも!礒志田です!さ・が・し・だ!』





『さがしだ…さん?失礼ですが…』





『嫌だなぁ建山さん、礒志田 奏作(さがしだ そうさく)ですよ』





『あぁ!礒志田探偵事務所の!』





『思い出していただけましたららら!』





『その活舌の悪さは間違いありませんね、礒志田さんですね、ははは、で?ご用件は?』





『ご用件は?4年しか経過していないのに冷たいなぁ、いやね、建山さんの街に良い物件があったんで、この度引っ越すことになったんですよ』





『え?あ、そうなんですか!へぇ~、探偵事務所ですか?』





『ええ、住居兼事務所なんですけれろもれん』





『となると…大きさ的にあそこかな?喫茶ひろみの~』





『そうそう、そこの隣です、流石設計士、その街は知り尽くしてますね』





『いえいえ、狭い町ですからね』





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カランカラン





『いらっしゃいませ』



優しい音を奏でるドアベルが鳴ると、鼻にかかった甘ったるい声がした。



喫茶「ひろみ」に足を踏み入れた男は、店主のひろみの容姿に一瞬見惚れた。



黒髪のロングヘアーが良く似合う、身長170cm程のスレンダーボディ。



ぱっちりとした少し茶色い瞳、ぽってりとした唇、笑顔には悲しさがあり、



儚げな雰囲気の女性だがお尻は大きくて少し艶っぽさを感じた。





フレームの太い黒メガネに無精ひげを蓄えた、黒いロングコートの男は、その金髪のくせ毛をかき上げてオールバックにすると、後ろ髪をバサバサさせてそのくせ毛を遊ばせた、それが彼の髪のセットの仕方だった。コートの襟を正すと、曲がったネクタイの結び目はほったらかしで『エスプレッソひとつ』とひろみに注文した。





『はーい』そう返事をすると、ひろみは右手をあげた。





コト





とてもいい香りのエスプレッソが男の前に置かれ『ごゆっくりどうぞ』と言い残すと、ひろみはその場を離れた。カウンターに戻ったひろみはコップを乾拭きしながら『この街の人じゃないわね、旅行?』と声をかけた。





『ええ、まぁ、そんなところれす』





『何もない街でしょう』そう言うとひろみは微笑んだ。





『ああ、いえ、そんなことは』ごまかすつもりでとっさに口を付けたエスプレッソはとても美味しくて驚いた。



『なんて美味しいんだ…』





『美味しいでしょう?人を殺した後に飲むともっと美味しいわよ』





『え!?』





『ふふ、冗談よ、冷たい熱帯魚って映画でね、人を殺してバラバラにした後、その犯人は必ず珈琲を嗜むのよ、恐い映画だけれど、コーヒーショップのオーナーとしては、本当に人を殺して切り刻んだ後に飲む珈琲は美味しいのかな?って』





『面白いですね、理不尽だけどスポーツ後の煙草も美味しいですからね』





『そうそう、物事って見方ひとつなのよね』





カランカラン





『あらぁ!建山さん!』





『ひろみさん、モカ1つ下さい』





『はぁーい』



ひろみは返事をしながら右手をあげる。





『お元気でしたか』



建山が礒志田にそう声をかけると、礒志田の正面に腰かけた。





『元気元気!建山さんは?』





『まぁまぁってところですかね』





『あら!イイ男2人はお知り合いだったの!?類は友を呼ぶってこのことなのね、はいモカどーぞ。』





『ありがとう、ひろみさん。で?礒志田さん、事務所兼住宅買うのはわかりましたが、私に何を?』





『それなんですけどね、実際購入して半年経過してるんですよ、追っている浮気調査の仕事が長引きましてね』





『ええ』





『でですね、この半年一度も家に入ることが無かったのに、電気代が毎月軽く20.000円は超えてるんですよ、まぁちゃんと払ってましたけど、それってどういう事だと思います?』





『それは・・・電気屋さんの範疇では?』





『いやぁでも折角だからまずは建山さんにと思ってさぁ、料金は支払いますから一緒に家を見てもらえませんかね。』





『家を見るくらいでお金は取らないけど私に分かりますかねぇ・・・』





コト





『はい建山さん、モカね。』



ひろみが建山の前に静かに珈琲を置いた。





『ひろみさんの珈琲は相変わらずいい香りですね』





『人を殺してバラバラにした後に飲むとより一層上手いそうですよ建山さん、ね!ひろみさん』





『嫌ですわ…えーっと…』





『礒志田です』



背筋を伸ばし首を斜め45度に傾け、白い歯を少しだけ見せながら礒志田は名刺を人差し指と中指で挟み、右手でシュ!と差し出した。左手にお盆を抱え、右手で受け取ったひろみは名刺を見つめた。





『あら、探偵さんなの?探偵と設計士が2人でひそひそと何のお話かしら?物件詐欺みたいな?』





『ひろみさん…』



割って入ろうとした建山を遮るように礒志田が『仕事の話はできないんですよ、すみませんね』と切って捨てた。ヘラヘラしているようだが仕事には筋を通す男なんだと知り、建山は口元で静かに笑った。





『あ、私ったらごめんなさいね立ち入ってしまって、そんなつもりじゃなかったのだけれど…あの…』





『いえいえ、いいんですよ、こちらこそそんな大事な話なら店でするなって話しですよね、ほんと申し訳ないです。』



礒志田をフォローするかのように建山がその場を収めた。





ひろみが立ち去り、気を使ったのか奥へと姿を消した。





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念には念を入れて2人は一層小声で話し始めていた。





『電気代で2万なんて大きいですよね』





『そうなんですよ、不動産屋に言っても所詮は仲介ですからね、売ってからの事は知りませんよってなもんでしてね』





『見たところ何もないんでしょう?』





『いやぁお恥ずかしながらまだ見ても居ないんですよ』





『え?何やってるんですか!あなたの会社であり住居でしょ?』





『こ…怖いじゃないれすか!』





『いい大人が何言ってるんです?』





『誰か住み着いてたらどうします?ホームなレスとか』





『あー確かにそっちなら怖いですね、わかりました一緒に見に行きましょう、久しぶりですからここは私が持ちますよ』





『ご馳走様です建山さん』



2人は席を立ち、建山がカウンターにお金を置き、厨房に居るひろみに声をかけた。『ひろみさんありがとう!悪かったね、ごちそうさま、お釣りいらないから』





『はーい!また来てね、お釣りは建山貯金にしておくわね』



ひろみが厨房入り口ののれんの隙間から顔だけ出して微笑んだ。
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