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第七章 共闘
8 ミッションM
しおりを挟む翌朝。
とんでもない体の重さを覚えつつ、リョウマは目を覚ました。
昨夜は最終的に意識をとばしてしまうまであの男に抱かれていた、という記憶がうっすらと頭の奥からよみがえってくる。
「……あれ? エル?」
窓の外から差し込む陽光の明るさから、すでに日はだいぶ高く昇っているらしいのがわかった。リョウマは重だるい体をどうにかこうにか寝具から引きはがし、ゆっくりと寝台から出た。
「いま何時だ? なんか変だな」
そうなのだ。いつもなら早々に「朝の御仕度に参りました」などと言って起こしにきているはずの使用人たちが、今朝に限ってまったく現れない。普段なら、どんなに眠くて寝かせてほしくても「いい加減起きられませんと」などと小言を食らい、たとえば執事長ガガノフあたりに布団をひっぺがされるはずなのに。
いつものように魔王がきれいにしておいてくれたらしく、体は十分清潔だった。それで置いてあった衣服を適当に身に着けて廊下へ出ると、扉の前には護衛のダンパが立っていた。彼だけはどんなことがあろうと、リョウマの側を離れることがないのだ。
「あ。おはよ」
「おはよう存じます、リョウマ様」
「みんな、どしたの? なんでだれもいねーの」
廊下のあちこちに視線を走らせつつした質問には答えず、ダンパは穏やかな声でただ一言「朝食に参られますか」と訊いてきたのみだった。
リョウマのイヤな予感は加速する。これは明らかにおかしい。なにか、いつもとは違う事態が起こったのに違いない。
「ダンパさんっ。何があった? ちゃんと教えてくれよ」
「まずは朝食を。そのあとで、トリーフォン閣下からお話があるとのことです」
「トリーフォンから?」
どきん、どきんと心臓の音が早くなってくる。とにかく、ダンパは「まずは食事を」の一点張りでどうにもならないので、仕方なく朝餉を供される部屋に向かった。
そこでも、普段ならいるはずの使用人の数が明らかに少なかった。ざっと見たところ、いつもの半分ぐらいの人員しかいない。リョウマは口の中に無理やり食物を押し込むようにして食事を済ませ、すぐに席を立って、ダンパに案内されるままとある部屋に向かった。
そこは魔王城の中でも、政務を中心に行われている場所の一角だった。歩いているうちにも、文官や士官たちがなんとなく緊張した面持ちで忙しなく行き来するのが目立った。
(いったい、何があった……?)
案内された部屋に入ると、そこにはすでに将軍トリーフォンが待っていた。傍らで執務の手伝いをしていた文官、武官たちがすぐに人払いされ、部屋にはトリーフォンとリョウマ、そしてダンパの三名だけが残される。
「よく来てくれた」
リョウマが応接セットのソファに腰をおろすと、茶を供するような手間もかけず、トリーフォンはすぐに本題に入った。
「魔王陛下より、そなたに伝言を頼まれている。落ち着いて聞いてもらいたい」
「伝言っ? って、どーゆーことだよ。エルがどっか行ったのか?」
「陛下は早朝、出立された。彗星の軌道変更、あるいは破壊作戦──我らはこれを『流星』から『ミッションM』と呼称しているが──これに、御身みずから出向かれたのだ」
「なんっ……?」
衝撃だった。
「ちょ……ちょっと待てよ。ダイダロスのおっさんの作戦結果は、今日わかるはずじゃ」
トリーフォンとダンパがぴくりと反応し、一瞬だけ視線を交わし合うのが見えた。
「……そなた。陛下から聞き及んではいなかったのか」
「な、なにをだよっ」
「ダイダロスの作戦は失敗した。残念ながらな。その報はすでに、一昨日の時点で作戦司令部にもたらされていた」
「なっ……」
「あの野郎、嘘をついたのか」。まず思ったのはそれだった。
隠し事をするのは、多くはうしろめたいことがある場合だろう。だがこの場合、きっとそれはリョウマをここへ置いていくためだったのに違いない。そうでなければ自分は、「一緒につれていけ」「一緒に戦わせろ」と相当ゴネたに違いないからだ。
「それほど事態は切迫してきているということだ。魔王国民の宇宙への脱出作戦も、順次始まっておる。パニックを避けるため、多くは極秘裏にな。そなたら《レンジャー》には、速やかに人間の民の避難誘導に当たってほしいとの仰せである」
「くそっ……!」
思わずリョウマはテーブルに拳を叩き落とした。
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