「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ

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すべては愛のために

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「それでも温情をやったんだぞ。長く俺の友人だったことは間違いないからな。ロスバーン家の令嬢と結婚して、伯爵家を継げばいいと」
「確かに温情だけどね。あの人が当主になるなんてありえなかったから。でも相手は馬鹿だもの、そんなことわからないわよ」
「ああ。貴族という立場にいられないほど、馬鹿だった」
「そうよ。残念だけれど」
「全く残念だ。だが、本人は満足だっただろう。……愛に殉じて、死ねたんだから」

 俺は頭を押さえた。
 痛い。本当に、痛い。傷口が割れるように痛んで訴えている。

 そう、殴られたのだ。
 この部屋だ。呼ばれて、話し合ったのだ。俺は絶対にミイを諦めるつもりはない。どうしてでもシェリアを追い出す。そして必ずミイを迎えに来ると、言った。

『それならもう、この俺の手ずから、愛に殉じさせてやろう』

 殿下がそう言った。
 残念そうに。
 そして俺を剣の鞘で殴ったのだ。王太子の証たるその剣は汚れることなく、硬い鞘が俺の頭を打ち据えた。何度も。
 何度も。
 意味もわからず恐慌する俺に、何度も!

「君への愛だぞ、ミイ」
「私が欲しいのはあなたの愛だけ。だいたいね、あなたの言うことを聞いた私も悪かったけど、私を愛してる人をお飾りの夫にするなんて無理だって」
「でも、一番信用できる友人だと思っていたんだ」
「ええ、そうね。かわいそうに」

 二人は勝手なことを言っている。俺はぐらぐらと視界を揺らしながら、彼らに近づいた。

「今の婚約者はどうだい?」
「いい感じよ。上手くやっていけると思うわ」
「そうか。それは、よかった。……ほんとは君と結婚したかった」
「いいのよ。あなたは王太子様だもの。愛と結婚は別物よ、そうでしょ?」
「もちろんだ」

 愛を語っている。
 そんな愛は知らない。そんなものが愛であるものか。

「ああ、ミイ……」

 愛しているんだ。
 俺は彼女に近づいた。彼女にどれだけ邪魔者がくっついていても、今の俺を遮ることなどできない。

 俺はミイに口づけをした。

「……ひっ!?」

 ミイの体が震える。構わず深く愛を求める。愛している。
 愛しているんだ。
 君が欲しい。
 永遠に、わずかの隙間もなく、君とともにいたいのだ。

「ミ、ミイ!? 一体……なっ!?」

 ミイの体には熱が多すぎる。
 俺はとてもその熱を欲していた。命そのもののような鼓動、熱、エネルギー。どうかそれを俺にくれるように、唇を吸った。

「ハ、ハルクレード!? おまえ、おまえは、死んだ……っ死んだはずだ! 死んだんだ!」

 男が誰かの名を呼んだ。
 そして俺を震えながら見ている。

 ああ。
 そうだったな、俺はそういう名前だった。
 そしておまえの友人だったな。

 そうか。
 それならおまえも一緒に行くか。俺たちはとても仲が良かったから。三人いればずっと楽しく過ごせるだろう。

 最後に弟とシェリアのことを思い出した。
 式に出席したというのに、祝福してやれなくて悪かったな。




 王太子ガルコスの死が発表されたのは三日後のことだった。死因は不明。その体からは血が失われ、痩せこけて恐怖の形相を浮かべていたという。その場には女もいたが、そちらも同じ状態だった。
 ガルコスが恐れられ、それだけ恨まれていたのは周知のことだ。貴族たちは、いったいどんな恐ろしい毒が用いられたのだろうと噂した。
 そんな噂も、時が経てば忘れられていく。
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